た行( 1 / 18 )
遠い日の友へ
生まれて何十年も経てば、人間ボロボロになるね
僕も君もそれはもう見事なまでに
遠い遠いあの日、僕らは夢を語り合ったね
どうやら僕も君も壮大な嘘をついてしまったようだ
この先、苦しいことや辛いことがあるのは分かっている
むしろ、残りの人生のほとんどをそれらに覆い尽くされるだろう
ただ、そのわずかな隙間にささやかな幸せの侵食を期待する
僕らには顔を赤らめる言葉ではあるけれど
それを願う心が枯渇したら、人生の敗北を認めたも同然だから
夕暮れの美しさはあの頃と変わらないのに
僕らは夢を語り合う権利を失った
その資格があるのは瞬間の若葉たちだけ
僕は傷を深めながら進む。色をなくした道を
そして、ひたすら願う。どこかで君の笑顔がひっそりと咲いているよう
た行( 3 / 18 )
時よ
ためらうこともなく
急ぎ足になることもなく
時は潔く刻み続ける
過去からやってきた少女は
長い旅路を経て、鏡の前にたどり着いた
まもなく、彼女は自らの顔を両手で覆い、涙を流した
時よ、あなたなんだよ
少女に無残な落書きを加えたのは
あなたは美を創り、それを壊し
善を創り、それを壊し
悪を創り、またそれを壊していく
しかしあなたは潔く刻み続ける
ためらうこともなく
急ぎ足になることもなく
た行( 4 / 18 )
とうの昔に捨てたんだ
ここのところ涼しい日が続いたが、太陽が顔を出せばまだ十分に暑い
自転車にもまともに乗れなくなった僕は、歩いて買い物に出た
光の眩しさで目がつらい
久しぶりの暑さも堪えているのか、しだいに息が上がってくる
疲れ果てた僕は前のめりに大の字で倒れたくなった
しかし、実際には立ち止まることさえせずに、足を前に出した
帰り道、缶コーヒーがうまかったことだけは覚えている
重だるい腕で自宅の鍵を開け、ラジオをつける
とぼけたおじさんがいつになく真面目な話をしている
「確かに現実は大事だけど、理想を大切にすべきじゃないか」
おじさんは言った
崩れながら生きる現実に、とうの昔に理想を捨てた僕は
しばらく目を伏せ、立ち尽くし
薄笑いを浮かべて耳を傾けた