さ行( 8 / 51 )
生存本能
威張り散らしてる奴らは、そこらに転がる尖り石のようで
精一杯の人々は口を動かす暇もない
最終の夕日に飛び乗って
暗闇の中へ沈む
深い海に潜り込み、束の間の夢を見終えたら
新しい太陽にしがみつき
思い切って地上に舞い降りて
虫のように手足をばたつかせながら進む
ぼやけた未来のその先の
安否さえ分からぬ光を求めて
さ行( 10 / 51 )
植毛深刻
今日も会社の同僚たちの視線が彼の頭に集まる
わずかではあるが後退している
この確認が社員としての課せられもしない義務になっていた
こうしてこの会社の一日が始まる
次の日もその次の日も、同僚たちの視線は、彼の髪の生え際に集まるのだ
わずかな後退が同僚たちに安心感を与え、職場を円滑にする
しかし、ある日のこと、彼の生え際がかすかにではあるが、確実な前進を遂げていた
目の肥えた同僚たちがそれを見逃すはずはない
厳しい視線を感じてか、彼は自ら口を開いた
「本日、わたくしは髪の毛に手を加えてまいりました」
思いも寄らぬ植毛宣言
同僚たちの目が疑惑から輝きに変わっていった
おかげでこの日の職場も、活気に満ちたスタートを切れたのだ
さ行( 11 / 51 )
それも人生
何か得体の知れぬものに操られているのだろう
私も、あなたも、彼も、彼女も
何か得体の知れぬものに翻弄されているのだろう
突然投げた首相も
不機嫌な女優も
荒げたボクサーも
それが運命の一言で片付けられたらどれだけ楽か
しかしどれだけ虚しいか
その得体の知れぬものに抗うことがたとえ無意味でも
黙って従うことは勘弁願いたいんだ
しなやかに操られるも人生、暴れながらに操られるも人生には違いない