た行( 7 / 18 )
どうにもならないものがあるんだ
記憶のない遠い朝
天からの使いとして、ふわふわと舞い降りる小さな羽は
触れられるほどの間近に至福の太陽を浴びて
神々しく輝いていた
祝福の中、緩やかに下降する天の子ら
彼らは例外なく、柔らかな笑顔を浮かべていた
努力だけでは、どうにもならないものがあるんだ
才能だけでは、どうにもならないものがあるんだ
強さだけでは、どうにもならないものがあるんだ
優しさだけでは、どうにもならないものがあるんだ
金でも、腕力でもどうにもならないものがあるんだ
黒ずんだ物体が緩やかに下降し、やがて土の中に埋まっていく
ひとつ、そしてまたひとつと
人々は嫌なものを見てしまったとばかりに、顔をしかめ、足早に通り過ぎていった
た行( 9 / 18 )
第2の僕
18で僕は1度死んだ
どこからか現れた第2の僕は
地球の環境に全く適応できず
1日2度、救急車で運ばれた
第2の僕は、最初の僕の人生の続きを引き継いだ
とてもやっていけそうにない
周りは、死んだ彼と第2の僕が似ているらしく
僕がずっと生き続けていると疑わなかった
それでも、死んだ彼ができた事ができない僕に呆れ
1人、2人と去っていった
いつしか僕は孤独になった
第2の僕が生まれて、間もなく29年になる
未だに地球に適応できないでいる
よくこんなにも生きてきたものだ
今の僕は、死んだ彼に比べて出来ない事が多い
ただ、これだけは言える
死んだ彼よりも、今の僕は必死に生きてきた
比べ物にならないほど
た行( 10 / 18 )
小さく泣いて、旅をする
朝、目覚めるたびに、新しく生まれる感覚がある
だから僕は小さく泣く
今日を生きる苦しみを凝縮させるように
歴史の光が眩しく感じても
振り返らない方がいい
ただ、その背中に温もりを感じて
前だけ見ていればいい
車やスマホにぶつからぬように石ころに躓かないように
つま先を確認しながら
気分を変えたければ、首を後ろに倒し、宇宙を見るのもいい
左右の視界に入る景色が、秋から冬へと流れてゆく
今日一日が終わってゆく
苦しみの旅路の果てに何が待っているのか
それがぼやけているから、今も生きているのだろう