:サンドリオンの店内 -----
バーテン 「ご注文は、いかがいたしましょう...?」
女 「あのう... ウイスキーをいただけますか?」
バーテン 「ハ? ハイ... 何かご指定のものはございますか?」
女 「銘柄...?」
バーテン 「はい... ウイスキーにも色々と種類がございまして、スコッチ、アイリッシュ
カナディアン、アメリカン、そして国産物と概ね5つのタイプとなるのですが... 」
女 「そんなに種類があるんですか... 」
バーテン 「それぞれにおのおのの特徴がありますので、お好みのものをご指定頂ければと
思いまして... 」
女 「そうですか... でも私... 」
バーテン 「...どうかなさいましたか...?」
マスター 「失礼ですが、お客様..... もしかしてウイスキーを口にされたことがないのでは?」
女 「エ? エエ... 実はそうなんです... 私、元々お酒は駄目な方で..... 」
バーテン 「それでしたら... カクテルにでもなさった方が... 」
女 「いいえ、それには及びません... それより私、どうしてもウイスキーを飲みたいん
です... 」
バーテン 「ハァ... 」
マスター 「あくまでもウイスキーに拘られるのですね... 」
女 「今夜だけはどうしても... 私、飲みたいんです..... 」
マスター 「... 余程のご事情なんですね... 」
女 「いいえ... そんな大した理由でもないんです... ほんの些細なことなんですよ...
ほんの些細な... 」
マスター 「... 承知いたしました」
バーテン 「マスター...」
マスター 「それでは、そのお飲みになりたいウイスキーですが、何でもよろしいのでしょうか?
それとも銘柄か何かをご存知ではないでしょうか...?」
女 「そういえば... 確かメーカーズだとか何とか... 」
バーテン 「それなら多分、メーカーズマークのことじゃないでしょうか?」
女 「そう... そんな名前だった... メーカーズマーク... そう、それです」
バーテン 「しかしそのメーカーズマークにも色んな種類があるんですが... 」
女 「それは... ゴールドタイプと聞いた気がします... 」
マスター 「おそらくそれは、ゴールドトップのことでしょうね... 」
女 「メーカーズマーク、ゴールドトップ.... そうです... それに間違いないわ...」
バーテン 「かしこまりました... 今、ご用意いたします...」
:ロック・グラスにランプ・オブ・アイス... つまり握りこぶし大ぐらいの氷が入れられ
そこへゆっくりとバーボンが注がれる-----
マスター 「それにしましても... お酒を召し上がらないお客様が、よくご存知でしたね...
こんなお酒を」
女 「いいえ... 私が知ってたわけじゃないんです... これは受け売りなんですよ... 」
マスター 「だとすればその方は、余程バーボンのお好きな、かなり通のかたですね... 」
女 「そうですね... 確かにお酒が好きな人ですね... 」
バーテン 「お待たせいたしました... どうぞ」
:彼女の前に、グラスが置かれた-----
女 「どうも... 」
バーテン 「失礼ながら... 元々はお酒は飲まれないとお聞きしましてので、水割りでお出ししようかと
思ったんですが、それではこのお酒の折角の味わいが半減いたしますので、あえてオンザ
ロックでご用意いたしました...
ですので、もしお口に合わないようでしたら、その時にはお申し付け下さい... 」
女 「それはどうも... ありがとうございます... 」
マスター 「こちらが、バーボンウイスキーの逸品と云われるメーカーズマークのゴールドトップで
ございます... 」
女 「これがそうなのね... いい香りがする... 」
:彼女はゆっくりと、一口----
マスター 「いかかでしょうか... お味の方は...?」
女 「... こんなに... こんなに美味しいなんて... 」