空乃彼方詩集

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平和の文字が消えた時

平和がなくなれば戦争もなくなる
平和主義者が声高に叫べば戦争は流行る
戦争が激しくなればなるほど、人々は平和を渇望する


平和と戦争は真実の海底で絡まりあっているんだ
平和がある限り、戦争はなくならない
平和という文字が消えた時、戦争は滅びる


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暴力教師

その教師はこぶしを握り締め
ほかの部の生徒の顔面を殴る
何秒か間をおいてまた殴る
何発も、何発も
殴られている生徒は逃げようともせず、それを受けている

暴力教師は僕らの顧問
東大出の、銀縁めがねのインテリ暴力教師
僕らはドアを開ければ屋上の床に腰を下ろし
「ああいう奴がいるから駄目なんだ」と愚痴るしかない

いくらか時が経ち
僕は暴力教師と体育館を出たところで話をしていた
内容は覚えていない
その時、はるか頭上を何台もの自衛隊機が通過した
暴力教師は青い空に浮かぶ、それらを眺めながら
「いいよな、君らは。これから航空機のパイロットにだってなれるんだから」と言った。

僕は生返事を返していたに違いない
目を細めている暴力教師の顔を、ポカンと眺めていたに違いない

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病院の桜

いつもと同じ時間の
いつもの電車に乗り
いつものように立ったまま2駅
駅から少し歩き、僕は病院へ吸い込まれていく


18の時から目がアスファルトばかりを欲しがるようになった僕に、桜が上から呼びかけてくる
「早く見ないと、散っちゃうよ。今日が最後だよ」と
まだ桜は咲いていた
満開といってよかった


病院内は暗く沈んでいて
それでも、ぱっと電気はついたのだ
小さな子が手をいっぱいに広げて
ふわふわに膨らんだ空気を持ち運んで、母親にプレゼントする
その笑顔を見て、僕はいつものように缶コーヒーを飲みながら、少しだけ優しくなれた


帰り際、アスファルトはひらひらと淡く色づいていた
はっとして桜を見ると、変わらずに咲いていた
また来年、足元しか見ない僕には想像もつかない遥か未来
明日は花散らしの雨らしい
次にここに来る時はきっと葉桜

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独りよがりの幸せ

きっと今夜あたり
僕はベッドの上で
このまま眠って、眠って、眠り続け
二度と目覚めることなく、眠り続けたいと思うのだろう

そんな独りよがりの幸せを祈りながら
生きたいと願う僕の体のどこか、心のどこかと衝突して
その痛みで明日の朝
頬に涙が伝っているのだろう
kumabe
作家:空乃彼方
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