空乃彼方詩集

さ行( 2 / 51 )

少しばかり可笑しく

万物を暖める光は日向であれば
むしろ暑い程の力を残している
しかし、かつてのような日陰にまで恩恵を与えるゆとりはない
白昼のピアノから、呑気なボヘミアンラプソディーが流れてきた
少しばかり可笑しい

生まれた時から
いや、18からでもいい
どれだけの日々を重ねてきたのだろう
僕は未だに少しばかり可笑しく生きる術を
身に着けられないでいる

さ行( 3 / 51 )

手記(僕とパニック障害の30年)

目を覚ますと、ここ数日、久しぶりに布団の中から「死にたい」の繰り返しが聞こえてくる
活舌は意外にはっきりしていた
僕は決して口を動かしていない
鬱に加え、何日か前から風邪をひいたのが原因だろう
体をようやく起こすと、その声は消えてくれる

僕の鬱はパニック障害から生まれた
医者の言葉を継ぎはぎすれば、パニック障害の残遺症状
普段は自宅と店を歩いて15分の往復の繰り返し
自分には「健康のため」と言い訳しているが
実際には夜の自転車に不安があるからだ

休みの日はほとんど家にいて、電車はせいぜい2、3駅
永らく小さな生活を強いられた僕は、世の中から周回遅れとなり
今ではどこに世の中があるのか分からない

「それで生きていて楽しい?」と問われれば
「楽しいだけが人生じゃない」と答えるだろう
心の底では苦しみのみで死んでゆく自分に震えながら

さ行( 4 / 51 )

スローペース

こんなペースじゃ間に合わない
だけど、こんなペースでしか進めない

どこで急ぎすぎたのか
どこから苦しくなったのか
動かなくなった足を少しずつ前へ出して考える
しかし、それはもうどうしようもないことだ

暗闇に一筋の光が射すのを
心の海底で微かに信じながら
僕はスローペースの前進を止めない
頬に伝うのが汗なのか、涙なのかも分からずに

さ行( 5 / 51 )

シャッター街

シャッター街のイルミネーションが暗闇に映える
僕はささやかながら煌びやかなそれに目を奪われた
その視線に力はなかったけれど

ポケットをまさぐっているのだが、心が足りないのだ
どこで落としてしまったのか思い出せない
諦めがつかない僕はその場にしゃがみ
心が落ちていないか、アスファルトに手を撫でて探した

冷たい雨が降ってきた
僕は数年前に潰れた店の軒下に避難し、またしゃがんだ。
さらに心が減ってしまって、立ち上がる力が沸かない
シャッターの中に入りたい
彼らと同化してしまいたい
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
0
  • 0円
  • ダウンロード

73 / 215