遺伝子分布論 22K

アミの話8

  その間、マルーシャの支援型機、パールバティ
 とウインの超長距離狙撃型インドラは合流して
 いた。
 
 中央部で数的有利を作り出した分、ほかの空域で
 相手側が数的有利を作る可能性があるため、
 それに警戒したかたちだ。
 
 マルーシャが中央部に支援する場合もあるが、
 3対2ですぐ決着が着くとのマルーシャの判断だ。
 
 中央部はさんで反対側で相手のオーガ型が第3
 小隊のミニオン機を押し返しているのはわかって
 いたし、左翼正面の支援型リリスと中距離狙撃型
 のイフリートが突っ込んでくる気配もなかった。
 
 中央部の戦闘が早く決まりすぎて、他空域で
 取り返す隙がなかった。
 
 そもそも相手小隊から見て、第3小隊は相性が
 悪かった。どちらかというと、飛び込んでくる
 相手に対して火力で勝つチーム構成だ。
 
 それに対して、第3小隊は、前線を防御的に
 作りつつ、遠距離からの狙撃で倒す。したがって、
 チームで飛び込んでくる相手には逆に弱い。
 
 ちなみに、コ連の人型機械小隊でいうと、
 第1小隊が火力構成、第2小隊が機動構成だ。
 もちろん、極端な構成になっているわけで
 はなく、例えば第3小隊は狙撃構成だが、
 ハヌマーンのように機動力がある機体もある。
 
 バランスも意識しつつ特徴を出している。
 
 軍は、この3つ巴の関係を意識したうえで、
 その時軍に不足していた構成を得意とする
 アミたちに声をかけたと言える。
 
 ウインが操る超長距離狙撃型インドラは、
 ステルスで接近して火力を出す機体相手に弱い。
 しかし、今回はそのタイプの機体がいない。
 
 ウインは、戦闘が開始して時間が経つほど
 狙撃の精度が上がる。相手の回避行動のリズム
 がわかってくるという。混戦の時間帯に
 入ると、中距離砲に持ち替えて戦う場合もある。
 
 アンリマンユ2番機を破壊した時点で敵小隊は
 混戦を挑んできた。
 

アミの話9

 「じゃあ、アミが引きつけてからの前衛狙いで!」
 このあたりの指示はウインが出す。
 
「オッケ!」アミが返す。
 
 敵小隊が中央部に集まってくるのに合わせて
 第3小隊もガネーシャを先頭に混戦を受ける
 構えだ。
 
 ガネーシャが前に出てきたのを見て、オーガ型
 とヘカトンケイル型が挟みこむかたちで寄る。
 向こうの狙いはガネーシャでなくその後ろにいる
 アシュラだ。
 
 両軍が衝突しそうな直前で、アミのハヌマーンが
 飛び出し、後方へ回り込む動きをする。
 それに対し、相手小隊はあきらかにフォーカス
 が乱れた。
 
 前衛ふたりはすでに捕縛機能を使って戦いを
 開始してしまっている。相手側はアンリマンユ、
 イフリート、リリスの3機でハヌマーンを
 瞬殺するつもりでフォーカスを変えたが、
 アミの機体は避けるし固い。
 
 キントウン形態のまま旋回を続け、火力機能を
 使ったと見えたら1秒少し持つシールドを
 張って耐える。
 
 その間にまずヘカトンケイル型が墜ちた。
 
 ハヌマーンは3機に狙われながらそのうちの
 一機リリスをその棒で撃破したのちについに
 撃墜される。
 
 イフリートとアンリマンユが反転しようと
 したときにはオーガ型もすでに撃破されていた。
 アンリマンユは瞬間火力、イフリートは
 継続火力に優れていたが、4対2ではさすが
 に厳しい。
 
 パールバティが相手後方に放った煙幕弾で
 一瞬退路を断たれた敵2機は、ついに捉まった。
 
 これで敵母艦は搭乗機を使用せずに退却する。
 
 けっきょく、相手小隊遠隔機11機大破に
 対し、第3小隊はハヌマーンの遠隔1機という
 初戦にもかかわらず、小隊構成が有利という
 のはあったが、大きな戦果を挙げた。
 

アミの話10

  次の作戦の打ち合わせだ。
 トム・マーレイの説明が始まった。
 
「次回以降ですが、みなさんには負けて
 いただきます」
 
 今回戦った、火力構成の小隊とは実力どおり
 戦ってよい、ほかのタイプの小隊と当たった
 場合、勝てそうでも劣勢に見せたうえで
 退却する。
 
 その場合、遠隔機でギリギリまで戦うが、
 搭乗機はけして出さない。
 
 今回の結果を踏まえて、相手側はおそらく
 第3小隊に対して火力構成の小隊をけして
 当ててこないだろう。
 
 そこから、普通に勝つのと同じぐらい
 難しい戦いが始まった。
 
 相手の機動構成の小隊と当たると、ウインの
 狙撃型インドラが後方にまわった敵機に
 落とされて負ける、というのを繰り返し
 ながら、相手の癖もつかむ。
 
 同じ狙撃構成と当たったときは前半いい
 勝負をしながらも、僅差で負ける。
 
 負ける際は、母艦が襲われないように、
 相手陣営へ充分押し込んでから負ける。
 
「隠し玉を用意しています」
「その前に、アミさんに止めを刺されて
 いただきます」
 
 実際に撃墜されるわけではないが、
 搭乗機を出すという。もちろん、アミの
 腕前であればその演技ができる、という
 理由からだ。
 
 ふだんより、相手側に押し込まずに
 遠隔機全滅を演じる、母艦はギリギリ
 逃げられる距離であるが、相手機
 接近にハヌマーン搭乗機を出す。
 
 そして、
 搭乗機の出撃に慣れていない感を出させる。
 ギクシャクした動き。パニック感。
 
 変形機能を使って、ほうほうのていで逃げ
 だした、という演技をアミはやりのけた。
 
 そうこうしているうちに、相手陣営の
 動きが活発になってきた。新パイロットも
 採用して攻勢に出てくる構えのようだ。
 

アミの話11

 「トムさん、でもこの作戦、軍費的には
 けっこう痛いですよね、大丈夫なんですか?」
 
 エマドの問いにトムが答える。
「失敗すれば降格は免れないなハハハ」
 というのは嘘で、予算内でやっていれば問題ない。
 
「軍諜報部が敵組織の新規パイロット採用の
 情報をつかんでいます」
「こちらがそれを把握している、ということは
 おそらく相手側に気づかれていません」
「この数日で、新規小隊による奇襲が予想
 されます」
 
 案の定、数日後。
 
 母艦3機の接近が告げられた。先頭にいる母艦は、
 それまで火力構成の小隊を載せていた船である
 ことを識別ナンバーが告げている。
 
 第3小隊、かかって来い、というわけだ。
 
 さらに後方に敵母艦2隻も確認できているため、
 コ連人型機械第1小隊および第2小隊も
 迎撃準備に入る。
 
 後詰の宇宙空母もいつでも出撃態勢だ。
 
 敵母艦識別ナンバーから、火力構成の第1小隊
 は敵の機動構成の小隊にあたり、起動構成の
 第2小隊は敵の狙撃構成の小隊にあたる。
 それぞれ相性の良い相手だ。
 
「隠し玉ってこれかー!」
 エマドが搭乗機デッキ5角形にならんだハス台座
 の前で大きな声を出す。
「ちょっと練習したね」とフェイク。
「まあその成果は見ててよ」とウイン。
 
 コ連軍、人型機械全小隊の出撃だ。
 
「第3小隊はこれより10分後に正面母艦
 小隊と戦闘に入る!」
「第1および第2小隊はわれわれからおよそ
 10分後に戦闘に入る模様」
「第2小隊はできる限り時間稼ぎしてくれ!」
 
「第2小隊了解」
 
「フェイクとウインは設定切り替えを忘れるな!」
「あらためて指示は出す!」
「了解!」
「イエッサー!」
 
「遠隔機よーい」
 
「射出!」
 
 始まった。
 
Josui
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