空乃彼方詩集

さ行( 7 / 51 )

志村が死んだ

志村けんが死んだ
いまだに実感はない

僕が物心ついた頃には
あなたはすでにスーパースターだった
まだお茶の間という言葉が生きていた時代
僕はあなたの面白さにテレビ前で釘づけにされた

あなたのわかりやすさを追求した笑いは
子供だけでなく、異国の人々の心にも届いた
慣れない日本という国で、言葉も理解できない彼らにとって
あなたは週に1度訪れるサンタクロースだった

わがままな神様は、あなたの突き抜けた笑いの才能、そして優しさが欲しくなったのだろう
儚いひと時の幸福を届けてくれたあなたは旅立った
向こうで長さんと顔を合わせたら気が重いだろう
「なんでこんなに早く来た」と長さんに説教され
「だってコロナが」と小声でつぶやき、不貞腐れてるあなたの顔が浮かびます

さ行( 8 / 51 )

生存本能

威張り散らしてる奴らは、そこらに転がる尖り石のようで
精一杯の人々は口を動かす暇もない

最終の夕日に飛び乗って
暗闇の中へ沈む
深い海に潜り込み、束の間の夢を見終えたら
新しい太陽にしがみつき
思い切って地上に舞い降りて
虫のように手足をばたつかせながら進む

ぼやけた未来のその先の
安否さえ分からぬ光を求めて

さ行( 9 / 51 )

生存本能

威張り散らしてる奴らは
そこらに転がる尖り石のようで
精一杯の人々は口を動かす暇もない

最終の夕日に飛び乗って
暗闇の中へ沈む
深い海に潜り込み、束の間の夢を見終えたら
新しい太陽にしがみつき
思い切って地上に舞い降りて
虫のように手足をばたつかせながら進む

ぼやけた未来のその先の
安否さえ分からぬ光を求めて



さ行( 10 / 51 )

植毛深刻

今日も会社の同僚たちの視線が彼の頭に集まる
わずかではあるが後退している
この確認が社員としての課せられもしない義務になっていた
こうしてこの会社の一日が始まる

次の日もその次の日も、同僚たちの視線は、彼の髪の生え際に集まるのだ
わずかな後退が同僚たちに安心感を与え、職場を円滑にする

しかし、ある日のこと、彼の生え際がかすかにではあるが、確実な前進を遂げていた
目の肥えた同僚たちがそれを見逃すはずはない

厳しい視線を感じてか、彼は自ら口を開いた
「本日、わたくしは髪の毛に手を加えてまいりました」
思いも寄らぬ植毛宣言
同僚たちの目が疑惑から輝きに変わっていった
おかげでこの日の職場も、活気に満ちたスタートを切れたのだ
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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