江戸川日記

僕は泣いている( 5 / 10 )

何も見えない。何も聴こえない。街が止まっている。胸が苦しい。心臓が痛い。頭が揺れて猛烈な吐き気がする。それでも歩いた。必死に歩いた。江戸川へ辿り着いた時、僕の目に満開の桜が飛び込んできた。

僕は泣いている( 7 / 10 )

「俺は父親も、母親も東京大空襲で失くしちゃったから、おじいさんと、おばあさんに育ててもらってね。花見にも、おじいさんと、おばあさんに毎年連れて来てもらってたんだけど、昔はみんなもっと陽気だったよ。テレビなんか見てると、どこも花見客のマナーが悪い、なんてやってるけど、あんなもんは可愛いもんで、昔は、相撲部屋の力士たちが桜の木で鉄砲やって、そこら辺の花を全部散らしちゃったり、素っ裸で「突撃~!」なんて言って、一斉にナンパを始める学生たちがいたりしてね」

僕は泣いている( 8 / 10 )

「その中でも特に凄かったのが近所に住んでいた大治っていうヤクザもんで、そいつが泥酔して桜の木に乗って、ウンコしだしてさ。周りにいた人たちから「汚ねぇ~!」、「帰れ~!」とか言われながらも拍手喝采浴びて、そしたら気分が良くなったのか、益々調子にのって、ニシキヘビみたいな、ぶっとい一本糞をして、下でみんなが「危ねぇ~!危ねぇ~!」なんて言ってたら、バキバキバキって音がして、枝が折れて、大治は頭を打って死んじゃった」

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