な行( 7 / 11 )
何と例えればいいのだろう
その美しさを何と例えればいいのだろう
ふさわしい言葉を見つけるのが難しい
遠い昔、小学校の苦手科目の宿題のよう
それでも間違い覚悟でひねり出す
霞の空の向こうにぼんやりと透ける真実
その強さを何と例えればいいのだろう
ふさわしい言葉を見つけるのが難しい
遠い昔、迷子になった時の五差路のよう
それでも間違い覚悟でひねり出す
容易に開けられても決して動かすことはできない巨大な冷蔵庫
その哀しさを何と例えればいいのだろう
ふさわしい言葉を見つけるのが難しい
遠い昔、夏祭りですくい上げた金魚の飼育のよう
それでも間違い覚悟でひねり出す
訳も分からず檻に入れられた人たちの媚びた笑顔
な行( 8 / 11 )
鼠空
「もう一度、立ち上がりなさい」
そう言い残し、あなたは足早に立ち去った
凛とした眼差しにかすかな憂いを含んでいた
貴方の残像を思い起こし、僕は立ち上がろうとする
重々しく垂れた低い鼠空
立ち上がったはいいが、どこへ歩けばいいのかわからない
下手に歩き出し、目的地から遠ざかる結末を恐れる
回り道している時間はもう残されていない
太陽を地図にすればいいと空を見上げ
うんざりの鼠空にため息を漏らす
生温い雫が掌に落ちた
雨が落ちたのか
知らずに零れた涙か
人は生きる苦しさに並び立つ喜びを探し旅をする
今日こそは見つかるよと励ましながら
な行( 9 / 11 )
日記帳
梅雨の合間の
履き古したジーンズのような空から
降ってくる焼け付く光
離れてた雲が慌てて寄り添い
まだ少し早かろうと太陽を睨む
季節が積み重なってゆくのは
許されているようで逃れられず
逃れられないようで許されている
つかみどころのない流れもの
だから人は数字でくくり
日々の生活を具体的にしている
曜日までつけてめり張ってみせる
僕の心にある日記帳は色あせて
ところどころ抜け落ちてペラペラだ
読み返す価値もないだろう
それでも確かに生きた証に違いない
な行( 10 / 11 )
夏空
空から届く灼熱の光線
アスファルトからこみ上げる不快な空気
早くも向日葵はうなだれている
僕は気休めに思い出す
美しすぎた頃の海を
夢を見るには遅すぎても
枯れてしまうにはまだ早く
「折れていても花を」という教師の言葉を遠くに聞く
都合のいい幻音を流しながら
果てのない夏空を恨めしげに見たら
案外可愛い顔してた