空乃彼方詩集

ら行( 5 / 6 )

レール

雨に洗われたレールが朝日に照らされ輝く
少年のころ、この上を走る者たちに憧れていた
半端な力を加えても微動だにしない鉄の道
そのことに安心して疾走する列車たち
僕はどこまでも続くレールの果てを見つめていた
知りたくても叶わない遠い未来のようだった

右へ進むべきか
左へ進むべきか
どちらが善で、どちらが悪か
どちらが成功で、どちらが失敗か
どちらが賑やかで、どちらが寂れているか
どちらがささやかで、どちらが虚しいか
どちらが生で、どちらが死か

大人になった僕は修正の利かない直線の怖さに目を伏せた

ら行( 6 / 6 )

理由なきひたむき

薄汚れた倉庫の壁にもたれて
彼は煙草をくわえている
疲れきった体に冷たい風が吹き抜けた

いったい何のために頑張っているのか?
報われることなどあるのだろうか?

夢なんていつの間にか失くしてしまった
なりふり構わず走っていたから
それがこぼれ落ちても気付く事はなかった

家庭も持っていない
出世のレールからも外れている
それでも彼は何故に

くわえていた煙草が短くなった
このひとときの休息が終われば、彼はまたひたむきに働くだろう
上からの命令を黙々とこなし
困っている仲間がいれば、助けてあげるに違いない

人はいつから頑張るための理由付けが必要になったのだろう
人々はいつから彼を不自然に見るようになったのだろう

わ行( 1 / 1 )

笑えて泣けてくる

選挙期間中の名前の連呼のように
止まない雨はないとか
明けない夜はないとか
陳腐な言葉たちがなみなみと注がれる

ジャンクフードの満腹感でベルトを緩めたら
止まないプリンや明けないケーキが次々と運ばれてくる
これらを食べ尽くす別腹などもはやどこにもない

地獄に落ちてから30年が過ぎた
あの時、僕はまだ高校生だったのか
何だか笑えて泣けてくる


最近、よく死者に話し掛けるようになった
たまに声を返してくれるけれど
向こうでの生活は一切語らない

冷たい小雨降る中
札束も、針を刻まぬ時計も
世間知らずの海にあっけなく飲み込まれてゆく
何だか笑えて泣けてくる
kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
0
  • 0円
  • ダウンロード

213 / 215