おバカな私と友人その他

自動販売機( 1 / 1 )

 私は現在(1999年)会社の寮に住んでいる。
 この寮の一階は談話室などがある共用スペースになっていて、そこに自動販売機があるのだ。ジュースはもちろん煙草やビール。カップラーメンの自動販売機等もあり、多種多用な自動販売機が私たち寮生を迎えてくれる。
 つい最近この自動販売機達はパワーアップした。千円札が使えるようになったのだ。今までは千円札が使えず、小銭が無い状況に陥ったとき等は自動販売機が利用できなかった。私はそのおかげでジュースが飲めずに苦汁をなめた記憶が多々ある。今回の千円札解禁には両手を上げての大喜びだ。先日のことである。
 PM11:00、喉の乾いた私はコンビに行くのも面倒なので一階の自動販売機でジュースを買うことにした。
 財布を見ると小銭が140円しかない。
“このまま小銭を使ってしまってはちょっと不便だな”
 そう考えた私は、さっそく千円札を利用してジュースを購入することにした。
「ウィーン」
 漱石さんが気持ちよく吸い込まれていく。このまま買うとじゃりじゃりお釣りが出てくるので十円玉を足して計1010円を投入した。そうそう、寮の自動販売機のジュースは110円で販売されているのだ。
 さっそくオレンジジュースを購入。
「ピッ、ガチャン」
 私は出てきたオレンジジュースを片手に持ち、お釣りの返却レバーを回した。
 ちなみに私の計算ではこうである。
“1010円で110円のジュースを購入したからお釣りは900円。釣銭は100円玉9枚か、もしかしたら500円玉と100円玉かも、それだとちょっとうれしいな”
 そういう期待をこめながら返却レバーを回したのだ。金額表示は900円を示している。
「ガション・ガション・ガション・・・・」
 釣銭がでてきた、釣銭の表示は、
「900・800・700・・・」
“ちっ、500円玉はなかったのか”
 少し悔しがりながら残りの釣銭が出てくるのをまっていた。
「700・600・500・450・・・」
“えっ?”
 突然自動販売機の100円釣銭切れランプが点灯した。
“うっそ、まじ? おいおい”
「450・400・350・300・・・」
 50円玉がでてきたのである。なんてこったまったく。しょうがないなぁと思っていたその時、
「300・290・280・270・260・・・」
“はっ?”
 私は驚愕した。
“何? いったい何ごと。290・280? うっそ、まじで?”
「260・250・240・・・」
 なんてこった。私は一瞬何が起こっているのか理解できなかった。今まで自動販売機の釣銭表示で「290円」などという表示は見たことがない。私の動きはその場で止っている。
“もしかして10円玉?”
 私は少し顔をひきつらせながら釣銭の出る箇所をチラッとのぞいた。
“オーマイゴット!!”
 見ると茶色の硬貨がちゃりちゃり出てきているではないか。そうなのだ、のこり300円全て10円玉による支払いだ。駄菓子屋のおばちゃんもびっくりの枚数である。私はものすごい脱力感に襲われた。
“だれか冗談と言ってくれ・・・”
 しかし、釣銭の表示は無情にも10円カウントダウンをつづけている。
「ガション・ガション・ガション・ガション・・・」
 釣銭を出す機械音だけが廊下に鳴り響いた。私は茫然と釣銭表示を見ているだけである。
「30・20・10・・・」
“やっと、終わった”
 私はこの現実を忘れたいと思いさっさと釣銭を持ってこの場を立ち去ることにした。
「ガシャガシャガシャ」
“あれ? ちょっと待ってよ”
 取れない。釣銭が取れないのである。みなさんご存じのとおり、自動販売機の釣銭の返却場所には蓋がついている。これは勢いよく出てきた釣銭が外にこぼれないように外側に開くのではなく“内側に開くようにできている”のだ。
 そう、釣銭を取り出す時は一度蓋を内側に押し込め、それによって出来たスペースを利用して釣銭をとりだすのである。
 想像してほしい。100円玉(4枚)+50円玉(4枚)+10円玉(30枚)=38枚の硬貨があの小さなボックスの中にひしめきあっているのだ。当然、
“内側に蓋が開くわけなかろぉ~~~~~!!!”
 私は叫びにはならない叫びをあげ、釣銭の蓋と格闘を開始した。
「ガショッ! ガショッ! ガシッ! ゲシッ! こんにゃろ、うりゃ、そりゃ!」
 全然とれない・・・・。
“なんてこったい、なんで私はこんな夜中に自販機の前にうずくまり、必至に釣銭をとってるんだろう・・・”
 だんだんと自分が情けなくなってきた。
“くぅー、なんなんだまったく。このアホ自販機め。ぶっ壊すぞ。”
 私はさらに格闘を続けた。こうなりゃ、やけである。何が何でも全ての釣銭を取り出すのだ。
 しかし一向に釣銭がとれる気配はなく、私は力技をやめ頭を使うことにした。
“さて、どうしよう。これを取り出すには・・・・・・おっ!”
 その時である。私の目に、となりのカップラーメンの自動販売機が目に入った。
“これだ・・・ふふっ”
 私はカップラーメンの自動販売機に備え付けの割りばしを手にした。ぱきっと割り箸を割るとさらに縦に裂いて薄くした。
“これでよし。”
 私はさっそく作成した「割りばし裂いたぞ棒」を利用し釣銭を取り出すことにした。
「ガチャガチャガチャ、ガチャガチャガチャ、チャリーン・・・」
“おぉ!”
 ついに取れた10円玉が一枚でてきたのだ。
“やった、万歳。ざまぁ~みろ、このアホ自販機め”
 と私はわけもわからず勝ち誇っていた。
 一枚とれてしまえばあとは楽だ。同じ要領でさくさく釣銭をとりだすと私は財布に釣銭を入れた。
“う~ん、これは困った”
 財布の小銭は一気に超満員。乗車率300%だ。ぶくぶく太った不細工な財布も情けない。
“小銭がないと困ると思ったけど、有りすぎるのも困るな・・・あっ!”
 よくみるとお札が万札しか入っていない。最後の千円札だったのだ。
“なんてこったい、まったくもうこれじゃ簡単な買い物するとき気が引けるじゃん”
 ジュースとパン。300円くらいの買い物に1万円札を出すのはちょっと気がとがめる。
 それが小さなお店だとなおさらだ。お店の人に、
「小さいのありません?」
 などときかれたりもする。
“ん? まてよそのときはこの10円玉使うか。”
 30枚の10円をじゃらじゃらさせながら自販機を後にした私であった。
ひらくん
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