遺伝子分布論 22K

アミの話12

  禍々しい形状をした5機が姿を現した。
 
「今回はこれに勝たなきゃいけないんだよなあ」
 エマドが呟く。
 
 第3小隊はいつもどおりの隊形を組んでいく。
 中央はアシュラ、対面にパズス型、右翼は
 ガネーシャ、対面はベルゼブブ型、左翼は
 パールバティ、対面はテスカトリポカ型であるが、
 
 相手側の継続火力担当のルシファー型が左翼対面
 でかなり前に出てくる。パールバティ1機では
 支え切れないと見てアミが支援に向かう。
 
 ハヌマーンが左翼に姿を現した瞬間、ルシファー
 型とテスカトリポカ型が機動機能を発動させた。
 6機の翼タイプの推進機構をもつルシファー型と、
 変形機能をもつテスカトリポカ型が、ウインの
 インドラめがけて急接近を試みる。
 
 ウインの反応は早かった。
 
 インドラは左翼後方から中央、右翼後方へ
 すばやく回避行動をとり、相手側はあきらめて
 もとのフォーメーションに戻るかに見えた。
 
 その瞬間、イゾウ型に一刀両断される。
 
 相手側の遊撃機だ。
 
「うそー!?」
 
 さすがにウインが声を上げるが、すぐに2番機を
 出す。左翼はルシファーとテスカトリポカに回り
 込まれたかたちになり、パールバティと
 ハヌマーンとの2対2の混戦になるが、すぐ
 イゾウ型が飛んでくる。
 
 パールバティが墜ちた。
 
 ハヌマーンはかろうじて脱出する。
 
「よし、予定どおり、フォーメーション変更!」
「ガネーシャ中央!」
 トムからの無線が第3小隊5機に入る。
 
 いったん中央アシュラが下がり、右翼ガネーシャ
 が中央へ寄る。パールバティ2番機が右翼へ
 まわりベールゼブブと対峙、ハヌマーンが左翼に
 まわり、対面2機が出てこれないようけん制する。
 
 機動構成と狙撃構成が戦う場合、戦場はつねに
 機動構成側が追いかけて、狙撃側がスカー
 ミッシュあるいはカイトと呼ばれる後方へ回避
 する動きをしながら戦うかたちになる。
 
 そのため、母艦も機動側は少なくとも微速前進、
 狙撃側は敵母艦と距離をとる形で微速後退となる。
 

アミの話13

  このフォーメーション変更で状況は少し改善
 した。
 
 もともとガネーシャはあまりベールゼブブ型と
 対面したくない。腐食系の液体を近接で
 放ってくるからだ。食らうとじわじわと
 関節系が傷んでくる。
 
 射程があまりないため、射程の長いパールバティ
 が対面するほうが相性はよかった。
 
 だが、次の対面のパズスも楽な相手ではない。
 ガネーシャは回避に終始する。煙幕と小型
 ミサイルの群れを操られてとても近づけそうに
 ない。
 
「こんな奴と平気で戦ってたのかよ」
 フェイクの腕をあらためて認識する。
 
 防御近接系機体で対面するのもかなりではあるが。
 
 このまま待っているだけではジリ貧であるが、
 ガネーシャはパズス型の上空または下空側に
 まわりこむかたちであえて敵陣に押し込む。
 
 これが相手に2択を迫るかたちになった。
 
 もともとの戦術である、第3小隊の後方、
 狙撃機インドラを狙い続けるのか、中央に突出
 したガネーシャを先に片づけるのか。
 
 敵小隊は後者を選択した。
 
 ガネーシャに釣られるかたちでパズス、
 イゾウ型、ルシファー型が取り囲むが、
 これがインドラ狙撃のいい的となった。
 
 ガネーシャも簡単に墜ちない。回避と
 シールドを使った防御と、攻撃を
 織り交ぜながら耐える。といっても
 数秒の差だが、それが勝負を決める。
 
 それでもガネーシャが大破するが、
 そこにアシュラが間に合った。
 インドラに削られた3機を、アシュラの
 火炎放射が焼き尽くす。
 
「おーし!」
 ふだん冷静なフェイクが声をあげる。
 
 その間、アミのハヌマーンがテスカトリポカに
 掴まったが、両軍3機づつ撃墜でイーブンまで
 戻した。
 
 そのあと、敵側もベールゼブブを中央に
 配置替えするなどして、敵小隊が若干のリード
 のまま、両小隊、残遠隔機数が少なくなっていく。
 
「敵母艦、速度上げています!」
「よし! このまま、気づかないふりで
 微速後退!」
 
 状況が有利なのを見て、敵小隊は決めにくる
 つもりのようだ。
 
 ハヌマーン遠隔機の3機目が撃墜される。
 
「ハヌマーン搭乗機準備!」
 
「アミ、分かってるな!」
「もちろん!」
 
「ハヌマーン搭乗機、出ます!!」
 
 第3小隊は遠隔機4機を先頭に混戦をしかける。
 これにより、敵機を2機沈めたが、敵小隊側は
 残り遠隔3機をAIに切り替え、5機の搭乗機が
 現れた。
 
 彼らは勝利を確信していた。
 

アミの話14

  遠隔機すべて破壊されたにもかかわらず、
 第3小隊はハヌマーンの搭乗機しか出してこない。
 おそらく搭乗機射出に手間取っているだけ
 だろうが、搭乗機戦闘に慣れていない。
 
 まずAI操作の遠隔パズス、ベールゼブブ、
 ルシファーの3機がアミのハヌマーンをけん制
 しながら第3小隊母艦に接近する。
 
 アミは無理にその3機と戦わない。
 
 まず黒い影が第3小隊母艦から静かに
 飛び出したが、敵側から検知されていない。
 
 次に、搭乗機ハッチから黄金の光が漏れだした。
 
 ハス型の台に鎮座したそれが、敵遠隔3機を
 順番に指さす。その順に、3機が消し飛んだ。
 
 敵母艦と敵搭乗機5機はまだ勝利を確信した
 まま急接近を続けている。が、混乱はすぐに
 訪れた。
 
 アシュラ型の後継機、全身黄金の機体、シャカだ。
 
 ひょうたん型の遠隔ポッドから火炎を放ちながら、
 シャカが向かってくる5機の中に飛び込む。
 火炎を放ちながら、時々敵機のうちのどれかを
 指さす。
 
 指されたベールゼブブ搭乗機の腕が飛んだ。
 
 イゾウ型搭乗機が勘づいて飛び出す。
 
 狙撃だ。
 
 が、インドラがいない。どこにもいない。
 イゾウ型が狙撃を受ける。そして、出撃した
 ガネーシャとパールバティに捕まった。
 
 敵搭乗機4体は、立て直してシャカにフォーカス
 するが、敵火力機能の発動を見てから、シャカの
 防御機能が発動した。
 
 4機の遠隔ポッドが四面体シールドを形成する。
 
 その間、最後方に回り込んだハヌマーンが、
 急近接して後尾のベールゼブブを沈める。
 
 シャカに引き続き3機群がるが、敵のすべての
 火力機能をぎりぎりでかわす、かわしながら
 下がる、時に相手ななめに寄ることでかわす。
 シールドはもう使えない。
 
 そして、勝負あった。
 
 ガネーシャが合流して、シャカを守る。その間も
 敵残り3機を狙撃し続けるのは、インドラの
 後継機、ステルス機能をもつ黒色機体シヴァだ。
 もちろん、ウインが搭乗、操縦する。
 
 敵脱出ポッドを回収したハヌマーンと
 パールバティも合流して、戦闘は、死闘は
 終わった。
 
 いや、第1第2小隊を援護してから終わった。
 第3小隊戦の状況を確認してすぐに敵は撤退。
 短時間のため被害は軽微。
 
 けっきょくのところ、敵脱出ポッド5台確保の
 大戦果、相手側は、新加入パイロット5人を
 捕獲されるという大失態となった。
 

アミの話15

 「もう二度とやりたくない」
 とフェイク・サンヒョク談。
 
「同意」とエマド・ジャマル。
 ゲームのほうはやるけど、と続ける。
 
 アミは実家に戻ってペットを抱いて死んだ
 ように長時間眠る。
 
 ウインはひさしぶりに高い食材を買い込んで
 家族で食べる準備をする。
 
 マルーシャは、バイト行ってきたよーと
 ふつうに帰宅。軍で戦闘してきたとは
 言わない。
 
 高額の報酬を得た彼らは、音楽活動の
 ための機材の購入や買い替えができると
 喜んだ。
 
 軍からの正式配属のオファーもあったが、
 丁重にお断りした。軍もあっさり諦めた。
 投降パイロット全員の登用が成功しそう
 だったからだ。
 
 彼らはそのまま第3小隊の機体で訓練を
 行い、そのまま狙撃構成で戦うという。
 
 コウエンジ連邦に戦闘を仕掛けてきた
 宙賊は、原理主義戦闘国家を背後に
 活動していた。
 
 今回の件により、しばらくはまともな
 活動ができないだろう。
 
 それ以上に、大きな事実が判明していた。
 
 そもそも確保されたパイロットが登用に
 応じたのは、原理主義戦闘国家に在住
 する家族の確保が可能であることを
 伝えたからだが、
 
 特殊工作員による全員分の家族確保が完了
 したのち、自ら話し出した。
 
「全員、一年前に第2エリアから家族ごと
 移ったらしい」
「君たち同様、ゲームの戦績が良くて、かつ
 経済的に厳しいところをスカウトされたとか」
 
 あとでハントジムに練習にきていたトムから
 聞いた話だ。おっと、今のは機密だから
 聞かなかったことにしてくれ、とも
 付け加えた。
 
 そう、脱出ポッドから出てきたのは、アミ
 たちと同年代の、学生たちだったのだ。
 
Josui
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