空乃彼方詩集

た行( 1 / 18 )

遠い日の友へ

生まれて何十年も経てば、人間ボロボロになるね
僕も君もそれはもう見事なまでに

遠い遠いあの日、僕らは夢を語り合ったね
どうやら僕も君も壮大な嘘をついてしまったようだ

この先、苦しいことや辛いことがあるのは分かっている
むしろ、残りの人生のほとんどをそれらに覆い尽くされるだろう
ただ、そのわずかな隙間にささやかな幸せの侵食を期待する
僕らには顔を赤らめる言葉ではあるけれど
それを願う心が枯渇したら、人生の敗北を認めたも同然だから

夕暮れの美しさはあの頃と変わらないのに
僕らは夢を語り合う権利を失った
その資格があるのは瞬間の若葉たちだけ

僕は傷を深めながら進む。色をなくした道を
そして、ひたすら願う。どこかで君の笑顔がひっそりと咲いているよう

た行( 2 / 18 )

時計

しのぎやすく、夜は秋の気配だ
自宅へ帰ると、時計の束縛を感じ
すぐに外す
左手首のみ白く保たれた肌は酷暑の痕跡


神は人が生まれてきた日、彼ら一人ひとりに時計を贈る
10年しか持たない時計もあれば、100年動くものもある
気まぐれに決めているのだろうか?


朝の公園で幼稚園にあがる前の子供が理由なく、駆け回っていた
若い母親が注意しても、止まる気配は微塵もない
彼の時計の針は有り余る力で1秒を刻む
懐かしくも彼に嫉妬する僕がいる


僕の時計はいつまで動くか、動いてくれるのか
針が義務感のみで刻んでくれているようだ
若い頃にはなかった時計への感謝の想い
「今日一日ご苦労さん。明日も頼むよ」と


もうすぐ百何十回目の新しい季節が巡ってくる
美しい、愛しい季節が巡ってくる

た行( 3 / 18 )

時よ

ためらうこともなく
急ぎ足になることもなく
時は潔く刻み続ける

過去からやってきた少女は
長い旅路を経て、鏡の前にたどり着いた
まもなく、彼女は自らの顔を両手で覆い、涙を流した

時よ、あなたなんだよ
少女に無残な落書きを加えたのは

あなたは美を創り、それを壊し
善を創り、それを壊し
悪を創り、またそれを壊していく

しかしあなたは潔く刻み続ける
ためらうこともなく
急ぎ足になることもなく

た行( 4 / 18 )

とうの昔に捨てたんだ

ここのところ涼しい日が続いたが、太陽が顔を出せばまだ十分に暑い
自転車にもまともに乗れなくなった僕は、歩いて買い物に出た

光の眩しさで目がつらい
久しぶりの暑さも堪えているのか、しだいに息が上がってくる
疲れ果てた僕は前のめりに大の字で倒れたくなった
しかし、実際には立ち止まることさえせずに、足を前に出した
帰り道、缶コーヒーがうまかったことだけは覚えている

重だるい腕で自宅の鍵を開け、ラジオをつける
とぼけたおじさんがいつになく真面目な話をしている
「確かに現実は大事だけど、理想を大切にすべきじゃないか」
おじさんは言った

崩れながら生きる現実に、とうの昔に理想を捨てた僕は
しばらく目を伏せ、立ち尽くし
薄笑いを浮かべて耳を傾けた
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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