遺伝子分布論 22K

アミの話2

  そして、その軍人がやってきた。
 
「なんだ、君たちか」
 トム・マーレイは驚いた顔を見せた。
 
 ちょうどリアリティのプレイを終えて5人が
 出てきたところである。
 
「あ、トムさんどうも」
 
 5人は体力づくりのため最近よくハントジムに
 通っていたが、そこでよくトムともいっしょに
 なった。
 
「なにって?スカウトだよ!君たちに
 戦闘機乗りになってもらうのさ!」
 
 巨大人型機械のことをこの時代のひとは戦闘機と
 呼んだ。先週から張り込んでいたが、今日やっと
 見つけることができたのと、プレイするときは
 それぞれハンドルネームを使うので、彼ら5人
 だとは気づかなかったらしい。
 
「先週僕らは地球に行ってたのさ、登山
 したんだぜ」
「それぞれサブウェポン持って山頂で
 演奏したのよ」
 
 サブウェポンとはそれぞれが得意とする小型の
 楽器のことだ。トムは何のことかあまりわかって
 ないみたいだが、地球で登山と聞いて興奮
 したみたいだ。
 
「いや、今回は5000メートル級だよ、
 夜行登山、ガイドなし」
「違う違う、ゲリラ戦の練習じゃないって」
 
 創作活動のために色々なところに行って色々な
 経験をする、という主旨らしい。旅費は
 マルーシャが工面してくれているのだろうか。
 
「アルバイトだよ、アーティストは何でも
 金がかかるんだって」とエマド。
 
「これはいいアルバイトになると思うけど」
 
「詳しく話を聞かせてもらおうかしら」
 ファイナンシャルプラニングの知識も持つウイン
 が言った。ウインは活動に関するお金の出入りを
 すべてカウントしていて、マルーシャが工面
 してくれたぶんも将来はきっちり還すつもりで
 いる。
 
 近くのお茶屋にみなで寄る。
 
「まず安全面について確認したいわ」
「遺族補償については軍から充分な・・・」
 
 というわけで話はまとまった。
 軍属はあくまでパートタイムとすること、
 なるべく自陣側に引き込んだ地点で迎え討つこと、
 搭乗機は充分な適正がない者は迎撃しない、
 不利な場合は母艦ごとすぐ退却すること。
 
 これらが通ったのは、この時代パイロット適正が
 非常に高い者が少数存在し、圧倒的な成果を
 出していたためだ。チームであればなおさらで、
 彼らは金額になおすと非常に高価だった。
 

アミの話3

  翌日からすぐに軍施設でトレーニングとなった。
 すでに今月のアルバイトが入っていたりしたが、
 軍から職場へは連絡がいって補填されている。
 
 トレーニングはまず適正検査からだが、
 遠隔機の操作はもちろん問題なかった。
 エンターテイメントセンターに設置されている
 操縦席より高性能なため、むしろゲーム時より
 扱いやすくなっている。
 
 そのため、トレーニングのほとんどは搭乗機の
 練習となった。これはかなり過酷である。
 旋回時の加速を受けながら戦わないといけない。
 
 男子二人は苦戦、女子3人は適正があった。
 とくにアミは遠隔機以上のパフォーマンスを
 示した。
 
「軍属でパイロットに採用されるひとには
 そういうタイプが多いよ」
 トムが言った。
 
「なんというか、加速のデメリットよりも、
 その場の実感というか、そういう中のほうが
 力が出る?搭乗機はラグも理論上無いしね」
 
「アミは星座の配置憶えていて旋回中も自分の
 位置わかっちゃうからなあ。ちょっとずるい」
 星座の配置、自分と相手の位置関係から的確に
 旋回コースを判断することができるらしい。
 
 というわけで男子二人には軍のトレーニングと
 ハントジムのトレーニングともに特別メニューが
 組まれた。
 
「まずは遠隔機主体で実戦に出てみよう」
 トムが母艦に搭乗してコーチ役をすることに
 なった。出てみよう、といってもまずは迎撃の
 かたちとなるため、軍施設でトレーニングしな
 がら出撃のタイミングを待つことになる。
 
 迎撃作戦の打ち合わせだ。トムの説明が始まった。
 
「まず概略からですが、我々コウエンジ連邦軍
 による、宙賊または第3国からの人型兵器および
 母艦による侵攻に対する迎撃、となります。」
 
「人型兵器4から6機の母艦の小隊構成に
 よる侵攻は近年増えてきています。従来の宇宙
 空母とAI戦闘艇による戦闘と異なっており、
 軍としては今後人型兵器を全面的に配備する
 かどうか、様子を見たいところです」
 
「そのため、一部パートタイムでの対応を
 認めることにしました。軍属の別の小隊の
 メンバーもあとで紹介します」
 
「宙賊と第三国はおそらく連携しています。
 背後関係は政府の諜報機関で調査中です。
 これはあくまで私の推測ですが、大国の兵器
 の試験を他国にやらせているのではないか」
 

アミの話4

  さっそく出撃のタイミングが来た。
 軍のネットワークサイトに人型兵器新小隊結成の
 ニュースを載せた効果があったのかもしれない。
 
 小隊はけっきょくアミたちの分もいれて3隊
 だった。第3小隊として今回は出撃するが、
 第1と第2も後方で詰めてくれるらしい。
 
 第3小隊は、アミのハヌマーン、フェイクの
 アシュラ、エマドのガネーシャ、マルーシャの
 パールバティ、ウインのインドラだ。母艦の
 エアロック内のハス型の台にそれぞれ座っている。
 
 今回は第3小隊が敵を補足、第1と第2が
 その後方で待機、通常は小隊のさらに後方に
 宇宙空母を待機させて不測の事態に備える。
 
「人間であるおれたちが神に憑依するんだよ」
 エマドはまだ余裕があった。
 
 トムは母艦操縦デッキの艦長席に座って緊張した
 面持ちだった。
 
「索敵情報は常にアップデートして!」
「第1第2は予定通り第3が開始して10分経過
 するまで戦域外で待機!」
 
「よーし、あと5分で予想戦闘空域に到達する!」
「遠隔機射出用意のまま待機!」
 
 すべての遠隔機で緑ランプが点灯する。
 搭乗機と遠隔機のエアロックは別で、今回は
 搭乗機の出撃せずに撤退となる予定だが、
 もちろんアミたちも搭乗機側のメカニックも
 真空スーツを着込んでいる。
 
 フェイクはいつも、ゲームの開始時でも、
 このはじまる瞬間が一番緊張した。戦闘空域
 中央で火力を担当する役割なのでなおさらなのだ。
 ゲーム中でも最も重要なポジションとなる。
 
「開始時はいつもどおり」
 自分に言い聞かせる。
 
「敵母艦型式判明!搭乗機5機タイプです!」
「よし!このまま突入する!」
 
「1分前!」
 
「30秒前!遠隔機ハッチ開け!」
 
 遠隔機の一台目がそれぞれ射出される。遠隔操作
 ではあるが、操縦席からは宇宙空間にほうり
 出されたように見える。
 
 ゲーム中では、AI戦や格下の対人戦であれば
 その開始時の宇宙に出た瞬間に爽快感を感じる
 かもしれない。しかし、同じレベルの
 対人戦となるともう緊張しかなかった。
 実戦しかり。
 
 しかし、マルーシャはこの5人で戦うのは
 いつも楽しかった。緊張感というトンネルを
 くぐった先の光景が思い浮かぶのである。
 
 同時にミニオン機体も射出される。
 
 開始時はいつも平面でフォーメーションを組む、
 今回は迎撃なので、エマドが右サイド、
 中央にフェイク、左にマルーシャ、右後方に
 アミ、左さらに後方にウイン。
 
 ミニオンは2隊に分けて左、中央、右の
 3か所の間を埋めるかたちで配置、散開、
 ゾーニングさせる。
 
 フォーメーション平面を相手の隊形を見て
 微調整させながら、戦闘がはじまった。
 

アミの話5

  フェイクの乗るアシュラは中距離遠隔武器を
 操る人型機械だ。隠し腕4本から繰り出す
 火炎放射は敵機コンピュータの熱暴走と
 そこからの行動停止を狙う。
 
 火炎放射は距離が近いほど効果が高いため、
 回避主体の動きとなるが、通常腕が持つ放射砲
 で敵機をけん制しつつ、相手側ミニオン機の
 破壊も狙う。
 
 相手側中央火力を担うのはアンリマンユ型、
 拡散放射砲による中距離範囲攻撃が強力だが、
 範囲攻撃はどちらかというと複数混戦の
 場合に威力を発揮する。
 
 開始序盤は空域を分かれて一対一のなる場合が
 多く、複数混戦でなければアンリマンユ型は
 それほど恐くなかった。
 
 アンリマンユ型はゲーム内には出てこないが、
 類似型が存在するため、新しいからわからない、
 ということはない。攻撃機能の射程範囲さえ
 序盤で掴めば、あとはだいたいわかる。
 
 明らかにアシュラが押していた。
 
 ミニオン機の減り具合も明らかに相手側の
 ほうが早い。相手側の理想としては、
 アシュラを押し込んでミニオン機に拡散
 武器を使用することだ。
 
 だが、今の状況ではそれもできない。
 
 アンリマンユ型は充填完了するたびに放射砲を
 アシュラに対して使用するが、捉えることができ
 ない。特別な回避機能をもつわけでもなく、
 フェイクは素の機動力で相手の攻撃を避けた。
 
 しかし、押し込めば当然相手陣営側に近づく。
 後方から遊撃担当のヘカトンケイル型が
 狙っていた。
 
Josui
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