空乃彼方詩集

は行( 11 / 35 )

独りよがりの幸せ

きっと今夜あたり
僕はベッドの上で
このまま眠って、眠って、眠り続け
二度と目覚めることなく、眠り続けたいと思うのだろう

そんな独りよがりの幸せを祈りながら
生きたいと願う僕の体のどこか、心のどこかと衝突して
その痛みで明日の朝
頬に涙が伝っているのだろう

は行( 12 / 35 )

ふたつの結論

仮に天分を存分にいただいたとしても
平凡や普通の前には頭を下げるしかない
それがこれまで生きてきた僕の結論

時を重ねるごとに
平凡や普通の内に秘められた高貴や偉大の力に圧倒され
憧れは募るばかり

それに比べて、天分とか天性という危うさ、脆さ、弱さ
毒性すら帯びているという疑念が強くなる
時を重ねるごとに

それでも僕は才能を愛するという、もうひとつの結論を出す
いつかは枯渇する儚さ
ひと時の美にちがいない
ひと時の眩しさにちがいない
よく分かっているつもり
それでも僕は抱きしめていたい



は行( 13 / 35 )

ヒーロー

いまでも君のことが、時々だけど頭に浮かぶ
どうしているのだろうかと

あの頃、君は僕のヒーローだった
君の描く放物線は、哀しいほどに美しく
僕に明日も生きてみようと思わせてくれた


君はバカだね
君を見捨て切れない僕もバカだ
みんな器用に見捨てていくのに
好きだったことを忘れていくのに


あの夏ははるか遠く
君がとてつもなく大きく映り
未来が無限に広がっているような思いは砕け
いま静かに記憶の中で眠っている

は行( 14 / 35 )

僕らは今日にしか死ねない

見知らぬ少女が死んだという
外国で戦渦に巻き込まれたのではなく
事件や事故でもなく
闘病生活を送っていたわけでもない
元気だった少女が突然、死んだという

不条理という言葉が浮かぶが、少し青くさい
もう長いこと生きてるんだから

僕らは他の生物との違いを見せつけるため
心に思想や希望
それから理想や尊厳、努力、未来
さまざまな、美しいと感じる物を作り上げてきた
良かれと思い、作り上げてきたのだ
そして、その心の風景を眺め、うっとりしていた

しかし、こうして少女が突然、死んだ時
それらの建物が揺れだし、崩れそうになり、僕らは動揺を隠せなくなる
どうしたのだろうかと?
他の生物たちが、僕らを蔑むような目で見ている

「もう、いい加減分かれよ」と
僕らは明日に死ねない
みんな今日、死ぬんだ
3日後の今日、30年後の今日、50年後の今日

僕らが生命の一員である限り、死は特別なことじゃない
そんなことまで忘れていた。忘れようとしていた
心の埋め立てに夢中になって
そんなことまで忘れていた

kumabe
作家:空乃彼方
空乃彼方詩集
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