:サンドリオンの店内 -----
女(Na) あの人が来ない ....
約束の時間はもうとっくに過ぎてるのに -----
今更もう後戻りなんか出来ない .....
犯してしまった罪を消すことは出来ないのだから ...
それならいっそのこと、二人でいたい .....
いつでもいつまでも一緒にいたい .....
彼と離れることなんか、今の私には考えられない .....
だから -----
罰を受ける苦しみよりも、罪を背負って逃げる苦しみをあの人は選んだ .....
どこまでも地の果てまでも、逃げることしか術がない ....
それしか二人が一緒にいられる術がないから .....
私たちはそう考えた -----
そう .....
明日の朝一番の便で、あの思い出の地リオへ旅立つ .....
逃亡という名の旅路に、二人で旅立つ -----
..... それなのに、あの人が来ない .....
もうこんな時間なのに .....
無情にも、時間が不安だけを私に預けて過ぎて行く -----
!..... まさか、あの人 .....
:グラスの中で転がる氷の音 -----
バーテン 「お作りいたしましょうか ...?」
女 「エッ? ..... ああ、お願いします ..... 」
バーテン 「かしこまりました ... 」
:シェーカーにテキーラ、ブルー・キュラソー、ドランブイ(30ml)が
入れられシェークされる -----
:やがてクラッシュド・アイスを入れたタンブラーに注がれ
レモネードで満たし、ライムのスライスが飾られる -----
マスター 「そうでしたか ... ですが、そのような方からのご連絡は、まだ一度も ... 」
男 「そうですか ... それなら、待つしかないな ... 」
マスター 「でも ... 何かの間違いでは ... あのお客様に限ってそんな ... 」
男 「私、仕事中にこうして酒を飲んでますが ... 決して冗談や作り話をしたくて
ここに来た訳じゃないんですよ ... 」
マスター 「はい、それは ... 」
男 「実際、因果な仕事ですよ、これは。だから私の場合、こうして自分なりのスタンスで
やってるんですよ ... もっとも、あまり上への受けは良くないですがね ... 」
マスター 「失礼ながら ... そのような方がいらっしゃってもいいのではなかと思いますが ... 」
男 「ありがたいですね、そう云ってもらえると ... それなりに励みになりますよ」
マスター 「恐縮です ... それにしましても、本当に来られるんでしょうか ... 」
男 「多分、来るでしょうね ... いや、きっと来るはずです ... 」
マスター 「どうしてそう ... ?」
男 「奴にはもう、彼女しかありませんからね ... 」
マスター 「彼女しか ... 」
男 「時に人は ... 愛する者のためなら、罪も犯す ... これ、悲しい現実です ... 」
マスター 「愛し合ってるんですね、二人は ... 」
男 「だから来るんですよ、彼女に逢いに ... 必ずね」
マスター 「でももう、かなり時間が過ぎているのでは ... 」
男 「それはこの際、関係ないでしょう ... 」
マスター 「と、申されますと ...?」
男 「あの二人は今、目の前を過ぎて行く時間より、これから過ごす時間の方が大事なんです
から ... それに」
マスター 「それに ... 何でしょうか ...?」
男 「時間ってやつは ... 所詮、誰にも止められないものですからね ... 」