空乃彼方詩集

な行( 5 / 11 )

年末

暮れてゆく
暮れてゆく
今年もまた暮れてゆく
来年の話をしても鬼は真顔だ
たまに寂しげに微笑むだけ


当然の権利のように苦しみや悲しみは降り積もり
その上を孤独が土足で歩いてゆく
生きてゆこうとするならば
もうこれらの解決の糸口はない
僕の死とともに一緒に消えるだけ
その時、この世界に残せるものはあるだろうか
あるとすれば、これまで降り積もった物のひとかけらを光に変換する魔法


今年もあと三日か
地層に組み込まれる世界中の数えきれない小さな物語たち
さよなら

な行( 6 / 11 )

眠り海

君の最後の言葉は何だったかな
あまりに突然の別れだったから
何気なく聞き流した言葉を探そうとする
無駄な試みと分かっていても

日々の生活や努力を積み重ねても
巨大な力を前にしては
なす術もなく

太陽の邪魔をする雲はない
美しく孤独な青い空
海が穏やかに輝く
眠りにつき、小さな寝息を立てているよう

楽しくて笑顔が絶えない人生も
苦しくて心を支えきれない人生も
等しく意味がある

長く生き延びた命も
幼く散った命も
等しく価値がある

君に会いに行くよ
いつか会いに行くよ
何処にいるかは知っているから
あのちっぽけな物語の続きをしよう

な行( 7 / 11 )

何と例えればいいのだろう

その美しさを何と例えればいいのだろう
ふさわしい言葉を見つけるのが難しい
遠い昔、小学校の苦手科目の宿題のよう
それでも間違い覚悟でひねり出す
霞の空の向こうにぼんやりと透ける真実

その強さを何と例えればいいのだろう
ふさわしい言葉を見つけるのが難しい
遠い昔、迷子になった時の五差路のよう
それでも間違い覚悟でひねり出す
容易に開けられても決して動かすことはできない巨大な冷蔵庫

その哀しさを何と例えればいいのだろう
ふさわしい言葉を見つけるのが難しい
遠い昔、夏祭りですくい上げた金魚の飼育のよう
それでも間違い覚悟でひねり出す
訳も分からず檻に入れられた人たちの媚びた笑顔

な行( 8 / 11 )

鼠空

「もう一度、立ち上がりなさい」
そう言い残し、あなたは足早に立ち去った
凛とした眼差しにかすかな憂いを含んでいた
貴方の残像を思い起こし、僕は立ち上がろうとする

重々しく垂れた低い鼠空
立ち上がったはいいが、どこへ歩けばいいのかわからない
下手に歩き出し、目的地から遠ざかる結末を恐れる
回り道している時間はもう残されていない
太陽を地図にすればいいと空を見上げ
うんざりの鼠空にため息を漏らす

生温い雫が掌に落ちた
雨が落ちたのか
知らずに零れた涙か
人は生きる苦しさに並び立つ喜びを探し旅をする
今日こそは見つかるよと励ましながら
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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