さ行( 50 / 51 )
ショウワの空
秋の日、ショウワの空は青く澄んでいた
スタートラインに立つと、自らの鼓動が聞こえた
見渡せば日焼けした、最後の昭和少年たちの精悍な眼差し
負けたくなかった
夏の日、ペットショップでザリガニを買いに行く
泥にまみれて捕まえようとしても、手に入らない大きな大きなザリガニ
突然、ショウワの空が黒ずんだ
昼間なのにこんな黒い空見たことない
絵の具で間違えた色を選択された空
程なく雨は路面をたたきつけた
ずぶ濡れになりながら
ザリガニを無事に持ち帰ることだけを考え、ペダルを強くこいだ
放課後の帰り道、君と、君と、そしてキミと時間を忘れて話したね
いつしかショウワの空は橙色して僕らを大きく包んでいた
さ行( 51 / 51 )
シテイル
ぼんやりとしたカミソリ雲が空を征服している
女子高生が今が盛りと制服している
ビールをがぶ飲みしたサラリーマンが豚腹している
体調悪そうなOLが密かに頓服している
聖人君子に出会った村人が敬服している
悪人が拘置所で刑服している
ぼんやりした雲が限りなく黒に近い灰色になって
光の矢を放ち、怒声を浴びせ、大量の水を叩き落した
女子高生サラリーマンOLも
村人聖人悪人も
役立たずの傘を両手で握りしめたり、軒下で雨宿りしたり、逃げまどったり
皆、似たような格好をしている
た行( 1 / 18 )
遠い日の友へ
生まれて何十年も経てば、人間ボロボロになるね
僕も君もそれはもう見事なまでに
遠い遠いあの日、僕らは夢を語り合ったね
どうやら僕も君も壮大な嘘をついてしまったようだ
この先、苦しいことや辛いことがあるのは分かっている
むしろ、残りの人生のほとんどをそれらに覆い尽くされるだろう
ただ、そのわずかな隙間にささやかな幸せの侵食を期待する
僕らには顔を赤らめる言葉ではあるけれど
それを願う心が枯渇したら、人生の敗北を認めたも同然だから
夕暮れの美しさはあの頃と変わらないのに
僕らは夢を語り合う権利を失った
その資格があるのは瞬間の若葉たちだけ
僕は傷を深めながら進む。色をなくした道を
そして、ひたすら願う。どこかで君の笑顔がひっそりと咲いているよう