コンピューターの罠

第一章 盤面の迷宮( 3 / 10 )

 

 ギュン、ギュン

  小刻みに跳ね返っていくパチンコ玉の偶然の成り行きに、一抹の期待を捨てきれぬとはいえ、翼に弾かれた玉はいつまでもVゾーンに入らない。しだい、しだい、アクションの頻度は減りだす。それにつれ翼は玉を拾わなくなる。出玉も加速して減っていく。ハンドルを動かしてもだめ、これというすべはない。わたしは苛だった。

  そんな時だった、ちょっとしたきっかけで、わたしが電動式パチンコ台の思ってもみぬ正体に気づくことになったのは

 電動式パチンコ台は、釘とバネの加減という、いたるところで聞こえてくるこの世界の謳い文句からは、どうにも考えられないことだった。それは、わたしの想像をはるかに超えていた!

 そこは、何か、見えざる壁で隔たった別の世界、情報下にある、もう一つの世界のようでもあった。わたしは、見知らぬ統制下ある世界に入っていく自分を感じた。

 

 もはや、これまでっ、盤面で一個の玉がアクション釘の間をすり抜けた途端、わたしは、思わずハンドルの金物を握る右手の指を拳を握るように、ギュッ と急に強めた。

  その瞬間、どういうことかっ!

 盤面に踊る一個の玉が、翼に弾かれたとみるや、一直線に空を切りVゾーンに入り込んだ。

  ギュルン、ギュルン

  盤面いっぱいに広がる光の明滅、ゼロ戦の翼の連続開閉が始まった。翼は勢いよく玉を拾っては、役物の中に放り投げていく、

おやっと、わたしは感じた。しかし、ただ、偶然と言うべきまれなことが起こったのか、あるいは、そこに何か必然じみたことがあるのか、わたしには、あえて考えてみるすべのないことだった。

 パチンコ玉は、コロコロと役物の斜面を転がっては、右か、左の穴に続々と入りだす、と見る間に、またも、斜面の中央を下った一個の玉が、そのまま真ん中のVゾーンの穴に入り込んだ、                   

  ギュルン、ギュルン 、唸りをあげる電子音、あふれかえる光の明滅、ものすごい調子良さ、またも、うってかえして盤面は絶好調な成り行きだ。さらに、二、三発、翼が役物の中に玉を放り投げたと見るや、ギュルン、ギュルン と、たちどころにVゾーンに入った。機械は、すっかり機嫌を直した感じになった。

 続々と、役物の中に玉を放り投げては、よどみなくVゾーンにも玉は転がる。  

 Vゾーンへの入賞は、満了の八回まで調子よく続いた。パチンコ玉は、下の受け皿から溢れ、小箱へと移った。盤面の展開は、再び、一挙に増勢へと転換し、とりあえずほっとした。余裕と期待を取り戻し、わたしは、なおハンドルをそのまま握り続けた。

 しかし、Vゾーンに入る調子は、ちょっと前と同じに、またもや、すぐ煮え切らなくなった。ギュン とアクション釘の間を玉はすり抜ける、たちどころに翼の開閉、翼に拾われた玉は、役物の斜面をコロコロと転がっては、右か、左の穴にはいる。とらえどころなく釘に絡み、反射したパチンコ玉を、どの瞬間にゼロ戦の翼が拾って役物の中に放り投げようが、決して真ん中のVゾーンの穴だけには転がらない。しばしば、翼は空を切りだす。

  ギュン 、とアクション、

  刹那、ハンドルを握る指に、ギュッ  と力を込め、わたしは、また、ハンドルを握る拳を急に強めた、

  すると、どうだ 、開いた翼が玉を拾ったとみるや、その玉は、空を描いてそのままVゾーンにスポッ と入り込んだ。

 もののみごと!

 ひとかけらの躊躇いもなく、Vゾーンを狙いすました翼の一打。

  ギュルン、ギュルン

盤面いっぱいの光の明滅、電子音が唸り出す、

 おやっ 、と、また、わたしは何事か感じた。

単なる、偶然?

 が、どういう現象が起こっているのか、はっきりしたことは解らない。わたしのパチンコに関する知識では、ハンドルの金具に、急激な圧力を掛けることと、玉がVゾーンに入ることには、直接結びつくものがまったくない。よほど偶然的現象、おうおうにして心の隅にしまわれ、消えてしまうかもしれないようなこと。

  ギュルン、ギュルン

  翼は、役物に玉を調子強く放り投げる。が、これはいいと思っているのもしばしの間、翼に拾われた玉は、さっきと違って、今度はなかなかVゾーンに入らない。わたしは、また焦りだした。このまま、十八回の羽根の連続開閉が終われば、もう全ては終わり。翼の連続開閉はそこで途切れてしまう。八回まで続く翼の連続開閉が一回で終る。いつもの感じだが、一回だけの入賞なんて尻切れトンボ、減った上の受け皿にパチンコ玉を補給するぐらいなもの。

  ゼロ戦は、その翼を振り続ける、

  ギュッ と、思わず、わたしは、またハンドルを握る指に急な力を込めた、

  すると、どうだ、翼に拾われた一発のパチンコ玉は、またも、空に一直線の軌跡を描いて、スポッ とVゾーンにそのまま入った。目を見張る翼の一打!

  ゼロ戦は唸りをあげ全てが快調、盤面は勢いを増しめったやたらな活況を示しだした。が、何故と思ったところで考えるすべはない。ただ、現象的に、おやっ、という思いがこみあげる。

第一章 盤面の迷宮( 4 / 10 )

 すぐ、ふたたび、ギュッ と、ハンドルの金具を、わたしは強く締めつけた。試してみようという明白な思いが、心に浮かんだ。即、翼が、一発の玉を拾ったとみるや役物の中に放り投げた。コロコロ と役物の斜面をまっすぐ転がったパチンコ玉は、なんと、そのままVゾーンに入った。ギュルン、ギュルン 、何かが起こっているという感じがしてくる。が、やはり、その正体は不明、考えの筋道が立たない。

 わたしは、またすぐ同じことを試みた。すると、翼に弾かれ、斜面をコロコロと転がった玉は、Vゾーンに入った。

  ギュルン、ギュルン

  盤面に溢れる光の明滅、唸りをあげる電子音、

  わたしは、ついに、ハンドルの金具を、ギュッ と強く拳で締め付けることと、パチンコ玉がVゾーンに入ることに、はっきりした因果関係を感じた。しかし、理由はとにかく、それよりも、打算的考えがわたしの心にすぐ浮かんだ。そう間をおかずやらない方が得になる。何発玉を拾おうが、翼は、最高、十八回までは開閉する。

  翼は調子よく玉を弾き、役物の中に放り投げていく。パチンコ玉は、ジャラジャラ と下の受け皿に落ちまくる。翼は、十八回目の開閉に近づく、ギュッ と、わたしはハンドルを握りしめた、

  その瞬間、翼は玉を拾い、またも、玉は一直線、空を横切り、スポッとVゾーンにはまり込んだ。

ギュルン、ギュルン 、予想どおりっ!

  理由は不明ながら、わたしは緊張する思いで、うまい手を見つけたかもしれないとほくそ笑んだ。次の時もそうだった、十八回の翼の連続開閉の終わり頃、ハンドルの金具をギュッと、握りしめるや、玉は、いとも忠実にVゾーンに転がり込んだ。 そして、満了の八回まで、そのことが続いた。

 翼の連続開閉は終わった、 パチンコ玉は、受け皿から溢れ、子箱二箱目を埋めだした。かなりの出玉になった。

 やったっ という思いがこみ上げる、

 何故そうなるのかは、解らない。ハンドルの金具にかけた急激な圧力が、電気的変化を起こしてハンドルの弾きに何か影響を与えたかぐらいは思えても、まったく定かではない。しかし、この際、理由というより結果の確からしさだ。

 秘密めき、真剣な思いが、その新たな方法とともにわたしの心にこみ上げてくる。目先の欲に惑わされ、何かと生活を圧迫していたパチンコでの金の使い込みが、負が正に転換するような有望な展望をわたしはパチンコに感じだした。

 さらに、心機一転、わたしは、ハンドルを握り、ただごとならぬ事が起こりだした盤面に意識を集中し玉を打ち出した。

  ギュン 、さっそく、アクション釘の間をパチンコ玉がすり抜ける。サッと翼は、それに連動して開きだす、 翼は、落ち込んでくる玉を弾き飛ばし役物の中に放り投げる。が、真ん中のVゾーンには入らない。続けて、何度かそれが繰り返される。

  しばしおき、パチンコ玉が、またアクション釘の間をすり抜けた、すかさず、わたしは、ギュッと右手に力を込め、また、ハンドルの金具に急激な圧力を掛けた。

  刹那、振り出した翼はサッ と開いた、

 どうだっ、真剣な期待、

 が、翼は空を切った。パチンコ玉はもってのほかと、翼から大きく外れた。

  アレッ  とわたしは思わず感じた。こんなはずではない、どうしたのだっ

 ギュン と、アクションが続く。即、わたしは、また同じ事を繰り返した。すると、どうだっ、またも、翼は大きく空を切った。

  まるっきり、だめ。アレッ、さっきのことはどうしたんだ、かなり確かなことに思えたが?!

  わたしは怪訝な感じを抱いた。 ギュン と、アクションが続く、わたしは、すかさず、ギュッ と力を込めてハンドルを握り、さらに試した。が、盤面に飛び出した玉は、釘と荒く反射し中心にある役物から大きく離れ、振り出した翼は空を切った。

  これはっ、まったくだめっ!、かえって悪くなる感じだ。

 わたしは、ほんのちょっと前、確信したばかりのことに疑問を抱いた。さっきのことは何だったのか、なにかのまちがいか?!

  どうにも、不思議だ、

 どうだとばかり、ギュン と、アクションは続く、わたしは、即、また、試した。が、翼は、大きく空を切る、

  ギュン と、さらにアクション、

  指に力を込め、 ギュッ と、わたしはハンドルの金具に圧力をかける。しかし、翼は、空を切る。わたしは焦り、怪訝な思いでさらに同じ事を続けた。が、これみよがし、翼は徹底して、わたしの試みをかたくなに拒むように甚だしく空を切るばかりだった。

 まったく、さっきと逆の現象が起こっている、そして、ついに、玉は、アクション釘の間をくぐりづらくなり、盤面の調子は、ガタッと落ちた。

わたしは思わず、ハンドルから手を離した。

 明るい展望がたちまち反転、いたたまれないようにわたしは席を立ち、これということもなく歩きながら、今起こったことを必死に考えようとした。しかし、それら現象をどのように考えればよいか見当がつかなかった。

  最初、確かに何かが起こった。ハンドルの出っぱった金具に、手でいきなり強い圧力を加えると、玉はどういうわけか繰り返しVゾーンに入った。が、その現象は、もう、すっかり無効になった。まるで、その認識が錯覚であったか、偶然の悪戯であったかのように、もう、事態は、霧散霧消しようとしている。わたしは、あごに手をやり、腰に手をやり、場内を歩きながら今のことを考えようとした。

第一章 盤面の迷宮( 5 / 10 )

 理由は、全くわからない。物理的、力学的には考えようがない、しかし、偶然とは言い難い何かが起こったはずだ。確かに言えることは、その何かが起こったということである。しかし、それが、反対の一方的事象で帳消しになった。どういう訳かまったく再現性を失った。

 いくら考えてみようとしても、まるで雲をつかむ感じになった。考えてみるべき端緒がどうしても掴めない。一つの確からしい事象が、アッ という間にどこかに消えてしまった。

 わたしは、心を落ち着かせようとカップコーヒーを買い、場内のベンチに腰掛けなお思案を続けた。が、それは、心に残るかもしれないような迷宮の出来事となるだけだった。

  わたしは席に戻り、再び、零ファイターのハンドルを握った。盤面にパチンコ玉は、次々飛び出し釘に反射し、絡み、流れていく、

  ギュン 、アクション釘の間を玉がすり抜ける、

  わたしは、思わず、それに反応し、ハンドルを握る手の力を、パッと、急に緩めた。さっきと逆だ。これと考えたわけではなかった。

 同じ事を、また繰り返してみる気はもうなかった。が、そんな衝動だけは心に残っていた。

 万策尽きた、半ば、反射的、苦し紛れ 、やけっぱち行為だった。

 が、どうだ 、拡がった翼は玉を拾うや、その玉を一直線、直接Vゾーンへと放り投げた。宙に描かれる見事な銀色の球体の軌跡、

  ギュルン、ギュルン 、パッと、盤面に溢れるランプの明滅、唸りをあげる電子音、

 オヤッと、わたしは思わずにいられなかった。翼は、次々とパチンコ玉を拾っては、役物の中に放り投げていく。めったやたらと快調な振る舞い、翼に拾われなかった玉さえ、やみくもにアクション釘の間をくぐり抜ける。もう、あらん限りの調子良さ、またもや得たりと、なにもかも機嫌を直した盤面の動きになった。

 すぐには、どうとも解らないこと!?

が、さっきの事と合わせ気になる?

 ギュルン、ギュルン

  翼は連続開閉を続ける。たちどころに、翼に拾われた玉がVゾーンに転がり込む、

  ギュルン、ギュルン 、ためらいのない調子良さ、不調のかげりはことごとに消え去った。調子のつぼを射ったかのようだ。

  その回、パチンコ玉は、淀みを見せず、快調に満了の八回までVゾーンに入った。翼の連続開閉は終わり、入賞の勢いの余韻のように翼はなお調子強い単発のアクションを繰り返す。

 しかし、なかなかVゾーンに決まらない。

 素早い玉の動きに目をやりながら、役物の右の穴、左の穴に転がり込むのをわたしは見つめた。しだい、じれったく感じる。

 スッと、アクション釘の間を玉がくぐり抜ける、ギュン と、翼が開きだす、

 パッと、また、わたしは、ハンドルを握りしめる指の力をいきなり緩めた。

 すると、どうだ!

 その瞬間、玉が翼に拾われたと見るや、一直線、Vゾーンに入りこんだ。

  ギュルン、ギュルン 盤面の激しいランプの明滅、唸りをあげる電子音、

 これはっ!

  わたしは、見失ってしまったものを、また見つけ出した気がした。さっきとやることは違うが、偶然とは言い難い何かがありそうだ!

 翼の連続開閉は続く。翼は勢いよく鋼球を拾い、ゼロ戦の役物の中に放り投げる。が、今度は、なかなかVゾーンに玉は転がらない。そのまま、十八回の翼の連続開閉が終わってしまいそうな気もする。わたしは、また、ハンドルを握る手の力を、パッ と、緩めた。ハンドルが動き出さないよう、指の形はそのまま、ぎりぎりに余分な力を急に抜く。

  刹那、翼に拾われた玉は、宙空に緩い軌跡を描いてVゾーンの穴にスポッ と入りこんだ。

  ギュルン、ギュルン

  握る拳の力を急に緩める、即、翼が開きだす、わたしの所作と盤面の動作は絶妙な間合いで繋がっている。まるで指示どおり、この電動式パチンコ台という機械は、動作しているっ!

 が、その理由はわからない。

 どう考えるべきか、まったく見当はつかない。が、何かの現象が起こっているのは確かだ。

  盤面は絶好調だ、迷いなく翼は玉を拾い、次々と役物の中に玉を放り投げていく、パチンコ玉は、右の穴に転がり、左の穴に入りこんでいく。しばし、わたしは、ただひたすら真剣な思いになってそれを見まもった。が、やはり、パチンコ玉は、Vゾーンに入らない。わたしは、また、握りなおしたハンドルの指の力を急に抜いた、

  ギュルン、ギュルン ものの見事、パチンコ玉は指示どおり、翼に拾われたと見るや、役物の斜面を転がり、Vゾーンに転がり込んだ。

  その回、そうやって、満了の八回までVゾーンにパチンコ玉を入れることができた。手元にパチンコ玉は溢れかえった。

 ハンドルを握る手を、ハンドルの金具が動かない程度、急に緩めると、必ず玉はVゾーンに入った。やることは逆だが、さっきのハンドルを握る手を急に強めた時とほぼ同じ現象が起こっている。何かとんでもないことになっているっ!

第一章 盤面の迷宮( 6 / 10 )

 今、確かに、前と違って、ハンドルを握る手を急に緩めるという方法は有効だ。

 が、事は単純ではないようだ。また、うまい手を見つけたと喜ぶ以上に、わたしは、何かより深刻なとんでもない思い、電動式パチンコ台の巷言われている事と、まったく別のイメージを感じだした。

 わたしは、さらに真剣な思いになってハンドルを握り盤面の展開を見守った。         

  ギュン、ギュン 、入賞の連続開閉は終わり、なお、調子にのって翼はアクションを繰り返す。が、やはり、パチンコ玉は、真ん中のVゾーンに入りこまない。

 巧みに、パチンコ玉は右の穴に転がり、左の穴に入り、人には計測しがたい鋼球の力学的変化で真ん中のVゾーンだけには転がらない。執拗にそれが続く、しだいに翼のアクションの頻度は減りだす。

 ギュン とアクション釘の間をパチンコ玉がすり抜ける。瞬時、コンピューターは零戦の翼を開く指示を出す。

 刹那、パッ と、わたしはハンドルを握る指を、また緩めた、途端、開いた翼は、空を切って閉じた。

 これはっ、ハンドルを急に締めつけた時と、同じ事の流れ!

 ハンドルを急に締め付けた時、最初、玉は正確にVゾーンに入った。が、それを繰り返すと、玉は、もうVゾーンをなにがなんでも避けだすかのように、決してそこに入らなくなる。

 今度も、まったく同じ!

  次のアクション 、わたしは同じ事を繰り返した。が、やはり、翼は空を切る。ギュン とアクション、わたしは、さらに確かめたくハンドルを握る手の力を急に抜いた。が、翼は空を切る。

 盤面の翼と玉は、わたしのハンドルを急に握る、緩めるという所作に対し、まるで、定められたパターンがあるかのように、同じフローで反応しているっ!

 単純な機械とは、まったく別の動きだっ!

 さらに、わたしは、同じ事を繰り返した。が、もう、翼は、執拗に、わたしの行為に逆らいたがるように空を切る。ついに、盤面全体でわたしの行為に反発するかのように、玉は荒く天釘にぶつかり、翼の回転する周りからパチンコ玉が大きく遠ざかりだした。翼のアクションも、しなくなってくる。そこまできて、わたしは、思わずハンドルから手を離した、

  ヒャッ とした驚きだった。

 瞬時、ハンドルの弾きは、鋼球をはじき出すのを止めた。わたしは、ふたたび、そのハンドルに触れるのをためらった。

 この機械は、わたしの行ったことを正確に記憶し、わたしの新たな行為に反応するかのような動き方をしている!

 この機械は、コンピューターで制御される機械ではないかっ?!

 一定の形で、これという瞬間にパチンコ玉がVゾーンに入っていく盤面の展開と、なにがなんでもそれを拒絶していく展開に、わたしはロボット機械のような精密な制御の可能性を感じた。

 夢にも思わなかった事!

 ありうべからざる事!

 この電動式パチンコ台という機械は、巷言われていることと全く違ってるっ!

 そうだった、台の裏側を見れば、ハンドル部分といわず、コンピューターにつながるコードでがんじがらめ、まったくロボット機械の姿をしている。しばしば、いきなり変化するトレンドの波、時に、一喜一憂、予測不能にめまぐるしく変化する盤面の成り行き、ついつい誘われるようにがんばっても、どうしても金ばかりする調子の波、ふり返ってみれば、この機械はコンピューターロボットではないかと、思い当たることが多々ある。

 だが、それ以上に驚愕せざるをえない思いが、わたしの心をよぎっていた。

 それは、単純に即断するには、あまりのことだった。

 電動式パチンコ台が、たとえコンピューターロボットであるとしても、半ば時代の成り行き、それまでのことかもしれない。が、そう素直に言うわけにはいかない動機があったのだ。それは、このロボットの振る舞い方に関わってくる。

  それは、迂闊に語りがたい事である。

 語ろうとしても、どうしてもできないことなのかもしれない。

 情報を支配する力、時代を支配しようとする力が、その事を支えているのかもしれない。日頃の情報からは、なかなか見聞きすることのない世界が関わってくる。

 しかし、日常的な己の身に関わることまで本当のことが言えなくなれば、やがては、そんな力が支配的になっていくのかもしれない。

 そこに、人とコンピューターの関わりの特殊な領域が浮かび上がってくる。

 電動式パチンコ台を制御するコンピューターは、わたしがハンドルの金具を強く握ったり、弱く握ったりする事に反応するような動きを示した。それは、何か、ハンドル部分の電気的変化とか、ものの弾みの類ではなく、このコンピューターのはっきりしたプログラムを感じさせるような動きだった。

 人が手を握る、緩める、その事自体に、このコンピューターは反応していたのではないか!?

 このコンピューターは人に反応するようプログラムされているのではないか!?

 わたしがハンドルを強く握るという情報に、そのコンピューターは最初肯定的に反応した、が、それが繰り返されるとその情報を厳しく拒絶し始めた?

 そこで、違った情報、ハンドルを握る手の力を抜くと、その情報にコンピューターはやはり、最初、肯定的に反応し、繰り返されると同じくその情報を拒絶しだした?

和賀 登
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