シンデレラの止まり木 - bar cendrillon again -

canari ~ カナリア ~( 3 / 5 )

【 Scene - Ⅲ 】

Bar Cendrillon # opening .mp3



         :サンドリオンの店内 -----



女    「どうしてここに ...?」

男    「店に行ったら、ここにいるって教えてくれたんだ」

女    「そうでしたか ... 」

マスター 「ようこそ、いらっしゃいませ ... ご注文の方は、いかがいたしましょうか?」

男    「そうだな ... じゃ、ダイキリを」

マスター 「かしこまりました ... 」


          :ホワイト・ラム(3/4)とライム・ジュース(1/4)
            砂糖(1tsp)が入れられ、シェークされる -----


男    「相変わらず、歌ってないんだ ... 」

女    「 ... エエ ... 」

男    「かれこれ1年だろう? ステージに立たなくなって」

女    「そうですね ... 」

男    「オーナーが嘆いてたよ ... 店の格が落ちたってね」

女    「そんなことは ... 」

男    「中々見つからないみたいだよ、君ほどの歌い手が... 」

女    「私ぐらいのシンガーなら、ざらにいますよ ... 」

男    「そうかな ... 僕にはそう思えないけどな ... 」

マスター 「お待たせいたしました ... どうぞ(グラスを置く)」

男    「ありがとう ...(一口飲む)」

女    「今日はまたどうしてここへ?」

男    「来ちゃいけなかったかな ...? それとも約束してなかったから?」

女    「別にそういう意味じゃなくて ... 」

男    「それならいちいち理由を言わなくてもいいだろう ...?」

女    「それはそうですけど ... でも、どうしてかなと思って ... 」

男    「気になるなら言おうか ... ズバリ、君を誘惑に来たんだ ... 」

女    「誘惑 ...? 私を?」

男    「そう、誘惑 ... 」

女    「それって、どういう意味ですか ...?」

男    「男が女を目の前にして、誘惑というセリフを口にしたら ... 答えはひとつだろう?」

女    「ミタさん ... 」

男    「(笑って)冗談だよ ... ホントのところは、君にステージで歌ってもらおうと思って
      交渉に来たんだ ... 」

女    「私に歌を ... ?」

男    「実はこの秋に、神戸で大掛かりなジャム・セッションがあるんだ ...
      もちろん海外からもそうそうたる顔ぶれのミュージシャンが参加してね。
      それで僕の方にも声がかかってきた訳なんだけど ... 
      僕としてはそのステージで、どうしても君に歌ってもらいたいんだ ... 僕のピアノを
      バックにして ... 」

女    「ミタさんのピアノをバックに ... 」

マスター 「素敵なお話じゃないでしょうか ... マリさん ... 」

女    「マスター ... 」

男    「どうだろう ...? 歌ってくれないか?」

マスター 「マリさん ... 」

女    「でも私は ... 」

男    「これはある意味、君にとってもチャンスだと思うんだ ... 
      そう思いませんか? マスター」

マスター 「そうですね ... 二度とないチャンスかもしれませんね ... 」

男    「どうだい? この機会に、君の実力を試してみたら ... 」

女    「でも ... 私は ... 」

男    「この際、つまらない感傷は捨てた方がいいと思うよ、マリさん」

女    「 ... つまらない、感傷 ...?」

男    「彼のことなら、以前にオーナーから聞いたよ... それが原因で君が歌わなくなったって
      ことも ... でもそれとこれとは話が別だよ。
      これは君自身が一人のシンガーとして考えるべきことなんだよ」

女    「(ポツリと)つまらない感傷 ... 」

マスター 「マリさん ... 」

女    「ミタさん ... 私 ... 」



canari ~ カナリア ~( 4 / 5 )

【 Scene - Ⅳ 】

Bar Cendrillon # opening .mp3



          :サンドリオンの店内 -----



女    「何となくだけど ... マスターの云ってたナイン・ハーフの意味がわかるような気が
      する ... 」

マスター 「マリさん ... 」

女    「カウント・テンまでいっちゃうと、ノック・アウトだもんね ... そこで全部終わり
      だもの ... 」

マスター 「本当にこれでいいんですか ...?」

女    「あ、そうだ、マスター。さっき言いかけて途中になっちゃったことだけど ... 」

マスター 「 ... エッ?」

女    「ほら、ミタさんが入ってくる前に ... 私、マスターに何か言おうとしてたじゃない」

マスター 「そういえば、確か ... 」

女    「それが私 ... 忘れちゃったのよ ... ごめんなさい」

マスター 「マリさん ... 」

女    「何言おうとしてたのか、思い出せないのよ ... 私、もう駄目ね ... 今夜は」

バーテン 「マスター、終わりました ... 」

マスター 「ありがとう ... 」

女    「ご苦労様、バーテンさん ... さっきはごめんなさいね ... 」

バーテン 「いいえ、とんでもありません ... 私こそ、失礼しました ... 」

女    「今度きた時は、可愛いカナリアでいるから ... 今夜のことは許してね」

バーテン 「かしこまりました ... その時をお待ちしております」

女    「それじゃ私、今夜はこれで帰ります、マスター ... おやすみなさい ... 」

バーテン 「ありがとうございました ... 」


          :女、店を出ようとする -----


マスター 「マリさん ... 」

女    「エッ?」

マスター 「さっきのお話の返事は ... 本当にあれでよかったんですか ...?」

女    「 ... エエ ... あれでいいのよ、あれで ... 」

マスター 「そうなんですか ... 」

女    「マスター ... 」

マスター 「 ... はい」

女    「他の人から見ればつまらない感傷でも ... その人にとっては大事なことかも
      知れないじゃない ... そう思わない? マスター ... 」

マスター 「 ... そうですね ... 確かにそうです」

女    「 ... そういうことよ ... それじゃ、おやすみなさい ... 」

マスター 「ありがとうございました ... おやすみなさい ... 」


          :女、店を出て行く -----

          :ドアの閉まる音 -----


バーテン 「少し変わったシンガーですね ... マリさんって人は ... 」

マスター 「どうしてそう?」

バーテン 「せっかくのチャンスだったのに ... 」

マスター 「それは ... 彼女がシンガーである前に、一人の女性だからでしょう ... 」

バーテン 「一人の、女性 ... 」

マスター 「ちょうど ... バカルディがバカルディ・ラムに拘ることで、ダイキリではない
       ことを主張したように ... 」

バーテン 「バカルディがバカルディであるための主張 ... 」

マスター 「彼女もまた ... 自分が女であることを主張したのよ ... 」


          :辺りに響く、ヒールの音にまぎれて -----


           :回想 -----


マリ   「今度あなたが私の目の前に現れるまで ... 私、歌を忘れるわ ...
      (少し笑って)そう ... 私は、歌を忘れたカナリアになるのよ ... 」

男    「お前 ... 」


女(Na)  あの日から ... 愛しい人のために歌うカナリアは、歌を忘れた -----
       あれからちょうど1年 ... 彼はまだ、帰って来ない -----



canari ~ カナリア ~( 5 / 5 )

【 Scene - final 】

Bar Cendrillon # opening .mp3





マスター  今宵も「バール サンドリオン」へお越しいただき、誠にありがとうございました...

      ではここで... 今回登場致しましたカクテルを、改めてご紹介させて頂きます...

      まず始めに、ホワイト・ラムをベースにした、カクテルの古典的名作と言われる
      「ダイキリ/Daiquiri」.....
      無数のレシピが存在し、それに関する議論も尽きることなく、歴史上の逸話も数多い
      カクテルとして有名です。

      そしてその「ダイキリ」のバリエーションカクテルして名高い「バカルディ/Bacard」
      「ダイキリ」と同じくホワイト・ラムをベースにしたカクテルでありながら
      バカルディ社のホワイト・ラムとグレナデン・シロップを使うことによって
      その存在が認められるカクテルで、その昔 ... ライト・ラム流行の波に乗り
      世界中でその人気を獲得したといわれております -----
      その味は限りなく「ダイキリ」でありながらも、グラスを赤く染めることで
      「バカルディ」と呼ばれる、拘りのカクテルなのです -----

      さてそのレシピは .....
      「ダイキリ」の場合、ホワイト・ラム(3/4)とライム・ジュース(1/4)
      砂糖(1tsp)をシェークすれば出来上がりです。

      また「バカルディ」の場合は、「ダイキリ」と同じ比率の内容でバカルディ社の
      ホワイト・ラムを使用し、砂糖の代わりにグレナデン・シロップ(1tsp)を
      入れてシェークすれば完成です ...

      いずれもアルコール度の強いカクテルでありながら、ミディアムな甘さの味わいを
      持ち、ラムを使ったカクテルの傑作と呼べるものです ...

      「ダイキリ」はあくまでも「ダイキリ」であり、その「ダイキリ」をバカルディ社の
      ラムと赤いグレナデン・シロップをしようすることによって「バカルディ」と呼ばせる
      このカクテルの拘りに、皆様は何を感じられますでしょうか ...?
      是非一度、この拘りを味わられてみてください .....
      

      それでは ...
      またのお越しを心よりお待ちしております .....

      ありがとうございました -----



Images Music - The Look Of Love 「 愛の外観 」 Diana Krall


ヒモト ハジメ
作家:マスターの知人
シンデレラの止まり木 - bar cendrillon again -
5
  • 0円
  • ダウンロード