:ついさっきまで知らない者同士が...
時の流れのエピソードで言葉を交わす...
その女の右手にはカクテル・グラスがあり...
その男の左手にもカクテル・グラスがあった...
同じ場所での時間の所有-----
似た者同士の出逢いの幕が、今静かに上がった----
:サンドリオンの店内 -----
女 「もともとカクテルは名前どおり... 色んなスピリッツやリキュールが奏でる
微妙な味わいを楽しんで飲むもの... ただ単に酔うためだけに作られて飲まれる
ものではないと... 差し詰め、そういうことですよね、マスター」
マスター 「そうご理解頂ければ、幸いです... 」
男 「それじゃなにか... 今の俺は単なる酔っ払いってことか... 」
女 「少なくとも... 今の私にはそう見えますね... 」
男 「フフフ... 随分とはっきりモノを云う人なんだな... 」
女 「そうじゃなくて... やっかみなんですよね、私って」
男 「やっかみ...? やっかみって、一体何をやっかむのかな?」
女 「そうやってヤケ酒飲んで憂さ晴らし出来る、男って銘柄に... 」
男 「それはつまり... 男に憧れてるってことかな...?」
女 「女のヤケ酒って、あまり絵にならないでしょ... そう思いません?」
男 「どうかな、その辺りは... 飲み方にもよるんじゃないかな...
大体、男だってそうだから... 飲み方次第で善くも悪くもなる...」
女 「それでも、男の人みたいな訳にはいかない... やっぱり、どうしても... 」
男 「そっか... 君も今夜はヤケ酒だったんだ... 」
女 「君もということは... やっぱりそうだったんだ... 」
男 「ン?... 」
女 「場所が少し違うと思うな... ここではあんな飲み方、似合いませんよ」
男 「... あんな飲み方、か...」
女 「... 良くないと思う... 」
男 「所詮、わからないよ... 女性にはこの気持ちが... 」
女 「女には、ですか... 」
男 「男には飲まなきゃいられない時があるんだよ... 」
女 「それは女だって同じ... だから私だってこうしてる訳で... あ...」
男 「フッ... 似た者同士って訳か... 」
女 「... でも、私とあなたは違う... そもそも私は女だから... 」
男 「確かにそうだな... 」
女 「それに.. ただ酔うためだけに飲むお酒ほど、味気ないものない... それなら
こんなお店で飲まずに、その辺の居酒屋で管を巻いてるほうがお似合いかと... 」
男 「居酒屋か... 」
女 「...どうでしょう... どうせ飲むなら楽しくやりませんか? 特に残された...
あと1杯のカクテルは... 」
男 「.....」
女 「そうでないと... 折角の素敵なカクテルが台無し... ね、マスター」
マスター 「デプス・ボム... 確かに素敵なカクテルですね... 」
女 「私もちょうど一人だし... つかの間、楽しく過ごしましょう」
男 「...そうだな... それも悪くはないかな... 」
女 「...決まった。 それじゃマスター、私にお代わりを... 」
マスター 「かしこまりました... 同じものでよろしいでしょうか?」
女 「いいえ... 別のものを... 」
マスター 「といいますと...?」
女 「そう... レスポワールを... 」
男 「レスポワール... ?」