遺伝子分布論 22K

ナミカの話4

  そのあとのシャックとの別の意味での格闘は
 もう思い出したくもない。しかし、結論から
 言おう、数年ののち、産めるようになった。
 
  仕事の話に移る。
 
 もともと、武術を学ぶうえでの理論的裏付けと
 して、兵法を学んでいた。個人の戦いで身を
 持って理解できることで、集団や組織の
 戦いに応用できることは多い。
 
 技にかかるかどうか、それは、その技を知って
 いるか、実際に受けたことがあるかがとても
 重要になってくる。同じ技、あるいは似た技を
 何度も受けていればさすがに人間の体は
 適応してくる。
 
 つまり、知ること、は個人の戦いにおいても
 非常に重要なことであった。相手のことを
 よく知り、そして自分に何ができるかも知る。
 
 そのうえで、フェイントなどを用いて、
 相手が完全に不利な状態を作る。体のバランス
 を失った状態や、防御しづらい状態など。
 
 そこに自分がもっとも力の出る形を作る。
 相手が弱い状態、自分が強い状態を作り出して
 そこでやっと技がかかる。
 それが知らない技であればなおさらとなる。
 
 通っているトレーニングジムには、会社の
 経営者もいる。
 
「ナミカさん、そういう話できるならコンサル
 なんか向いてるじゃないですか」
 
 その言葉がきっかけとなった。
 
 格闘技術を身に付けていくうえで、兵法以外に
 物理学なども学んだ。古典的なものから
 最新のものまで。物理的に何が可能なのか、
 おおまかに把握しておくためである。
 
 術後は回復のために安静にしていなければ時間
 がかなりあった。データをとるための時間も
 それなりにかかった。そういった、体力がある
 のに暇な時間を政治や経済、軍事外交といった
 ことの勉強に費やした。
 
 勉強というほどでもない、暇なので陰謀論などの
 眉唾なオンライン書籍などを読み漁ったり、
 そういった人たちが集まるサイトで投稿を
 読んだりしていただけだ。
 
 情報の虚実を見分ける力が付いたのかもしれない。
 
 ジムには小国の軍事関係者もトレーニングに来る。
 軍事をメインに政治経済など国にかかわること
 全般のコンサルタント事務所をジムのスタッフ
 にも手伝ってもらいながら設立することにした。
 

アミの話

  彼らが巨大な人型機械を操って戦うことに
 なったいきさつからまず書いていかなければ
 ならない。
 
 5人でまず音楽活動を始めたきっかけが、
 ウイン・チカが弦楽器奏者を募集しようと
 提案したからだ。アミがそれに申し込んだ
 のは、年齢が同じだった、ということも
 あるが、その募集メッセージに込められた
 キーワードに反応したからだ。
 
 彼らは音楽以外も趣味が合った。
 
 はじめは、端末からネットワークにつないで
 5対5の対人戦を行う古典的なゲームをやって
 いた。一番うまかったのは、親の影響で小さい
 ころからプレイしていたフェイク・サンヒョクだ。
 
 彼らはゲーム中の意思疎通もうまく、ランキング
 でもかなりの上位に食い込む腕前を見せた。
 もちろん音楽活動の合間の少ないプレイ時間で。
 
 そして、
 同じゲーム会社から3年前にシリーズものとして
 リリースされたのがスペースカーマ・リアリティ
 だ。
 
 これは、自宅から端末でネットワークに繋いで
 遊ぶものではなく、エンターテイメントセンター
 の一画にそれなりのスペースを占有している
 5人分の座席が付いた空間で行う。
 
 一人ひとりは壁で区切られていて、巨大人型機械
 の操縦席、という設定だった。こんなものが
 都市下層のセンターにリリース当初から置いて
 あるのは、裏で軍が関与している、ともっぱらの
 噂だった。
 
 これを5人でよく遊んだ。
 
 6人姉妹で家が経済的に苦しいウイン・チカの
 プレイ代を出してくれたのはメインの弦楽器を
 演奏して歌も歌うマルーシャ・マフノだ。
 これに管楽器を使うエマド・ジャマルの計5名。
 
 ゲームのルールはこうだ。
 
 5人はそれぞれ巨大人型機械に搭乗する。しかし、
 最初から搭乗機で戦うのではなく、搭乗機と
 類似の機能、性能を持った遠隔機を搭乗機の
 操縦席から操って、相手国の機械と戦う。
 
 戦場空間には宇宙母艦で向かうが、搭乗機は
 それぞれ一機の計5機、遠隔機は搭乗機あたり
 3機の計15機。
 
 これにサポートを行うミニオン機100機が、
 開始時と4分ごとに20機づつ出撃する。
 
 遠隔機がすべて破壊され、敵が宇宙母艦に接近
 したときのみ搭乗機で迎撃する。時間制限も
 あり、20分で決着がつかない場合はポイント
 制で勝負が決まる。
 
 相手の搭乗機を破壊せずに捕獲するとポイント
 も高い。
 
 センターにある操縦席はかなりリアルに作り
 込まれており、搭乗機を操縦しているときは
 回避行動や衝撃に合わせて席も振動する。
 
 人型機械は、それぞれに役割分担があり、
 火力があってチームの主力となるもの、防御
 主体のもの、シールドを多用して味方を守ったり
 バッテリーを渡してシールドを回復させるもの、
 ステルスして突然襲うものなど様々な機種がある。
 

アミの話2

  そして、その軍人がやってきた。
 
「なんだ、君たちか」
 トム・マーレイは驚いた顔を見せた。
 
 ちょうどリアリティのプレイを終えて5人が
 出てきたところである。
 
「あ、トムさんどうも」
 
 5人は体力づくりのため最近よくハントジムに
 通っていたが、そこでよくトムともいっしょに
 なった。
 
「なにって?スカウトだよ!君たちに
 戦闘機乗りになってもらうのさ!」
 
 巨大人型機械のことをこの時代のひとは戦闘機と
 呼んだ。先週から張り込んでいたが、今日やっと
 見つけることができたのと、プレイするときは
 それぞれハンドルネームを使うので、彼ら5人
 だとは気づかなかったらしい。
 
「先週僕らは地球に行ってたのさ、登山
 したんだぜ」
「それぞれサブウェポン持って山頂で
 演奏したのよ」
 
 サブウェポンとはそれぞれが得意とする小型の
 楽器のことだ。トムは何のことかあまりわかって
 ないみたいだが、地球で登山と聞いて興奮
 したみたいだ。
 
「いや、今回は5000メートル級だよ、
 夜行登山、ガイドなし」
「違う違う、ゲリラ戦の練習じゃないって」
 
 創作活動のために色々なところに行って色々な
 経験をする、という主旨らしい。旅費は
 マルーシャが工面してくれているのだろうか。
 
「アルバイトだよ、アーティストは何でも
 金がかかるんだって」とエマド。
 
「これはいいアルバイトになると思うけど」
 
「詳しく話を聞かせてもらおうかしら」
 ファイナンシャルプラニングの知識も持つウイン
 が言った。ウインは活動に関するお金の出入りを
 すべてカウントしていて、マルーシャが工面
 してくれたぶんも将来はきっちり還すつもりで
 いる。
 
 近くのお茶屋にみなで寄る。
 
「まず安全面について確認したいわ」
「遺族補償については軍から充分な・・・」
 
 というわけで話はまとまった。
 軍属はあくまでパートタイムとすること、
 なるべく自陣側に引き込んだ地点で迎え討つこと、
 搭乗機は充分な適正がない者は迎撃しない、
 不利な場合は母艦ごとすぐ退却すること。
 
 これらが通ったのは、この時代パイロット適正が
 非常に高い者が少数存在し、圧倒的な成果を
 出していたためだ。チームであればなおさらで、
 彼らは金額になおすと非常に高価だった。
 

アミの話3

  翌日からすぐに軍施設でトレーニングとなった。
 すでに今月のアルバイトが入っていたりしたが、
 軍から職場へは連絡がいって補填されている。
 
 トレーニングはまず適正検査からだが、
 遠隔機の操作はもちろん問題なかった。
 エンターテイメントセンターに設置されている
 操縦席より高性能なため、むしろゲーム時より
 扱いやすくなっている。
 
 そのため、トレーニングのほとんどは搭乗機の
 練習となった。これはかなり過酷である。
 旋回時の加速を受けながら戦わないといけない。
 
 男子二人は苦戦、女子3人は適正があった。
 とくにアミは遠隔機以上のパフォーマンスを
 示した。
 
「軍属でパイロットに採用されるひとには
 そういうタイプが多いよ」
 トムが言った。
 
「なんというか、加速のデメリットよりも、
 その場の実感というか、そういう中のほうが
 力が出る?搭乗機はラグも理論上無いしね」
 
「アミは星座の配置憶えていて旋回中も自分の
 位置わかっちゃうからなあ。ちょっとずるい」
 星座の配置、自分と相手の位置関係から的確に
 旋回コースを判断することができるらしい。
 
 というわけで男子二人には軍のトレーニングと
 ハントジムのトレーニングともに特別メニューが
 組まれた。
 
「まずは遠隔機主体で実戦に出てみよう」
 トムが母艦に搭乗してコーチ役をすることに
 なった。出てみよう、といってもまずは迎撃の
 かたちとなるため、軍施設でトレーニングしな
 がら出撃のタイミングを待つことになる。
 
 迎撃作戦の打ち合わせだ。トムの説明が始まった。
 
「まず概略からですが、我々コウエンジ連邦軍
 による、宙賊または第3国からの人型兵器および
 母艦による侵攻に対する迎撃、となります。」
 
「人型兵器4から6機の母艦の小隊構成に
 よる侵攻は近年増えてきています。従来の宇宙
 空母とAI戦闘艇による戦闘と異なっており、
 軍としては今後人型兵器を全面的に配備する
 かどうか、様子を見たいところです」
 
「そのため、一部パートタイムでの対応を
 認めることにしました。軍属の別の小隊の
 メンバーもあとで紹介します」
 
「宙賊と第三国はおそらく連携しています。
 背後関係は政府の諜報機関で調査中です。
 これはあくまで私の推測ですが、大国の兵器
 の試験を他国にやらせているのではないか」
 
Josui
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