涼しげな瞳をした...
それでいてどこか親しみを覚える、その女性との出逢い...
それはオールド・パーに纏わる話しから始まった-----
ゆっくりと時が流れる店内----
女 「トーマス・パー... 彼は1483年、スコットランド生まれの農夫で、八十歳で
結婚をし、百五歳に村の美女と不倫、百二十二歳でその女性と再婚...
そして百五十二歳でその生涯を終えたという、すごい人物だった...
そこで、その彼の長寿にあやかってオールド・パーのラベルには「オールド・
パー152years」と記され、名付けられたと云われています... 」
男 「たいしたもんだね... 」
バーテン 「よくご存知ですね... お手上げです」
女 「いいえ... 私もこの手の話しが結構好きなものですから... 」
男 「ついでに補足させてもらうと... ラベルに描かれているのが人物が、その
トーマス・パー本人で、これはバロック美術の代表的画家であるルーベンスが
描いた絵がもとになってるそうだ... 」
バーテン 「さすがですね... 藤堂様も」
女 「お詳しいんですね... 」
男 「私もお酒が好きだからね... 」
バーテン 「それにしても... このボトルのラベルに、それだけの謂れがあるなんて...
思いもよらなかったな... 」
男 「スコッチ・ウイスキーの中でも、ユーモアがある謂れを持つのが、このオールド・
パーと云えるだろうな... 」
女 「そういえば... 同じスコッチでも、ラベルの裏に謂れがあるものもありますよね... 」
バーテン 「ラベルの裏?」
男 「というと...?」
女 「そもそもラベルには、表側に貼ってあるメインラベルと、裏側のバックラベルの
2種類の趣があって、そのバックラベルにちょっとした趣向を凝らしたお酒が
あるんです... 」
バーテン 「そのスコッチとは... 何なんでしょうか...?」
女 「ホワイト・ホースです」
男 「ホワイト・ホース...?」
バーテン 「で、そのバックラベルには、一体どんな趣向が...?」
女 「それは、バックラベルを見れば一目瞭然です」
男 「見てみようじゃないか... そのバックラベルを」
バーテン 「そうですね... 百聞は一見に如かずですね... 」
:バーテンはホワイト・ホースを取り出し、私のもとへ-----
バーテン 「... どうぞ」
女 「いかかです... 細かい英語の文字が並んでませんか... 」
男 「... 確かに... 」
バーテン 「何と書いてあるんでしょうか... 」
男 「直訳すると...
エジンバラからロンドンへ行こうとする人、あるいはその道のりのどこかまで
行こうとする人は、エジンバラのホワイト・ホース・セラーに集まること...
ここから毎週月曜日と金曜日の朝5時に、乗り合い馬車が出発する。行程は
八日間... 云々...
乗客の荷物は14ポンドまでは無料。それを超える時は1ポンドにつき6ペンス
... 1754年2月... 」
バーテン 「これは... 」
女 「そう... 当時の駅馬車の乗車規定ですね... 」
男 「確かにそうだな... でもどうしてそんなものをこのバックラベルに...?」
女 「残念ながら、それは不明だそうです...
ただ、製造者の思い入れやホワイト・ホースの歴史が、そのバックラベルによって
静かに語られていることだけは、うかがい知れますよね... 」
バーテン 「バックラベルか... 」
男 「... それにしても、ただの物知りじゃないね、君のその博学ぶりは... 」
バーテン 「確かにそうですね... 」
男 「ひょっとして、君... 」
女 「そうですね... 多分、お察しのとおりです」
バーテン 「どういうことなんでしょう? それは... 」
男 「それはつまり... 君と同じってことだよ、バーテン君」
バーテン 「私と、同じ... ?」