空乃彼方詩集

か行( 5 / 38 )

この街の夕暮れ

穏やかな一日だった

子供たちが別れの言葉を交わしている
「じゃあね、またあした」と
彼らには数え切れない明日がある
だから残酷に今日という日を切れるのだろう

家路を急ぐサラリーマンやOL
自販機でぎこちなく煙草を買い、それを咥えて重力に屈したように歩きだす老人

酒と煙草の色したうらぶれた街
西のかなたのオレンジの照明が無理にでも輝かそうとする

しかし懸命に照らせば照らすほど
街並みは淋しげに写るのだ
この街の登場人物の苦悩や孤独までもがくっきりと

それでも懲りずにまた明日も照明は変わらぬアングルで同じ場所に光を当てにくる
いつの日か来るかもしれない奇跡を求めて

か行( 6 / 38 )

カンノの結婚

寒の戻りの夜

仕事からの帰り道

ポツポツと落ちてくる雨は冷たい

僕はこじんまりした公園に足を運んだ

役立たずの公衆電話はまだ置いてある



僕のお目当ては公園の中央にある1本の桜

ライトアップもされない桜を下から見上げた

夜の黒さの中でぼんやりと浮かぶ美しい白



あなたも僕の人生の暗闇を

その白さで柔らかく照らし続けてくれた

セーラー服を着たあなたの演じる姿を見て思った

女優とは作られるものではなく、生まれるものだと



カンノ、結婚おめでとう

あなたの幸せと、これからも末永く咲き続けてくれるよう願っています

心から

か行( 7 / 38 )

心を纏う服

見覚えのあるおじさんが店に入ってきた
こないだまで普通に歩いていたのに
いまは杖をついている

おじさんのタバコを渡し、値段を伝えると
おじさんは片手で財布を探る
もどかしく、少しばかり寂しい時が積もっていく
ようやくおじさんが小銭を出し、僕は安堵した

店を閉め、コンビニへ立ち寄り、暗がりの家へ向かう
居酒屋から炭酸の抜けたような歌声が
冷たい夜風に乗っかって僕の耳に届く
なんとも幸福そうな声だ

足の裏が痛い
靴底が薄いからだろう
僕を纏っているセーターも
きっと薄いから心が痛いんだ

師走前から輝いている
ひっそりした住宅街でひときわ目立つ派手な電飾
クリスマスも終わったことだし
そろそろ消してくれないかな

僕は電飾に恨めしげな視線を送り
少しだけ目を伏せ、それから足を速め
暗がりの家路へ急いだ

か行( 8 / 38 )

解サンタクロース

街に望みもしないサンタがやってくる
解サンタクロースがやってくる

ベストがなければベターな選択
いいところがないならよりマシなほう
知識人の仮面をつけた凡人たちが口をそろえる
テレビカメラに向かって力説することで
自分の存在意義を確かめている

解サンタクロースは人生の縮図なのかもしれない
より素晴しい方を選択することなど転がっているだろうか?
大概はよりマシなほう
進むも地獄、退くも地獄の選択肢

どちらも選びたくないけれど
どちらかを選ばなければ、このまま終わってしまうような気がして
僕らは顔をしかめながら選択を続けていくのだろう
kumabe
作家:空乃彼方
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