遺伝子分布論 22K

アミの話4

  さっそく出撃のタイミングが来た。
 軍のネットワークサイトに人型兵器新小隊結成の
 ニュースを載せた効果があったのかもしれない。
 
 小隊はけっきょくアミたちの分もいれて3隊
 だった。第3小隊として今回は出撃するが、
 第1と第2も後方で詰めてくれるらしい。
 
 第3小隊は、アミのハヌマーン、フェイクの
 アシュラ、エマドのガネーシャ、マルーシャの
 パールバティ、ウインのインドラだ。母艦の
 エアロック内のハス型の台にそれぞれ座っている。
 
 今回は第3小隊が敵を補足、第1と第2が
 その後方で待機、通常は小隊のさらに後方に
 宇宙空母を待機させて不測の事態に備える。
 
「人間であるおれたちが神に憑依するんだよ」
 エマドはまだ余裕があった。
 
 トムは母艦操縦デッキの艦長席に座って緊張した
 面持ちだった。
 
「索敵情報は常にアップデートして!」
「第1第2は予定通り第3が開始して10分経過
 するまで戦域外で待機!」
 
「よーし、あと5分で予想戦闘空域に到達する!」
「遠隔機射出用意のまま待機!」
 
 すべての遠隔機で緑ランプが点灯する。
 搭乗機と遠隔機のエアロックは別で、今回は
 搭乗機の出撃せずに撤退となる予定だが、
 もちろんアミたちも搭乗機側のメカニックも
 真空スーツを着込んでいる。
 
 フェイクはいつも、ゲームの開始時でも、
 このはじまる瞬間が一番緊張した。戦闘空域
 中央で火力を担当する役割なのでなおさらなのだ。
 ゲーム中でも最も重要なポジションとなる。
 
「開始時はいつもどおり」
 自分に言い聞かせる。
 
「敵母艦型式判明!搭乗機5機タイプです!」
「よし!このまま突入する!」
 
「1分前!」
 
「30秒前!遠隔機ハッチ開け!」
 
 遠隔機の一台目がそれぞれ射出される。遠隔操作
 ではあるが、操縦席からは宇宙空間にほうり
 出されたように見える。
 
 ゲーム中では、AI戦や格下の対人戦であれば
 その開始時の宇宙に出た瞬間に爽快感を感じる
 かもしれない。しかし、同じレベルの
 対人戦となるともう緊張しかなかった。
 実戦しかり。
 
 しかし、マルーシャはこの5人で戦うのは
 いつも楽しかった。緊張感というトンネルを
 くぐった先の光景が思い浮かぶのである。
 
 同時にミニオン機体も射出される。
 
 開始時はいつも平面でフォーメーションを組む、
 今回は迎撃なので、エマドが右サイド、
 中央にフェイク、左にマルーシャ、右後方に
 アミ、左さらに後方にウイン。
 
 ミニオンは2隊に分けて左、中央、右の
 3か所の間を埋めるかたちで配置、散開、
 ゾーニングさせる。
 
 フォーメーション平面を相手の隊形を見て
 微調整させながら、戦闘がはじまった。
 

アミの話5

  フェイクの乗るアシュラは中距離遠隔武器を
 操る人型機械だ。隠し腕4本から繰り出す
 火炎放射は敵機コンピュータの熱暴走と
 そこからの行動停止を狙う。
 
 火炎放射は距離が近いほど効果が高いため、
 回避主体の動きとなるが、通常腕が持つ放射砲
 で敵機をけん制しつつ、相手側ミニオン機の
 破壊も狙う。
 
 相手側中央火力を担うのはアンリマンユ型、
 拡散放射砲による中距離範囲攻撃が強力だが、
 範囲攻撃はどちらかというと複数混戦の
 場合に威力を発揮する。
 
 開始序盤は空域を分かれて一対一のなる場合が
 多く、複数混戦でなければアンリマンユ型は
 それほど恐くなかった。
 
 アンリマンユ型はゲーム内には出てこないが、
 類似型が存在するため、新しいからわからない、
 ということはない。攻撃機能の射程範囲さえ
 序盤で掴めば、あとはだいたいわかる。
 
 明らかにアシュラが押していた。
 
 ミニオン機の減り具合も明らかに相手側の
 ほうが早い。相手側の理想としては、
 アシュラを押し込んでミニオン機に拡散
 武器を使用することだ。
 
 だが、今の状況ではそれもできない。
 
 アンリマンユ型は充填完了するたびに放射砲を
 アシュラに対して使用するが、捉えることができ
 ない。特別な回避機能をもつわけでもなく、
 フェイクは素の機動力で相手の攻撃を避けた。
 
 しかし、押し込めば当然相手陣営側に近づく。
 後方から遊撃担当のヘカトンケイル型が
 狙っていた。
 

アミの話6

  エマド・ジャマルが操るガネーシャは4本腕、
 装甲の人型機械だ。
 
 戦闘開始時、搭乗機は母艦にいる状態で、
 遠隔機を出撃させて操る。搭乗機と遠隔機は
 ほぼ同じ形状であるが、操縦席のある胸部の
 形状が異なる。遠隔機は操縦席のかわりに
 通信装備が乗っかる。
 
 戦闘の序盤は、右翼または左翼で重装甲同士の
 駆け引きになる場合が多い。
 
 小隊構成上、攻撃よりの機体を選択することは
 もちろん可能だ。その場合、近接攻撃主体で
 重装甲の相手機は不利となるが、後半複数混戦と
 なった場合に重装甲機体による攪乱が有効と
 なってくる。
 
 装甲の薄い機体は混戦で脆い。
 
 今回の相手の機体は重装甲のオーガ型だ。
 近づくと1秒少し動けなくなる捕縛技を
 使ってくる。1対1では大してこわくないが、
 複数混戦時に捕まると、敵僚機が味方ごと
 撃ち抜いてくる。
 
 第3小隊は、序盤は比較的皆、静かだ。
 敵機の移動なども通信の表示機能で伝える。
 後半は音声でタイミングを合わせるが、
 序盤は一人で戦う時間も多く、
 静かなスタートとなる。
 
 しかし、エマドだけ、独り言が多かった。
 
 重装甲同士の戦いは、中央火力担当より
 比較的地味になることが多く、しかも後半に
 向けて残機を残しておく場合はなおさらとなる。
 攻撃というより牽制や挑発のほうが多くなる。
 
 だいたいは相手機を挑発したり技をくらって
 ぼやいたりする言葉だが、
 
 ときどき配信動画の有名なセリフを、なんの
 関係もないセリフを挟んでくる。
 
「誰かがやるはずだった。自分がその誰かに
 なりたかった」
「神はサイコロを振らない」
「咳をしてもひとり」
 
 独り言であっても他のメンバーには聞こえている。
 だいたい誰も反応しないが、マルーシャだけは
 ツボに入ってしまうのか、笑いを堪えられない。
 
 そろそろ頃合いだと思ったエマドは、前方
 シールドを張ってミニオン機からの砲撃に
 耐えつつ、相手オーガ型を押し込んだ、
 そこから中央部側へ体を寄せていく。
 

アミの話7

  アミの乗るハヌマーンは遊撃担当だ。
 
 白い機体の装甲の端に金の装飾を施されている。
 アミは見た目も機能も気に入っていた。
 
 ハヌマーンは変形機能を持っている。シンプル
 な変形機構であるが、それにより多少の
 ディフェンス性能の向上、変形時のみの数秒の
 シールド、機動力の向上がある。推進機構を
 同じ方向へそろえて機動力を上げるのだ。
 
 突入する際、逃げる際、どちらにも使える。
 アミはそれを「キントウン形態」と呼んで
 いるが、いつもエマドから「自分がキントウンに
 なってどうするんだ」と指摘が入る。
 
 武器は特殊鋼で作られたシンプルな棒だ。
 
 遊撃担当は相手の状態を見て、隙があれば
 突入して攻撃したり、相手の遊撃担当が
 飛び込んできたところを対応したりする。
 
 戦闘開始直後は右翼側でミニオン機を叩いて
 離脱し、いったん後方に下がって左翼側に
 現れるなど、神出鬼没な動きを続けていたが、
 その後マルーシャ機の後方で突入タイミング
 を狙うかのような位置取りをしていた。
 
 そして、
 中央部、突出したアシュラ機にヘカトンケイル型
 が上空より急接近した。同時に、アンリマンユ型
 もいつのまにか下空に回り挟み撃ちを狙う。
 
 フェイクの反応は早かった。
 
 ギリギリでヘカトンケイル型の捕縛技をかわし、
 アンリマンユの拡散砲に三面シールドを張る。
 それでも2機は諦めず、極め切ろうとする。
 
 そこにすでにガネーシャが到着し、渾身の双拳を
 ヘカトンケイルに決め、アシュラがとどめを刺す。
 
 下がろうとしたアンリマンユにハヌマーンが
 人型に戻った直後の棒の一撃。アンリマンユは
 アシュラによりすでにかなり被害が蓄積していた。
 敵機の一番機を2台破壊、となった。
 
 これは、第3小隊が相手の狙いを読み切った
 動きだった。特にコミュニケーションをかわす
 でもなく、エマドとアミが会戦空域に到着
 している。始まってから移動していたのでは
 間に合わなかった。
 
 見事な返し技が決まった、と言える。
 
Josui
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