空乃彼方詩集

な行( 8 / 11 )

鼠空

「もう一度、立ち上がりなさい」
そう言い残し、あなたは足早に立ち去った
凛とした眼差しにかすかな憂いを含んでいた
貴方の残像を思い起こし、僕は立ち上がろうとする

重々しく垂れた低い鼠空
立ち上がったはいいが、どこへ歩けばいいのかわからない
下手に歩き出し、目的地から遠ざかる結末を恐れる
回り道している時間はもう残されていない
太陽を地図にすればいいと空を見上げ
うんざりの鼠空にため息を漏らす

生温い雫が掌に落ちた
雨が落ちたのか
知らずに零れた涙か
人は生きる苦しさに並び立つ喜びを探し旅をする
今日こそは見つかるよと励ましながら

な行( 9 / 11 )

日記帳

梅雨の合間の
履き古したジーンズのような空から
降ってくる焼け付く光
離れてた雲が慌てて寄り添い
まだ少し早かろうと太陽を睨む

季節が積み重なってゆくのは
許されているようで逃れられず
逃れられないようで許されている
つかみどころのない流れもの

だから人は数字でくくり
日々の生活を具体的にしている
曜日までつけてめり張ってみせる

僕の心にある日記帳は色あせて
ところどころ抜け落ちてペラペラだ
読み返す価値もないだろう
それでも確かに生きた証に違いない

な行( 10 / 11 )

夏空

空から届く灼熱の光線
アスファルトからこみ上げる不快な空気
早くも向日葵はうなだれている
僕は気休めに思い出す
美しすぎた頃の海を

夢を見るには遅すぎても
枯れてしまうにはまだ早く
「折れていても花を」という教師の言葉を遠くに聞く
都合のいい幻音を流しながら
果てのない夏空を恨めしげに見たら
案外可愛い顔してた

な行( 11 / 11 )

眠気

生きる過酷さ知り尽くしても
どんな意味があるのだろう
振り返る仕草
フタされた未来
もう二度と開かない

男だったら涙見せずに
何度でも立ち上がれ
懐かしい声が風に揺られて小さく聞こえた

まさかの道をとぼとぼ歩き続けるうちに
美しいものはただ汚れていき
陽は傾いて弱まった

足を止めることが多くなり
目を閉じることが多くなり
コンクリートに寝転がる欲求のみが強くなっていく
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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