空乃彼方詩集

か行( 38 / 38 )

転がる蝉

アスファルトの真ん中で
仰向けで動かない蝉
それは真夏の死の表現者

美しい人はいる
美しい人間はいるだろう
美しい人生はあるのだろうか
真夏の死の表現者よ、教えてほしい

この世に幸せはあるだろうか
おそらくないと僕は思う
探せば探すほど絶望するだけ
そして最後に訪れる死の苦しみ
その後の話だろう幸せは

仰向けに転がる蝉は
あの世で幸せを手に入れ
この世で真夏の死の表現者となった
君は偉大だ

さ行( 1 / 51 )

迫りくる日々

太陽の存在しない絶望的な坂道の途中で
歯を食いしばって笑ってみる
気まぐれで神様に忖度しても
新しい試練をいただくだけ

頼りなく美しい季節は
すぐにでも逞しい白の季節に押し潰されてゆく
僕は何を探していたのかも分からなくなり
通過していく時を呆然と見送っている

様々なものがぼやけていくように感じながら
最後には負の集合体のような黒が僕を覆いつくすのだろう

さ行( 2 / 51 )

少しばかり可笑しく

万物を暖める光は日向であれば
むしろ暑い程の力を残している
しかし、かつてのような日陰にまで恩恵を与えるゆとりはない
白昼のピアノから、呑気なボヘミアンラプソディーが流れてきた
少しばかり可笑しい

生まれた時から
いや、18からでもいい
どれだけの日々を重ねてきたのだろう
僕は未だに少しばかり可笑しく生きる術を
身に着けられないでいる

さ行( 3 / 51 )

手記(僕とパニック障害の30年)

目を覚ますと、ここ数日、久しぶりに布団の中から「死にたい」の繰り返しが聞こえてくる
活舌は意外にはっきりしていた
僕は決して口を動かしていない
鬱に加え、何日か前から風邪をひいたのが原因だろう
体をようやく起こすと、その声は消えてくれる

僕の鬱はパニック障害から生まれた
医者の言葉を継ぎはぎすれば、パニック障害の残遺症状
普段は自宅と店を歩いて15分の往復の繰り返し
自分には「健康のため」と言い訳しているが
実際には夜の自転車に不安があるからだ

休みの日はほとんど家にいて、電車はせいぜい2、3駅
永らく小さな生活を強いられた僕は、世の中から周回遅れとなり
今ではどこに世の中があるのか分からない

「それで生きていて楽しい?」と問われれば
「楽しいだけが人生じゃない」と答えるだろう
心の底では苦しみのみで死んでゆく自分に震えながら
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
0
  • 0円
  • ダウンロード

71 / 215