空乃彼方詩集

た行( 7 / 18 )

どうにもならないものがあるんだ

記憶のない遠い朝
天からの使いとして、ふわふわと舞い降りる小さな羽は
触れられるほどの間近に至福の太陽を浴びて
神々しく輝いていた

祝福の中、緩やかに下降する天の子ら
彼らは例外なく、柔らかな笑顔を浮かべていた

努力だけでは、どうにもならないものがあるんだ
才能だけでは、どうにもならないものがあるんだ
強さだけでは、どうにもならないものがあるんだ
優しさだけでは、どうにもならないものがあるんだ
金でも、腕力でもどうにもならないものがあるんだ


黒ずんだ物体が緩やかに下降し、やがて土の中に埋まっていく
ひとつ、そしてまたひとつと
人々は嫌なものを見てしまったとばかりに、顔をしかめ、足早に通り過ぎていった

た行( 8 / 18 )

時の奴隷

朝が来れば目覚め、朝食を威勢よく食らい
昼になれば、忙しく昼食を食らい
夜になれば、幾分ゆったり夕食を食らい、やがて眠る
 
結局、生物は皆、時の奴隷なのだ
とりわけ人はその色彩が強い
 
立ちなさい
歩きなさい
しゃべりなさい
学校へ行きなさい
働きなさい
結婚しなさい
老いなさい
死になさい
人は長くて100年の中で、これらを強いられる
アンチエイジングなど、些細な抵抗に過ぎず
時の命令に逆らえた者はこれまでにない
 
人生の短さに、46億才の地球は笑い転げ
少しだけ同情し
その短い夢に、喜び、悲しみを小さな器に詰め込み、人は旅立ってゆく
もう一度だけやり直しの嘆願書は、時によって無残に破り捨てられ、風に舞って空へ消えた
 

た行( 9 / 18 )

第2の僕

18で僕は1度死んだ
どこからか現れた第2の僕は
地球の環境に全く適応できず
1日2度、救急車で運ばれた
 
第2の僕は、最初の僕の人生の続きを引き継いだ
とてもやっていけそうにない
周りは、死んだ彼と第2の僕が似ているらしく
僕がずっと生き続けていると疑わなかった
それでも、死んだ彼ができた事ができない僕に呆れ
1人、2人と去っていった
いつしか僕は孤独になった
 
第2の僕が生まれて、間もなく29年になる
未だに地球に適応できないでいる
よくこんなにも生きてきたものだ
 
今の僕は、死んだ彼に比べて出来ない事が多い
ただ、これだけは言える
死んだ彼よりも、今の僕は必死に生きてきた
比べ物にならないほど

た行( 10 / 18 )

小さく泣いて、旅をする

朝、目覚めるたびに、新しく生まれる感覚がある
だから僕は小さく泣く
今日を生きる苦しみを凝縮させるように
 
歴史の光が眩しく感じても
振り返らない方がいい
ただ、その背中に温もりを感じて
前だけ見ていればいい
車やスマホにぶつからぬように
石ころに躓かないように
つま先を確認しながら
気分を変えたければ、首を後ろに倒し、宇宙を見るのもいい
左右の視界に入る景色が、秋から冬へと流れてゆく
 
今日一日が終わってゆく
苦しみの旅路の果てに何が待っているのか
それがぼやけているから、今も生きているのだろう
kumabe
作家:空乃彼方
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