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アミの話9

 「じゃあ、アミが引きつけてからの前衛狙いで!」
 このあたりの指示はウインが出す。
 
「オッケ!」アミが返す。
 
 敵小隊が中央部に集まってくるのに合わせて
 第3小隊もガネーシャを先頭に混戦を受ける
 構えだ。
 
 ガネーシャが前に出てきたのを見て、オーガ型
 とヘカトンケイル型が挟みこむかたちで寄る。
 向こうの狙いはガネーシャでなくその後ろにいる
 アシュラだ。
 
 両軍が衝突しそうな直前で、アミのハヌマーンが
 飛び出し、後方へ回り込む動きをする。
 それに対し、相手小隊はあきらかにフォーカス
 が乱れた。
 
 前衛ふたりはすでに捕縛機能を使って戦いを
 開始してしまっている。相手側はアンリマンユ、
 イフリート、リリスの3機でハヌマーンを
 瞬殺するつもりでフォーカスを変えたが、
 アミの機体は避けるし固い。
 
 キントウン形態のまま旋回を続け、火力機能を
 使ったと見えたら1秒少し持つシールドを
 張って耐える。
 
 その間にまずヘカトンケイル型が墜ちた。
 
 ハヌマーンは3機に狙われながらそのうちの
 一機リリスをその棒で撃破したのちについに
 撃墜される。
 
 イフリートとアンリマンユが反転しようと
 したときにはオーガ型もすでに撃破されていた。
 アンリマンユは瞬間火力、イフリートは
 継続火力に優れていたが、4対2ではさすが
 に厳しい。
 
 パールバティが相手後方に放った煙幕弾で
 一瞬退路を断たれた敵2機は、ついに捉まった。
 
 これで敵母艦は搭乗機を使用せずに退却する。
 
 けっきょく、相手小隊遠隔機11機大破に
 対し、第3小隊はハヌマーンの遠隔1機という
 初戦にもかかわらず、小隊構成が有利という
 のはあったが、大きな戦果を挙げた。
 

アミの話10

  次の作戦の打ち合わせだ。
 トム・マーレイの説明が始まった。
 
「次回以降ですが、みなさんには負けて
 いただきます」
 
 今回戦った、火力構成の小隊とは実力どおり
 戦ってよい、ほかのタイプの小隊と当たった
 場合、勝てそうでも劣勢に見せたうえで
 退却する。
 
 その場合、遠隔機でギリギリまで戦うが、
 搭乗機はけして出さない。
 
 今回の結果を踏まえて、相手側はおそらく
 第3小隊に対して火力構成の小隊をけして
 当ててこないだろう。
 
 そこから、普通に勝つのと同じぐらい
 難しい戦いが始まった。
 
 相手の機動構成の小隊と当たると、ウインの
 狙撃型インドラが後方にまわった敵機に
 落とされて負ける、というのを繰り返し
 ながら、相手の癖もつかむ。
 
 同じ狙撃構成と当たったときは前半いい
 勝負をしながらも、僅差で負ける。
 
 負ける際は、母艦が襲われないように、
 相手陣営へ充分押し込んでから負ける。
 
「隠し玉を用意しています」
「その前に、アミさんに止めを刺されて
 いただきます」
 
 実際に撃墜されるわけではないが、
 搭乗機を出すという。もちろん、アミの
 腕前であればその演技ができる、という
 理由からだ。
 
 ふだんより、相手側に押し込まずに
 遠隔機全滅を演じる、母艦はギリギリ
 逃げられる距離であるが、相手機
 接近にハヌマーン搭乗機を出す。
 
 そして、
 搭乗機の出撃に慣れていない感を出させる。
 ギクシャクした動き。パニック感。
 
 変形機能を使って、ほうほうのていで逃げ
 だした、という演技をアミはやりのけた。
 
 そうこうしているうちに、相手陣営の
 動きが活発になってきた。新パイロットも
 採用して攻勢に出てくる構えのようだ。
 

アミの話11

 「トムさん、でもこの作戦、軍費的には
 けっこう痛いですよね、大丈夫なんですか?」
 
 エマドの問いにトムが答える。
「失敗すれば降格は免れないなハハハ」
 というのは嘘で、予算内でやっていれば問題ない。
 
「軍諜報部が敵組織の新規パイロット採用の
 情報をつかんでいます」
「こちらがそれを把握している、ということは
 おそらく相手側に気づかれていません」
「この数日で、新規小隊による奇襲が予想
 されます」
 
 案の定、数日後。
 
 母艦3機の接近が告げられた。先頭にいる母艦は、
 それまで火力構成の小隊を載せていた船である
 ことを識別ナンバーが告げている。
 
 第3小隊、かかって来い、というわけだ。
 
 さらに後方に敵母艦2隻も確認できているため、
 コ連人型機械第1小隊および第2小隊も
 迎撃準備に入る。
 
 後詰の宇宙空母もいつでも出撃態勢だ。
 
 敵母艦識別ナンバーから、火力構成の第1小隊
 は敵の機動構成の小隊にあたり、起動構成の
 第2小隊は敵の狙撃構成の小隊にあたる。
 それぞれ相性の良い相手だ。
 
「隠し玉ってこれかー!」
 エマドが搭乗機デッキ5角形にならんだハス台座
 の前で大きな声を出す。
「ちょっと練習したね」とフェイク。
「まあその成果は見ててよ」とウイン。
 
 コ連軍、人型機械全小隊の出撃だ。
 
「第3小隊はこれより10分後に正面母艦
 小隊と戦闘に入る!」
「第1および第2小隊はわれわれからおよそ
 10分後に戦闘に入る模様」
「第2小隊はできる限り時間稼ぎしてくれ!」
 
「第2小隊了解」
 
「フェイクとウインは設定切り替えを忘れるな!」
「あらためて指示は出す!」
「了解!」
「イエッサー!」
 
「遠隔機よーい」
 
「射出!」
 
 始まった。
 

アミの話12

  禍々しい形状をした5機が姿を現した。
 
「今回はこれに勝たなきゃいけないんだよなあ」
 エマドが呟く。
 
 第3小隊はいつもどおりの隊形を組んでいく。
 中央はアシュラ、対面にパズス型、右翼は
 ガネーシャ、対面はベルゼブブ型、左翼は
 パールバティ、対面はテスカトリポカ型であるが、
 
 相手側の継続火力担当のルシファー型が左翼対面
 でかなり前に出てくる。パールバティ1機では
 支え切れないと見てアミが支援に向かう。
 
 ハヌマーンが左翼に姿を現した瞬間、ルシファー
 型とテスカトリポカ型が機動機能を発動させた。
 6機の翼タイプの推進機構をもつルシファー型と、
 変形機能をもつテスカトリポカ型が、ウインの
 インドラめがけて急接近を試みる。
 
 ウインの反応は早かった。
 
 インドラは左翼後方から中央、右翼後方へ
 すばやく回避行動をとり、相手側はあきらめて
 もとのフォーメーションに戻るかに見えた。
 
 その瞬間、イゾウ型に一刀両断される。
 
 相手側の遊撃機だ。
 
「うそー!?」
 
 さすがにウインが声を上げるが、すぐに2番機を
 出す。左翼はルシファーとテスカトリポカに回り
 込まれたかたちになり、パールバティと
 ハヌマーンとの2対2の混戦になるが、すぐ
 イゾウ型が飛んでくる。
 
 パールバティが墜ちた。
 
 ハヌマーンはかろうじて脱出する。
 
「よし、予定どおり、フォーメーション変更!」
「ガネーシャ中央!」
 トムからの無線が第3小隊5機に入る。
 
 いったん中央アシュラが下がり、右翼ガネーシャ
 が中央へ寄る。パールバティ2番機が右翼へ
 まわりベールゼブブと対峙、ハヌマーンが左翼に
 まわり、対面2機が出てこれないようけん制する。
 
 機動構成と狙撃構成が戦う場合、戦場はつねに
 機動構成側が追いかけて、狙撃側がスカー
 ミッシュあるいはカイトと呼ばれる後方へ回避
 する動きをしながら戦うかたちになる。
 
 そのため、母艦も機動側は少なくとも微速前進、
 狙撃側は敵母艦と距離をとる形で微速後退となる。
 
Josui
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