空乃彼方詩集

さ行( 5 / 51 )

シャッター街

シャッター街のイルミネーションが暗闇に映える
僕はささやかながら煌びやかなそれに目を奪われた
その視線に力はなかったけれど

ポケットをまさぐっているのだが、心が足りないのだ
どこで落としてしまったのか思い出せない
諦めがつかない僕はその場にしゃがみ
心が落ちていないか、アスファルトに手を撫でて探した

冷たい雨が降ってきた
僕は数年前に潰れた店の軒下に避難し、またしゃがんだ。
さらに心が減ってしまって、立ち上がる力が沸かない
シャッターの中に入りたい
彼らと同化してしまいたい

さ行( 6 / 51 )

そのうち春は来るのだろう

不幸な揺り籠に酔ったまま
僕はまた朝を迎える

気の早い君は無邪気に春を探してた
そんな時に僕は別れの切り出しを探してた
気の早い君に捨てられる前に

澄み渡った空の下に君がいる奇跡と
霞みがかった空の下に君がいない寂しさが
せめぎ合って風がビュービュー泣いていた

さ行( 7 / 51 )

志村が死んだ

志村けんが死んだ
いまだに実感はない

僕が物心ついた頃には
あなたはすでにスーパースターだった
まだお茶の間という言葉が生きていた時代
僕はあなたの面白さにテレビ前で釘づけにされた

あなたのわかりやすさを追求した笑いは
子供だけでなく、異国の人々の心にも届いた
慣れない日本という国で、言葉も理解できない彼らにとって
あなたは週に1度訪れるサンタクロースだった

わがままな神様は、あなたの突き抜けた笑いの才能、そして優しさが欲しくなったのだろう
儚いひと時の幸福を届けてくれたあなたは旅立った
向こうで長さんと顔を合わせたら気が重いだろう
「なんでこんなに早く来た」と長さんに説教され
「だってコロナが」と小声でつぶやき、不貞腐れてるあなたの顔が浮かびます

さ行( 8 / 51 )

生存本能

威張り散らしてる奴らは、そこらに転がる尖り石のようで
精一杯の人々は口を動かす暇もない

最終の夕日に飛び乗って
暗闇の中へ沈む
深い海に潜り込み、束の間の夢を見終えたら
新しい太陽にしがみつき
思い切って地上に舞い降りて
虫のように手足をばたつかせながら進む

ぼやけた未来のその先の
安否さえ分からぬ光を求めて
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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