空乃彼方詩集

さ行( 9 / 51 )

生存本能

威張り散らしてる奴らは
そこらに転がる尖り石のようで
精一杯の人々は口を動かす暇もない

最終の夕日に飛び乗って
暗闇の中へ沈む
深い海に潜り込み、束の間の夢を見終えたら
新しい太陽にしがみつき
思い切って地上に舞い降りて
虫のように手足をばたつかせながら進む

ぼやけた未来のその先の
安否さえ分からぬ光を求めて



さ行( 10 / 51 )

植毛深刻

今日も会社の同僚たちの視線が彼の頭に集まる
わずかではあるが後退している
この確認が社員としての課せられもしない義務になっていた
こうしてこの会社の一日が始まる

次の日もその次の日も、同僚たちの視線は、彼の髪の生え際に集まるのだ
わずかな後退が同僚たちに安心感を与え、職場を円滑にする

しかし、ある日のこと、彼の生え際がかすかにではあるが、確実な前進を遂げていた
目の肥えた同僚たちがそれを見逃すはずはない

厳しい視線を感じてか、彼は自ら口を開いた
「本日、わたくしは髪の毛に手を加えてまいりました」
思いも寄らぬ植毛宣言
同僚たちの目が疑惑から輝きに変わっていった
おかげでこの日の職場も、活気に満ちたスタートを切れたのだ

さ行( 11 / 51 )

それも人生

何か得体の知れぬものに操られているのだろう
私も、あなたも、彼も、彼女も

何か得体の知れぬものに翻弄されているのだろう
突然投げた首相も
不機嫌な女優も
荒げたボクサーも

それが運命の一言で片付けられたらどれだけ楽か
しかしどれだけ虚しいか
その得体の知れぬものに抗うことがたとえ無意味でも
黙って従うことは勘弁願いたいんだ
しなやかに操られるも人生、暴れながらに操られるも人生には違いない

さ行( 12 / 51 )

残酷な真実の隣で

弱くて脆い自分を
何とか少しでもまともに見せようと
格好つけようとして
あたふたしている僕の姿は
滑稽で笑える
可笑しくて、何故だか涙が出てくる

戦争か平和なら平和がいいのだろう
ただ、今は平穏が欲しい
戦争よりも平和よりも、平穏が欲しい
残酷な真実の隣で眠っていたい
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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