空乃彼方詩集

な行( 11 / 11 )

眠気

生きる過酷さ知り尽くしても
どんな意味があるのだろう
振り返る仕草
フタされた未来
もう二度と開かない

男だったら涙見せずに
何度でも立ち上がれ
懐かしい声が風に揺られて小さく聞こえた

まさかの道をとぼとぼ歩き続けるうちに
美しいものはただ汚れていき
陽は傾いて弱まった

足を止めることが多くなり
目を閉じることが多くなり
コンクリートに寝転がる欲求のみが強くなっていく

は行( 1 / 35 )

ヒーロー、あるいはヒロイン

太宰がリストカット少女に声をかける
「君、よろしければゴマアザラシのタマちゃんを探しに行かないか?
川深く入っていけば見つかるかもしれない」

神宮外苑で風のように走る青年
短髪で背筋を伸ばし、寂しそうな顔をしていた
背中は一瞬にして小さくなった

セーラー服姿の女子高生がニコリともせずヨーヨーを楽しんでいる
随分、幼稚な娘だ
それにしてもスカートの丈がかなり長い

ペナントを終えた甲子園は物思いにふけっている
死んだ子の年を数えてみたり
大きな少年の金属音を再現したり

「聡ちゃん、遊ぼうよ」
友人たちの誘いに耳を貸さず、懸命に走る大きなランドセル
男の子は勢いよく81マスの海に飛び込んだ

は行( 2 / 35 )

僕を生かしてきたもの

人に人の気持ちは分からない
その能力は与えられなかった
だから知らず知らずに他者を深く気付つける

僕や君の努力、そして苦しみ、悲しみが分かるのは
見上げた空であったり
踏みつけられた大地であったり
僕らを包む街であったり
寂れた壁であったり
使い古した時計であったり
もうこの世にいない人であったり
決して言葉を発しないものだけ

だから僕は空や地や街に
或いは壁や時計や亡き人に
辛うじて生かされているのだ

は行( 3 / 35 )

冬の人

季節は巡るから幸せだ
秋から冬へ、それを凌げば春が来る
しかし生き物は、いや人生といった方が適切か
春夏秋冬の先には死があるのみだ
二度と春を迎えることはない

冬を生きる人々は口にする
「春に雷に打たれた後遺症が残って」
「夏に家族が蒸発して」
「実りの秋にうまい話に釣られてしまって」

冬の人は諦めきれない過ぎた季節を振り返る
雪山の奥深く、瞼が重たそうな顔をして
来世のお守りを抱えながら
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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