アクセルは次第に自分のしていることの馬鹿らしさに耐え難くなっていた。
最初の恋人二人から、続けて手痛い仕打ちをされて以来、女全般への復讐心が根本にある
のは知っていた。
真剣な心の傾倒などというへまなことにならないよう、自分をコントロールしていた。
女の子を引っかけたり、捨てたりするときには、良心に対し意識的に、これは復讐だと言
い聞かせた。
ウーテは、わざわざ好みでないタイプだから選んだ。ところが、何としても結婚まで持ち
込もうとするウーテの執着は凄まじかった。
アクセルは何度か、わざをけんかをふっかけて関係を絶とうと試みた。が、そのたびに、
ウーテが余りにもへりくだって謝るので、それを受け入れざるを得なかった。
ローザとは、そのままうまくつきあえたかもしれなかった。飾り気が無くセクシーで、し
かもセンスがあった。しかし他の男の存在は理屈抜きに気に入らない。かと言ってローザ
がはっきりトーマスとは別れないと言っている以上、それを押し切ろうとするほどの馬鹿
ではないつもりだった。
ある日、一人で車で家を出た。週末が始まろうとするのんきな午後である。
悪友のヘルマン、アントンの二人と待ち合わせていた英国公園のビヤガーデンで、彼らが
もう二人の女をテーブルに引き込んでいるのを見て、アクセルは皮肉に肩をすくめた。女
たちは十歳は年上かと見えた。
マリアンネというのが、色白の豊満なタイプで、もう一方のよく日に焼いたやせ形の褐色
の肌のブリュネットは、スザンネといった。
性格も対照的で、マリアンネは開けっぴろげでよく笑い、スザンネはとりつきにくい感じ
だった。特に細身のたばこをくゆらしながら、深い緑色の目でじっと人を見据えるときが、
自分と世の中を知り尽くした大人の女そのものだった。
三、四時間が、特にどうということもなく過ぎた。若い男三人の間で、話題毎に議論が白
熱する以外は、女たちの仕事先の人物評を面白く聞いたほどのことで終わり、誰かが誰か
に惚れたと言った気配はなかった。
アントンがマリアンネを、アクセルがスザンネを車で送って行く間に、ヘルマンは用事を
ひとつ済ませ、3人でまた行きつけの店で会うことを約して、まだ日の高い夏時間の六時
頃解散となった。
スザンネとは余り喋りもしなかったアクセルは、ごく神妙に運転して彼女の住まいについ
た。
途中、離婚して六才の男の子と暮らしている、と突然スザンネが言った。アクセルは冗談半
分に、
「扶養料はちゃんと貰っているの」
と尋ねた。
「そんなもの要らないわ。自分の生きる分くらい自分で稼ぐわ。子供の養育費だけよ」
鬱蒼と夏葉の生い茂るカスタニアの並木道に面した、あっさりしたハウスだった。わりに
しゃれた手すりの階段が入り口についている。
その前で、アクセルがエンジンをかけっぱなしのまま待っているのに、スザンネはなかな
か車から降りなかった。
「コーヒーでもいかが」
アクセルは不意をつかれて、横の女を見た。
スザンネはそっぽを向いていた。車の少ない静かな通りである。
そのまま三日間、アクセルはそこにとどまった。スザンネは年下の男への突然の執着を率
直に自分に認めた。
アクセルの女関係を聞いても、無い方が不思議だわ、と言ったのみだった。
アクセルの方はかなりはっきり計算をしていた。これで、ウーテともローザとも切れるだ
ろう、と。
アクセルは電話で、ウーテには第二の女ができたこと、ローザには第三の女ができたこと
を伝え、双方に対し、付き合いを断つと宣言した。
アクセルはひどく自由を感じた。スザンネとは元々一時の関係のつもりだった。