遺伝子分布論 22K

アミの話14

  遠隔機すべて破壊されたにもかかわらず、
 第3小隊はハヌマーンの搭乗機しか出してこない。
 おそらく搭乗機射出に手間取っているだけ
 だろうが、搭乗機戦闘に慣れていない。
 
 まずAI操作の遠隔パズス、ベールゼブブ、
 ルシファーの3機がアミのハヌマーンをけん制
 しながら第3小隊母艦に接近する。
 
 アミは無理にその3機と戦わない。
 
 まず黒い影が第3小隊母艦から静かに
 飛び出したが、敵側から検知されていない。
 
 次に、搭乗機ハッチから黄金の光が漏れだした。
 
 ハス型の台に鎮座したそれが、敵遠隔3機を
 順番に指さす。その順に、3機が消し飛んだ。
 
 敵母艦と敵搭乗機5機はまだ勝利を確信した
 まま急接近を続けている。が、混乱はすぐに
 訪れた。
 
 アシュラ型の後継機、全身黄金の機体、シャカだ。
 
 ひょうたん型の遠隔ポッドから火炎を放ちながら、
 シャカが向かってくる5機の中に飛び込む。
 火炎を放ちながら、時々敵機のうちのどれかを
 指さす。
 
 指されたベールゼブブ搭乗機の腕が飛んだ。
 
 イゾウ型搭乗機が勘づいて飛び出す。
 
 狙撃だ。
 
 が、インドラがいない。どこにもいない。
 イゾウ型が狙撃を受ける。そして、出撃した
 ガネーシャとパールバティに捕まった。
 
 敵搭乗機4体は、立て直してシャカにフォーカス
 するが、敵火力機能の発動を見てから、シャカの
 防御機能が発動した。
 
 4機の遠隔ポッドが四面体シールドを形成する。
 
 その間、最後方に回り込んだハヌマーンが、
 急近接して後尾のベールゼブブを沈める。
 
 シャカに引き続き3機群がるが、敵のすべての
 火力機能をぎりぎりでかわす、かわしながら
 下がる、時に相手ななめに寄ることでかわす。
 シールドはもう使えない。
 
 そして、勝負あった。
 
 ガネーシャが合流して、シャカを守る。その間も
 敵残り3機を狙撃し続けるのは、インドラの
 後継機、ステルス機能をもつ黒色機体シヴァだ。
 もちろん、ウインが搭乗、操縦する。
 
 敵脱出ポッドを回収したハヌマーンと
 パールバティも合流して、戦闘は、死闘は
 終わった。
 
 いや、第1第2小隊を援護してから終わった。
 第3小隊戦の状況を確認してすぐに敵は撤退。
 短時間のため被害は軽微。
 
 けっきょくのところ、敵脱出ポッド5台確保の
 大戦果、相手側は、新加入パイロット5人を
 捕獲されるという大失態となった。
 

アミの話15

 「もう二度とやりたくない」
 とフェイク・サンヒョク談。
 
「同意」とエマド・ジャマル。
 ゲームのほうはやるけど、と続ける。
 
 アミは実家に戻ってペットを抱いて死んだ
 ように長時間眠る。
 
 ウインはひさしぶりに高い食材を買い込んで
 家族で食べる準備をする。
 
 マルーシャは、バイト行ってきたよーと
 ふつうに帰宅。軍で戦闘してきたとは
 言わない。
 
 高額の報酬を得た彼らは、音楽活動の
 ための機材の購入や買い替えができると
 喜んだ。
 
 軍からの正式配属のオファーもあったが、
 丁重にお断りした。軍もあっさり諦めた。
 投降パイロット全員の登用が成功しそう
 だったからだ。
 
 彼らはそのまま第3小隊の機体で訓練を
 行い、そのまま狙撃構成で戦うという。
 
 コウエンジ連邦に戦闘を仕掛けてきた
 宙賊は、原理主義戦闘国家を背後に
 活動していた。
 
 今回の件により、しばらくはまともな
 活動ができないだろう。
 
 それ以上に、大きな事実が判明していた。
 
 そもそも確保されたパイロットが登用に
 応じたのは、原理主義戦闘国家に在住
 する家族の確保が可能であることを
 伝えたからだが、
 
 特殊工作員による全員分の家族確保が完了
 したのち、自ら話し出した。
 
「全員、一年前に第2エリアから家族ごと
 移ったらしい」
「君たち同様、ゲームの戦績が良くて、かつ
 経済的に厳しいところをスカウトされたとか」
 
 あとでハントジムに練習にきていたトムから
 聞いた話だ。おっと、今のは機密だから
 聞かなかったことにしてくれ、とも
 付け加えた。
 
 そう、脱出ポッドから出てきたのは、アミ
 たちと同年代の、学生たちだったのだ。
 

「承」( 1 / 20 )

ヘンリクの話

  ヘンリク・ビヨルクという19歳の青年の
 話をしていく前に、彼が住む都市について
 の説明をしていきたい。
 
 ヘンリクが住む都市は、月の裏側の
 ラグランジュポイント、重力が安定している
 ため宇宙空間での都市建設が比較的
 行いやすい空域にある。ここは、第3エリア
 と呼ばれている。
 
 その構造都市は、
 バームクーヘン型都市、マヌカと呼ばれている。
 バームクーヘンといっても、円形をしている
 わけではなく、食べやすいサイズに切り出した
 ときの形状だ。
 
 ざっくりとした言い方をすると、だいたい
 一辺100キロメートルの立方体に近い大きさ。
 
 これが弱重力を生み出すため、ゆっくりと
 回転しており、中心軸に長大なケーブルで
 接続されて、その先に同型のバームクーヘン型
 都市であるメイプルが存在する。両構造都市が
 引っ張りあいながら回るかたちになる。
 
 都市マヌカは、メイプルも同様であるが、
 階層構造をなしており、高さ100キロの
 構造の中に50層が存在する。
 
 各層は、1キロの厚さの地面と、1キロの
 高さの空間と、そのうえにまた1キロの
 あつさの天井、次の層にとって地面、を
 もつことになる。
 
 この型の構造都市は、比較的新しく、過去の宇宙
 空間の構造都市の歴史を受け継いで、様々な工夫
 がなされている。
 
 地面にあたる部分に充填する素材も、強度が
 ありかつ軽量のものが使用されている。金属
 なども資源利用の関係で極力使用しない。
 
 気密をたもつために、生きている樹木、粘性の
 樹液をもつものが多用されている。木の繊維を
 ハニカム構造に成型しなおした部材も
 使用されている。
 
 建築物の種類を、使われている素材の一番割合
 が多いもので決めるとしたら、木造建築物、
 といってもおかしくないレベルだ。
 
 この階層都市を上から見ると、正方形の面の
 中央北側と南側に層間をつなぐ主要交通
 機関がある。
 
 構造都市が回転する方向に東西、
 直行するかたちで南北だ。
 
 ヘンリクが住むのは、その最下層だった。
 

「承」( 2 / 20 )

ヘンリクの話2

  構造都市マヌカの人口は2億人と少しだ。
 この都市の適正人口は3億から5億人だが、
 都市のスペック上は10億人住んでも
 問題ない。
 
 上から50層目にあたる最下層では、
 約100万人が暮らしている。下層にしては
 多いほうだ。
 
 おそらく、大学が設置されていることが
 原因で、人口が多い。マヌカでは大学
 設置が全体的に遅れており、特に中間層に
 まだあまり設置されていない。
 
 最下層の中央北壁から広がる都市がノース
 フィフティで人口40万人、南壁側に
 あるのがシンジュクで20万人、残りの
 人口は各鉄道駅周辺に散在する。
 
 ノースフィフティとシンジュクをまっすぐ
 結ぶ鉄道が中央線、途中で分岐して西側エリアを
 迂回して中央線に再合流するのが西線、東側
 エリアを迂回して同じく戻ってくるのが東線だ。
 
 シンジュク駅を出ると次がキタシンジュク駅、
 そこから西線が分岐して、マゼラン駅、
 ミノー駅と続く。
 
 そのミノー駅近くの安いアパートにヘンリク・
 ビヨルクは家族とともに住む。
 
「ただいまー」
 午後一の大学の授業を終えて自宅に帰ってくるが、
 家には誰もいない。親はヘアーサロンをやって
 いて、二人とも閉店まで帰ってこない。
 
 弟が二人いるが、ふたりとも家を出ており、
 上層でそれぞれ一人暮らしをしながら
 美容や理容の勉強をしている。
 
 ヘンリクはスポーツウェアに着替えると、
 また外に出た。アパートは駅前商店街の上に
 あるが、裏口から路地に出る。
 
 そこから、南東方向へ、軽く走ったり歩いたり
 しながら、家がまばらになっていく、水田と
 小さな水路が敷かれた田園風景だ。
 
 気温は春から夏の設定に変わるころだが、
 すでに暑い。薄い羽をもったトンボと呼ばれる
 昆虫が水路わきに止まっている。
 
 駅から線路沿いに北東方向に走れば堤防幅
 200メートルほどの川もあるが、今日は
 そっちへは行かない。南壁の山のほうへ向かう。
 
「午後から雨とか言ってたな」
 
 今日は負荷をあげるための重りもつけていない
 ため、やろうと思えば山道を走って登れるが、
 いつもの丘の神社のところで折り返した。
 
 往復1時間ほど運動して、シャワーを浴びたら
 端末を前にして情報をチェックする。
 
Josui
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