空乃彼方詩集

な行( 2 / 11 )

ナイフ

僕が慣れないナイフを使ったからか
アイツとは事切れてしまった

こいつは面白い
この切れ味で社会との関係も断ち切ってしまおうか?
無駄なものが多すぎて難解に絡まった糸たちを救済してやろうか?

僕は一瞬、空を見上げ
精一杯高い場所から、ナイフを地面に突き刺した
鈍い音と共に舞い上がる血しぶき
白いスニーカーが真っ赤に染まった

僕はなんだか寒気がして
その場でスニーカーを脱ぎ捨て
裸足のまま全力で走り去った
ナイフは力強く握り締めたままで

な行( 3 / 11 )

夏祭りの色

長きにわたる曇天を掻き分け、太陽が顔を出し、大声を張り上げる
冷房を入れても、喉は冷たいものを欲しがり
僕は自分で補充した自販機で冷えた缶コーヒーを買う

7時を過ぎてもまだ明るさが残っている
僕は店を閉め、歩いてドラッグストアに向かう
途中、微妙な距離感で踏切が鳴り始めた
降りてくる遮断機を見ながら、僕は走り出し、軽く背を丸めてくぐった

走って生きてた遠い昔を思い出していた
彼から見たいまの僕は、どう評価されるのかな
そんな蔑むような眼を向けないで欲しい
哀れむような眼もいらない
君の言いたいことはわかるよ
それでも僕は、まだこの世にしがみついているんだ

彼方で響く太鼓の音
着物のおばさんのグループとすれ違い、後ろから少女たちの楽しげな声が聞こえた
僕は少しだけ長い瞬きをした
遠い夏祭りの色が映った


な行( 4 / 11 )

何もかも解からなくなってしまった

僕は大の字にうつぶせになり、地球を抱いてみた
鼓動は僕か、地球の鼓動か
このまま、土に帰ろうか
地球よ、世界よ、俺は何でこんな心の形で存在してしまったんだ

時々、冒険して死の恐怖を存分に味わい、鼓動が速くなり、苦しい。
死にたくないと願う
そこから逃れ、しばらくして、ぼやぼやと浮かび上がるのは
遅かれ早かれ死ねるという安堵

解らない
生きたいのか死にたいのかそれさえ
もう、何もかも解らない

な行( 5 / 11 )

年末

暮れてゆく
暮れてゆく
今年もまた暮れてゆく
来年の話をしても鬼は真顔だ
たまに寂しげに微笑むだけ


当然の権利のように苦しみや悲しみは降り積もり
その上を孤独が土足で歩いてゆく
生きてゆこうとするならば
もうこれらの解決の糸口はない
僕の死とともに一緒に消えるだけ
その時、この世界に残せるものはあるだろうか
あるとすれば、これまで降り積もった物のひとかけらを光に変換する魔法


今年もあと三日か
地層に組み込まれる世界中の数えきれない小さな物語たち
さよなら
kumabe
作家:空乃彼方
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