遺伝子分布論 22K

アミの話5

  フェイクの乗るアシュラは中距離遠隔武器を
 操る人型機械だ。隠し腕4本から繰り出す
 火炎放射は敵機コンピュータの熱暴走と
 そこからの行動停止を狙う。
 
 火炎放射は距離が近いほど効果が高いため、
 回避主体の動きとなるが、通常腕が持つ放射砲
 で敵機をけん制しつつ、相手側ミニオン機の
 破壊も狙う。
 
 相手側中央火力を担うのはアンリマンユ型、
 拡散放射砲による中距離範囲攻撃が強力だが、
 範囲攻撃はどちらかというと複数混戦の
 場合に威力を発揮する。
 
 開始序盤は空域を分かれて一対一のなる場合が
 多く、複数混戦でなければアンリマンユ型は
 それほど恐くなかった。
 
 アンリマンユ型はゲーム内には出てこないが、
 類似型が存在するため、新しいからわからない、
 ということはない。攻撃機能の射程範囲さえ
 序盤で掴めば、あとはだいたいわかる。
 
 明らかにアシュラが押していた。
 
 ミニオン機の減り具合も明らかに相手側の
 ほうが早い。相手側の理想としては、
 アシュラを押し込んでミニオン機に拡散
 武器を使用することだ。
 
 だが、今の状況ではそれもできない。
 
 アンリマンユ型は充填完了するたびに放射砲を
 アシュラに対して使用するが、捉えることができ
 ない。特別な回避機能をもつわけでもなく、
 フェイクは素の機動力で相手の攻撃を避けた。
 
 しかし、押し込めば当然相手陣営側に近づく。
 後方から遊撃担当のヘカトンケイル型が
 狙っていた。
 

アミの話6

  エマド・ジャマルが操るガネーシャは4本腕、
 装甲の人型機械だ。
 
 戦闘開始時、搭乗機は母艦にいる状態で、
 遠隔機を出撃させて操る。搭乗機と遠隔機は
 ほぼ同じ形状であるが、操縦席のある胸部の
 形状が異なる。遠隔機は操縦席のかわりに
 通信装備が乗っかる。
 
 戦闘の序盤は、右翼または左翼で重装甲同士の
 駆け引きになる場合が多い。
 
 小隊構成上、攻撃よりの機体を選択することは
 もちろん可能だ。その場合、近接攻撃主体で
 重装甲の相手機は不利となるが、後半複数混戦と
 なった場合に重装甲機体による攪乱が有効と
 なってくる。
 
 装甲の薄い機体は混戦で脆い。
 
 今回の相手の機体は重装甲のオーガ型だ。
 近づくと1秒少し動けなくなる捕縛技を
 使ってくる。1対1では大してこわくないが、
 複数混戦時に捕まると、敵僚機が味方ごと
 撃ち抜いてくる。
 
 第3小隊は、序盤は比較的皆、静かだ。
 敵機の移動なども通信の表示機能で伝える。
 後半は音声でタイミングを合わせるが、
 序盤は一人で戦う時間も多く、
 静かなスタートとなる。
 
 しかし、エマドだけ、独り言が多かった。
 
 重装甲同士の戦いは、中央火力担当より
 比較的地味になることが多く、しかも後半に
 向けて残機を残しておく場合はなおさらとなる。
 攻撃というより牽制や挑発のほうが多くなる。
 
 だいたいは相手機を挑発したり技をくらって
 ぼやいたりする言葉だが、
 
 ときどき配信動画の有名なセリフを、なんの
 関係もないセリフを挟んでくる。
 
「誰かがやるはずだった。自分がその誰かに
 なりたかった」
「神はサイコロを振らない」
「咳をしてもひとり」
 
 独り言であっても他のメンバーには聞こえている。
 だいたい誰も反応しないが、マルーシャだけは
 ツボに入ってしまうのか、笑いを堪えられない。
 
 そろそろ頃合いだと思ったエマドは、前方
 シールドを張ってミニオン機からの砲撃に
 耐えつつ、相手オーガ型を押し込んだ、
 そこから中央部側へ体を寄せていく。
 

アミの話7

  アミの乗るハヌマーンは遊撃担当だ。
 
 白い機体の装甲の端に金の装飾を施されている。
 アミは見た目も機能も気に入っていた。
 
 ハヌマーンは変形機能を持っている。シンプル
 な変形機構であるが、それにより多少の
 ディフェンス性能の向上、変形時のみの数秒の
 シールド、機動力の向上がある。推進機構を
 同じ方向へそろえて機動力を上げるのだ。
 
 突入する際、逃げる際、どちらにも使える。
 アミはそれを「キントウン形態」と呼んで
 いるが、いつもエマドから「自分がキントウンに
 なってどうするんだ」と指摘が入る。
 
 武器は特殊鋼で作られたシンプルな棒だ。
 
 遊撃担当は相手の状態を見て、隙があれば
 突入して攻撃したり、相手の遊撃担当が
 飛び込んできたところを対応したりする。
 
 戦闘開始直後は右翼側でミニオン機を叩いて
 離脱し、いったん後方に下がって左翼側に
 現れるなど、神出鬼没な動きを続けていたが、
 その後マルーシャ機の後方で突入タイミング
 を狙うかのような位置取りをしていた。
 
 そして、
 中央部、突出したアシュラ機にヘカトンケイル型
 が上空より急接近した。同時に、アンリマンユ型
 もいつのまにか下空に回り挟み撃ちを狙う。
 
 フェイクの反応は早かった。
 
 ギリギリでヘカトンケイル型の捕縛技をかわし、
 アンリマンユの拡散砲に三面シールドを張る。
 それでも2機は諦めず、極め切ろうとする。
 
 そこにすでにガネーシャが到着し、渾身の双拳を
 ヘカトンケイルに決め、アシュラがとどめを刺す。
 
 下がろうとしたアンリマンユにハヌマーンが
 人型に戻った直後の棒の一撃。アンリマンユは
 アシュラによりすでにかなり被害が蓄積していた。
 敵機の一番機を2台破壊、となった。
 
 これは、第3小隊が相手の狙いを読み切った
 動きだった。特にコミュニケーションをかわす
 でもなく、エマドとアミが会戦空域に到着
 している。始まってから移動していたのでは
 間に合わなかった。
 
 見事な返し技が決まった、と言える。
 

アミの話8

  その間、マルーシャの支援型機、パールバティ
 とウインの超長距離狙撃型インドラは合流して
 いた。
 
 中央部で数的有利を作り出した分、ほかの空域で
 相手側が数的有利を作る可能性があるため、
 それに警戒したかたちだ。
 
 マルーシャが中央部に支援する場合もあるが、
 3対2ですぐ決着が着くとのマルーシャの判断だ。
 
 中央部はさんで反対側で相手のオーガ型が第3
 小隊のミニオン機を押し返しているのはわかって
 いたし、左翼正面の支援型リリスと中距離狙撃型
 のイフリートが突っ込んでくる気配もなかった。
 
 中央部の戦闘が早く決まりすぎて、他空域で
 取り返す隙がなかった。
 
 そもそも相手小隊から見て、第3小隊は相性が
 悪かった。どちらかというと、飛び込んでくる
 相手に対して火力で勝つチーム構成だ。
 
 それに対して、第3小隊は、前線を防御的に
 作りつつ、遠距離からの狙撃で倒す。したがって、
 チームで飛び込んでくる相手には逆に弱い。
 
 ちなみに、コ連の人型機械小隊でいうと、
 第1小隊が火力構成、第2小隊が機動構成だ。
 もちろん、極端な構成になっているわけで
 はなく、例えば第3小隊は狙撃構成だが、
 ハヌマーンのように機動力がある機体もある。
 
 バランスも意識しつつ特徴を出している。
 
 軍は、この3つ巴の関係を意識したうえで、
 その時軍に不足していた構成を得意とする
 アミたちに声をかけたと言える。
 
 ウインが操る超長距離狙撃型インドラは、
 ステルスで接近して火力を出す機体相手に弱い。
 しかし、今回はそのタイプの機体がいない。
 
 ウインは、戦闘が開始して時間が経つほど
 狙撃の精度が上がる。相手の回避行動のリズム
 がわかってくるという。混戦の時間帯に
 入ると、中距離砲に持ち替えて戦う場合もある。
 
 アンリマンユ2番機を破壊した時点で敵小隊は
 混戦を挑んできた。
 
Josui
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