ま行( 16 / 16 )
まだ見ぬ日
それにしても安物の腕時計はすぐに電池が切れる
可愛がったペットは気を使い、今年のうちに死んだ
僕の電池はあとどれぐらいだろう
今日が明ければ、明日が今日になり
今日は去年という枠に収まることになる
時は無表情に正確な歩幅で進み
どんな人や生き物、いや、ありとあらゆる物が
2020の枠組みに組み込まれる
死者だけがこの年に留まることになるのだ
電池が切れた物だけが
人々はまだ見ぬ日の恐怖を消すために
慌ただしい年末を過ごし
年明けのめでたさを無理にでも強調するのだろう
や行( 1 / 6 )
優しさの行方
私の優しさはどこにある?
確か階段を上って、突き当たりの部屋にあるタンスの上の箱の中だ
埃まみれの優しさが、まだ息をしているはず
あなたの優しさはどこにある?
見つからないからって諦めないでほしい
まだ身の回りにあるはずだから
よく探してごらん
や行( 2 / 6 )
余生の雪
成人の日の主役となった雪が片隅で余生を過ごしている
今日、大鵬が死んだよ
宇多田ヒカルが30になったよ
混乱のハトが中国へ飛んだよ
あの大震災から18年たったよ
湾岸戦争からは22年だ
エバタ、スカッド、パトリオット
時は矢継ぎ早に流れているというのに
そんなことはお構いなしに
余生の雪は寒さに甘え、のんびりと眠っている
や行( 3 / 6 )
破れかぶれの雨粒
天に見放された雨たちが
破れかぶれに地べたに飛び込んでいく
若葉は大きな口をあけて飲み込み、微笑んでいる
人はそこそこの年齢になれば、他人のために生きるようになる
例えば結婚すれば、その人のために生き
例えば子供が出来たら、その子のために生きる
それが幸福のレールではなかろうか?
まっとうな道ではなかろうか?
レールから外れた僕は
未だに自分のために生きようとしている
何かをなしえようとしている
それが何なのかも分からずに
それにしがみつく
僕はとうの昔に天に見放され
破れかぶれの雨粒になったのだ
それなのに未だに自分のために生きようとする
おそらく死ぬまで自分のために生きようとする
誰かのためでなく
破れかぶれの雨粒のままで