空乃彼方詩集

や行( 3 / 6 )

破れかぶれの雨粒

天に見放された雨たちが
破れかぶれに地べたに飛び込んでいく
若葉は大きな口をあけて飲み込み、微笑んでいる

人はそこそこの年齢になれば、他人のために生きるようになる
例えば結婚すれば、その人のために生き
例えば子供が出来たら、その子のために生きる
それが幸福のレールではなかろうか?
まっとうな道ではなかろうか?

レールから外れた僕は
未だに自分のために生きようとしている
何かをなしえようとしている
それが何なのかも分からずに
それにしがみつく

僕はとうの昔に天に見放され
破れかぶれの雨粒になったのだ
それなのに未だに自分のために生きようとする
おそらく死ぬまで自分のために生きようとする
誰かのためでなく
破れかぶれの雨粒のままで



や行( 4 / 6 )

歪みながら時は過ぎる

冷たく広がる空に淡く寂しい光
クリスマスが近づき少しだけ華やぐ街
今年、僕は無意識の罪をいくつ犯したろう


君は首を横に振りながら、肯定している
何らおかしなことじゃない
世の橋はそうして渡るものだろう


時は今年も積み重なった
少しずつ歪みながら
静かに傾きながら
人はそれに気づいたとしても
慌ただしい季節を理由に
足を速め、通り過ぎる

や行( 5 / 6 )

勇気よ

数限りなく振り絞ってきた勇気たち
それらは凶器となって僕に襲い掛かった
怖いものを知るたびに、人は老いてゆく

それらは世界中に散らばっている
狂人の前に立ちふさがる勇気
小さな命を預かる勇気
立ち向かう勇気
受け入れる勇気
自死する勇気
呼吸を続ける勇気

それらは美しく残酷で
必要であり、不必要な厄介なもの
人はそれらを時に抱え、時に捨てた

勇者には明日がある
勇者でなくとも明日は来る

や行( 6 / 6 )

48のオールドたち

地球に捨てられた48のオールドたち
他者からの評価はともかく
ここまでよく生きてきたね
何せ地球に捨てられた日から
30ものオールドたちが加わったのだから

キッチンの上に置かれた水差しの薔薇
盛りを過ぎて花びらが下を向き、抜け落ちてゆく
床に落ち赤を広げる最後の表現
高層ビルから飛び降りる人のように

オールドたちが加わるたびに
大切なものがひらひらと舞って死ぬ
人生への憎しみも抜け落ちて枯れ木になればいい
kumabe
作家:空乃彼方
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