あ行( 1 / 33 )
生きるのでもなく、死ぬのでもなく
苦しみを代償にして
義理の安心を探しに旅してきたが
なかなか見つからぬものだね
星も出さない気の利かぬ夜空に
風に乗って流れてくる薄められたメロディーは
僕の心に届かぬまま、暗闇に溶けていく
時が過ぎるたびに
1つ1つ諦めるだけなのなら
生きるのでもなく
死ぬのでもなく
いっそこのままただ消えたい
あ行( 2 / 33 )
薄汚れ
煌びやかな街で美しい魂は見かけない
それは戦場であったり
狭いアパートの部屋で微動だにしなかったり
病室の4人部屋のベッドで天井を見つめていたり
彼らはこの世界から消えるのが得意なのだ
さして楽しいことなどないだろう
しかし、僕にはまだ未練があるんだ
だから薄汚れていたい
もっと薄汚れたい
白かったはずのスニーカーのように
あ行( 3 / 33 )
あんぱん2つ
はらがへったから、あんぱんを2つかおうと思ってコンビニにいったんだ
あんぱんを見つけて、レジのところへもっていった
おかねをはらわないといけないから、ポケットからとり出した
ちゃいろい玉を5こか8こか、もっとかぞえられないぐらい、いっぱい出したよ
それでもてんいんは「おかねがたりません」て言うんだ
「そんなはずはないだろう。こんなにはらっているんだから」と思ったけど
「それなら1こと半ぶんでいいから」といっぽゆずってやった
そしたらてんいんは「そんなことはできません」とおこってしまった
しかたなくおれは、またポケットの中に手をいれ、かねをさがしたんだ
そしたらあながあいた白いたまが出てきてしまった
「これじゃダメだ。なんであながあいちゃったんだ」
そう思っていたら、てんいんは「これでアンパン2つかえますよ」って言ってくれた
なんてやさしいてんいんなんだろう
おれははらがへったら、またこのコンビニでかうんだ。いっぱい、いっぱいかってやる。
あ行( 4 / 33 )
運命
だからとりあえず言っておこう、さらばと
考えてみれば人間というのは、出来のいいちっぽけな生き物だね
ただならぬ才に恵まれても
慎ましい汗をかいても
運命がその気になれば
ケーキに立てた蝋燭の火のように
アスファルトを埋めた枯葉のように
一息で消されるのだ
その儚さゆえに、些細な行為であれ、また人そのものを美しく映す時があるのだろう
すべては大きな力の支配下にある
彼が機嫌を損ねれば人の命はひとたまりもない
決まり事のような明日さえも
だからとりあえず言っておきたい、さらばと