:サンドリオンの店内 -----
女 「もう、こんな時間か ... 」
バーテン 「まだ、お見えにならないご様子ですね ... 」
女 「そうね ... でもひょとしたらもう ... 来ないかもしれない... 」
バーテン 「お約束の時間、そんなに過ぎてらっしゃるんですか ...?」
女 「そうですね ... かなり ... 」
バーテン 「それでしたら、そのうちご連絡でもあるのでは ... 」
女 「それならもう、とっくにあってもいい頃なのに ... 」
バーテン 「そうなんですか ... 」
女 「もう、来れないのかもしれない ... 」
バーテン 「お見えになれない? それは... 」
女 「そうね ... きっとそうなんだ ... 」
バーテン 「お客様 ... 」
:男の携帯電話が鳴る -----
男 「失礼 ..... (電話を取り)はい ..... ああ、私だ ..... 」
女 「バーテンさん ... もう一杯、頂けるかしら ... 」
バーテン 「はい、かしこまりました」
:シェーカーにテキーラ、ブルー・キュラソー、ドランブイ(各30ml)が
入れられ、シェークされる -----
男 「そうか ... わかった ... ご苦労 ... それじゃ、私もここを引き上げるから
その間、頼む ... (電話を切る)」
マスター 「何か ... 」
男 「 ... すべて終わりました ... 」
マスター 「エッ ...? それでは ... 」
男 「そう ... お察しのとおり ... たった今、この店の前で ... 」
マスター 「そうですか ... 」
男 「ご協力、ありがとうございました」
マスター 「いいえ、とんでもございません ... それより、彼女は ... 」
男 「そうですね ... 」
バーテン 「お待たせいたしました ... どうぞ」
女 「どうもありがとう ... 」
男 「コルコバード ... リオにある丘の名前でしたね、それは」
女 「エッ?」
男 「確か5年前に、奴と出逢った想い出の場所 ... 」
女 「どうしてそんなことを ...?」
男 「そしてこれからの二人の逃亡先でもあった ... 」
女 「!... 」
バーテン 「逃亡先 ...?」
男 「奴はもう来ない ... 」
女 「 ... それじゃ、あの人は ... 」
男 「たった今、逮捕した ... この店の前でね」
女 「 ... そんな ...」
男 「犯した罪を道連れに、コルコバードのキリストには会えないだろう ... 」
女 「!... そうですね ... 確かにそうですよね ... 」
男 「詳しい話を聴きたいんで、一緒に来てもらえるかな ... 」
女 「わかりました ... 」
バーテン 「お客様 ... 」
女 「バーテンさん ... さっきあの時計のことでとやかく云ってたけど ...
よく考えてみたら、時間が止まった時計って素敵なのかもしれない ... 」
バーテン 「それは、どういう意味なんでしょうか ...?」
女 「だって ... もし好きな時に時間を止められたなら、私たち幸せになれたかも
しれないもの ... 」
バーテン 「 ... それは ... 」
マスター 「失礼ながら、お客様 ... お二人の時計は今ここで、止めるわけにはいかないのでは
ないでしょうか ... 」
女 「エ ...?」
マスター 「戻らない時間を惜しむより ... やがて訪れる時間を見つめることの方が ...
大切なことではないでしょうか ... 」
女 「やがて訪れる時間 ... 」
男 「さあ、いいかな ... 」
女 「素敵な言葉をありがとう ... マスター」
マスター 「いいえ ... 恐れ入ります ... 」
バーテン 「ありがとうございました ... 」
マスター 「どうぞ、お気をつけて ... 」
:ドアの閉まる音 -----