空乃彼方詩集

ら行( 3 / 6 )

緑色の雨

夜空から緑色の雨が降る

傘にはじかれ、滴り落ちる雫は透明である

緑色の雨は、夏の花火の残像なのだろう

閑静な住宅街は、静かで寂れた街並みに変わった

萎れた空気を秋の音色が鳴いて励ます


僕は例年通り、苦悩の色に埋め尽くされている

未だに幸せの色を知らずにいる

早いもので、今年も4ヶ月を切った

ら行( 4 / 6 )

凛とした光

バケツから不安が溢れ出していたから
僕はそちらに気をとられて
握り締めていた小さじ一杯の希望を落としてしまった
絶望の大海に落としてしまった


あれだけの希望を集めるのに
どれほどの時間を要したことか
どれほどの労力を要したことか


秋は同情もせず
あざ笑いもせず
ただただ凛とした光を放っている

ら行( 5 / 6 )

レール

雨に洗われたレールが朝日に照らされ輝く
少年のころ、この上を走る者たちに憧れていた
半端な力を加えても微動だにしない鉄の道
そのことに安心して疾走する列車たち
僕はどこまでも続くレールの果てを見つめていた
知りたくても叶わない遠い未来のようだった

右へ進むべきか
左へ進むべきか
どちらが善で、どちらが悪か
どちらが成功で、どちらが失敗か
どちらが賑やかで、どちらが寂れているか
どちらがささやかで、どちらが虚しいか
どちらが生で、どちらが死か

大人になった僕は修正の利かない直線の怖さに目を伏せた

ら行( 6 / 6 )

理由なきひたむき

薄汚れた倉庫の壁にもたれて
彼は煙草をくわえている
疲れきった体に冷たい風が吹き抜けた

いったい何のために頑張っているのか?
報われることなどあるのだろうか?

夢なんていつの間にか失くしてしまった
なりふり構わず走っていたから
それがこぼれ落ちても気付く事はなかった

家庭も持っていない
出世のレールからも外れている
それでも彼は何故に

くわえていた煙草が短くなった
このひとときの休息が終われば、彼はまたひたむきに働くだろう
上からの命令を黙々とこなし
困っている仲間がいれば、助けてあげるに違いない

人はいつから頑張るための理由付けが必要になったのだろう
人々はいつから彼を不自然に見るようになったのだろう
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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