空乃彼方詩集

ま行( 15 / 16 )

真っ赤な白

どうしても割ってはならないものを割ってしまった
「何があってもそれだけは絶対に」というものを

鮮血のような赤に染められた真っ白が「私は真っ白です」と声を震わす
永遠の瞬きを終えた人々が怪訝な顔で見つめ、力なく笑って立ち去っていく
せめて過去形にすべきだった
「私はかつて真っ白でした」と

屈強を持ち上げ、階段を上る子供たち
たった一人のメガネを除いては
声を合図に屈強から手を離す
まもなく大地が揺れた
「まだ割れないや」
一人の子がつぶやく

子供たちはさらに高いところから屈強を落とす
ついにひびが入った
誰かが「もう少し、もう少し」と興奮して叫ぶ
そしてさらに高いところに登り、渾身の力を合わせた
ついに屈強は割れた
喜びの瞬間、子供たちは永遠の瞬きに入った

真っ赤に埋め尽くされた白はまだ訴えていた
「私は白です。あなた方に変えられたんですよ」と
あざ笑ったり、無視する人々
白は力尽きてうなだれた

その落っこちた肩に誰かの手が乗った
振り返ると奇妙なメガネをかけた男
「君は真っ白だね」
男はそう言いながらメガネを外した
「やっぱり真っ白だ」
男は確認するようにうなずいた
白は美しい笑顔を男にだけ見せた

ま行( 16 / 16 )

まだ見ぬ日

それにしても安物の腕時計はすぐに電池が切れる
可愛がったペットは気を使い、今年のうちに死んだ
僕の電池はあとどれぐらいだろう
今日が明ければ、明日が今日になり
今日は去年という枠に収まることになる

時は無表情に正確な歩幅で進み
どんな人や生き物、いや、ありとあらゆる物が
2020の枠組みに組み込まれる
死者だけがこの年に留まることになるのだ
電池が切れた物だけが

人々はまだ見ぬ日の恐怖を消すために
慌ただしい年末を過ごし
年明けのめでたさを無理にでも強調するのだろう

や行( 1 / 6 )

優しさの行方

私の優しさはどこにある?
確か階段を上って、突き当たりの部屋にあるタンスの上の箱の中だ
埃まみれの優しさが、まだ息をしているはず

あなたの優しさはどこにある?
見つからないからって諦めないでほしい
まだ身の回りにあるはずだから
よく探してごらん

や行( 2 / 6 )

余生の雪

成人の日の主役となった雪が片隅で余生を過ごしている


今日、大鵬が死んだよ

宇多田ヒカルが30になったよ

混乱のハトが中国へ飛んだよ



あの大震災から18年たったよ

湾岸戦争からは22年だ

エバタ、スカッド、パトリオット



時は矢継ぎ早に流れているというのに

そんなことはお構いなしに

余生の雪は寒さに甘え、のんびりと眠っている
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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