空乃彼方詩集

か行( 37 / 38 )

化石の世界

遠いジーンズがひと夏を駆ける
僕はうつむきながら少しだけ笑う
いつか彼にも訪れるのだろう
生きる難しさを思う日が

街の憤りや息苦しさを包むような黄昏
僕は少しだけ足を緩める
いつか人は今日を忘れるだろう
巻き戻しの利かない交差点で

前を向くことに絶望し
さりとて今を生き抜くのも疲れ果て
僕は少しだけ立ち止まり、期待して振り向く
建ち並ぶ化石の家々、人々、ありとあらゆる風景
強い光を浴び、それらは白々とスカスカに輝いていた

か行( 38 / 38 )

転がる蝉

アスファルトの真ん中で
仰向けで動かない蝉
それは真夏の死の表現者

美しい人はいる
美しい人間はいるだろう
美しい人生はあるのだろうか
真夏の死の表現者よ、教えてほしい

この世に幸せはあるだろうか
おそらくないと僕は思う
探せば探すほど絶望するだけ
そして最後に訪れる死の苦しみ
その後の話だろう幸せは

仰向けに転がる蝉は
あの世で幸せを手に入れ
この世で真夏の死の表現者となった
君は偉大だ

さ行( 1 / 51 )

迫りくる日々

太陽の存在しない絶望的な坂道の途中で
歯を食いしばって笑ってみる
気まぐれで神様に忖度しても
新しい試練をいただくだけ

頼りなく美しい季節は
すぐにでも逞しい白の季節に押し潰されてゆく
僕は何を探していたのかも分からなくなり
通過していく時を呆然と見送っている

様々なものがぼやけていくように感じながら
最後には負の集合体のような黒が僕を覆いつくすのだろう

さ行( 2 / 51 )

少しばかり可笑しく

万物を暖める光は日向であれば
むしろ暑い程の力を残している
しかし、かつてのような日陰にまで恩恵を与えるゆとりはない
白昼のピアノから、呑気なボヘミアンラプソディーが流れてきた
少しばかり可笑しい

生まれた時から
いや、18からでもいい
どれだけの日々を重ねてきたのだろう
僕は未だに少しばかり可笑しく生きる術を
身に着けられないでいる

kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
0
  • 0円
  • ダウンロード

70 / 215