M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その2

四章 : 一人前のワンちゃんのころ( 4 / 26 )

43.ラベンダーとアイス

 

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 伊豆高原の僕んちの庭には、いっぱいラベンダーとセージが植わっていた。みんなお母さんが植えたものだ。

 

 最初は、僕の猫の友達、ボニーとミーシャのお父さんが、自分のイタリア風な庭に植えてたものを、僕んちで開かれた飲み会の時に持ってきてくれたんだ。いつか、お父さんが散歩のときに、石和さんの庭に入ってセージを触ったら、いいにおいがしたそうだ。

 

 それを褒めたら、いっぱい苗を持ってきてくれたわけ。ラベンダーにもいろいろ種類があるんだって、びっくりしていた。

 

 僕は、匂いは分かるけど、おいしさとは関係がないので、あまり気にならなかった。

 

 お父さんは、セージが気に入っていた。ちょっと葉っぱを撫でて、鼻のところに持っていく。いい匂いだろうって、僕にも嗅がせてくれるけど、匂いの違いが分かるだけだった。

 

 セージには、パイナップル・セージとか、チェリー・セージとかがあって、おいしそうな名前だったけれど、僕には実感がわかなかった。パイナップルとチェリーはおいしかったけど。

 

 でも僕のそんな考えが、変わることに出くわした。

 

 伊東と熱海の間にある、熱海ハーブガーデンに連れて行ってもらった時だった。もう熱海に近い崖の上に、広いハーブガーデンというところがあって、お父さんが行ってみようと言い出した。

 

 僕は、お出かけお出かけと、いつもと同じように一番で玄関でみんなが出て来るのを待っていた。お水も持って、スバルでお出かけ。

 

 ボロボロ、崖の上の道をお父さんの運転で進んだ。

 ちょっとしたドライブ。40分ぐらいはかかって、僕たちはハーブガーデンに着いた。どこかで嗅いだことのある匂いがいっぱい。

 

 海の匂いのする駐車場に車を止めて、犬の僕も入れる入口でお金を払って、小さなバスに乗る。シャトルバスは、どんどん登って行って、てっぺんでみんなを降ろすとまた入口に下りて行った。

 

 リードをつけてもらって、僕はルンルン。

 てっぺんの、いろんなところに、いろんなにおいがする。ワンちゃんの匂いは一番よくわかる。でも友達の匂いはしなかった。相模灘が良く見えるって、お父さんとお母さんが話している。あれが大島、あれが初島、とか言っている。

 

 ハーブとバラの大きな庭を少しずつ降りていく。僕んちにはバラはなかったから、分からなかったけど、ラベンダーとセージとタイムの匂いは知っていたから、同じにおいがいっぱいした。

 

 細道を下りながら、目の前にあるという初島の話をお父さんがしていた。

 

 今度は、チェルトを連れて、伊東から初島に行ってみようかと聞こえた。ボートに犬も乗れるそうだよと聞こえた。おやと思った。おいしいものが食べられるかもしれないと…。初島の港の近くの小さな屋台通りには、おいしいとれたばかりのお魚を食べさせてくれる店がいっぱいあるって。行こう行こうと僕は心で言っていた。

 

 ハーブガーデンを、だんだん降りてきて、ハーブで作ったいろんなものが並んでいる店や、それを作っている所なんかを見ながら三人で歩いてきた。

 

 お腹がすいたから何か食べようと、お父さん。レストランでは、テラスでよければワンちゃんも入れますと言っていた。わあ~い、僕も一緒だとよだれが出てきた。

 

 僕は、外でお父さんとお母さんが食事をするときは、ほんのちょっぴりだけのおすそ分けだけで、いつも我慢していた。だって、僕はどいうわけか、朝と夕方の一日に2回の食事と決まっていたからだ。

 

 ハーブガーデンで、お父さんたちがパスタを食べてる匂いがしたし、ハーブの匂いのするお肉もたべていたようだ。お肉はちょっこりだけ僕にももらえた。もうこれで終わりかなと思っていたら、おいしいにおいがしてきた。僕の大好きなアイスクリームの匂いだ。きっともらえるに違いないと、「頂戴光線」を強くして、お母さんを見ていた。

 

 コーンに入って、僕の前に下りてきたのはアイスクリーム。どこかで匂った匂いだと思っていたら、お母さんが、チェルト、ほらこれがラベンダーのアイスだよと僕にくれた。僕はあわてて、一口でコーンにかみついた。それはぼくんちの庭で匂っていた、ラベンダーの香りがしておいしかった。

 

 僕の頭の中で、ラベンダーっておいしい物なんだって、分かった。

 

 それから、庭のラベンダーの匂いを嗅ぐと、あのハーブガーデンのアイスクリームを思い出して、少しヨダが出るようになったんだ。

 

 それからも何回か、ハーブガーデンには僕も連れて行ってもらったときには、、必ずラベンダーのアイスを食べていた。

 

 でも、初島に連れて行ってもらった記憶はない。お父さんは忘れてしまったのだ。

 

 

四章 : 一人前のワンちゃんのころ( 5 / 26 )

44.タケノコ狩り

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 伊豆高原の僕んちと、僕に北海道リンゴをくれた優しい原さんちの間は、ミズナラの大きな木が56本と雑木と、竹藪だった。

 

 お父さんはいつもタケノコのシーズンになると、原さんちからはみ出してきた、この小さな竹藪を気にしていた。

 

 その頃、タケノコの被害がいろんなところで出ていたみたい。山全体を占領したり、空き家の庭を占領したり、手入れの悪い竹林が隣に這い出して、その家の土台を貫通して部屋の中にタケノコが生えてきたなんて話がいっぱいあったから。

 

 ほんとは、ぼくは一緒だったから知っているんだけど、お父さんは、よその家の別荘の庭とか山や林から、いろんな木や草花を頂戴してきてぼくんちの庭を豊かにしていた。

 

 原さんとの間の空き地からは、いい香りのする山椒の樹を掘り起こしてきて、風呂の側の日陰に植えたり、遠笠山道路の遊歩道の茂みからは、アジサイの株をいくつも掘り起こしてきて、ぼくが遊んでいると何時も怒られた畳の6畳の部屋の前の庭に植えたこともあった。

 

そ のアジサイは、紫陽花の好きなお父さんが選んだだけあって、しろ、うす水色、濃い水色、ガク・アジサイ、そして、いくつかの紫色の大きな株に育っていった。どうも、お父さんの若いころの恋人との思い出とつながってると、僕はお父さんの独り言から

感じていたが、知らんぷり。お母さんは、気がついていないようだった。きれいな、アジサイの塊ができていた。

 

 そう、タケノコのこと。

 原さんちの、庭から生え出したタケノコは、僕んちとの真ん中にあたりに、頭を出すようになってきていた。だからと言って、タケノコを掘ってきて食べるのは面倒だとお父さんは言っていた。

 

 お父さんは、本当は庭の竹を何本か切れば、外までは出てこないのにとつぶやきながら、原さんちの竹藪を恨めしそうに見ている。でも、迷惑だからと、おおっぴらには切れなかったようだ。そこで、まだ原さんちの雨戸が開かない朝早くだとか、夕方、原さんちの光りが灯りえなくなってから、お父さんは、出かけて、林の中で背の高くなったタケノコ、もう竹だったかな、をボキンとおって草むらに隠したりしていた。

 

 お隣づきあいは大変だ。関係を悪くしたくないからと…言っていた。それはそうだ。僕は夜中にも、うれしくて吠えたりするし…。僕の声は大きくてよく遠くまで聞こえるらしい。

 

 お父さんががんばって、タケノコはそれ以上僕んちには近づいてこなかった。

 

 それにタケノコには、もっと悪い思い出がある。

 タケノコ狩りのシーズンが近づくと、いっぱい、いっぱい電話が鳴るんだ。最初はお父さんもお母さんもていねいに間違い電話に応えていたようだけれど、いっぱい、いっぱいかかってくると、めんどうくさくなったらしくて、違います、ガチャンとなっていった。

 

 僕んちの電話が、どこかのタケノコ狩りの事務所の電話として、伊豆高原の観光案内のHPに登録されているらしい。

 

 だから、タケノコシーズンになると、いっぱい電話がかかってきたのだ。「違います、違います」ってばかり言っていられないと、今度はお父さんが、電話をかけてきた人に訊いていた。どこのタケノコ狩りに電話されているのですか?なまえは?所は?と聞きだした。何人かと間違い電話で話をしていた。お父さんはある日、チェルト出かけるぞと言って、ポシェットに僕にシートベルトを着けて乗り込んだ。

 

 時々、アイスクリームを買ってもらうセブンイレブンの前を通って、どんどん伊東の方に走っていく。ああここだ、のぼり旗が出ていると、お父さんは細い道に入って行った。

 

 そこの人と、かなり怒ってお父さんが話している。僕のうちの電話番号が、ここの案内番号になっていて、間違い電話で大変迷惑しています、と話している。HPを変更して、私の家に電話が来ないようにしてくださいと言っているのが聞こえる。

 

 帰ってきて、僕んちの電話番号は、どうも昔、このタケノコ狩りの店の電話だったらしいとお母さんに行っている。HPを変えてもらうから、間違い電話はなくなるだろうと言っていた。

 

 でも、そうではなかったんだ。HPは変わったようだけど、古い情報がのった雑誌とか、紙の観光案内が残っていたようで、なかなか間違い電話は止まらなかった。だから、僕んちでタケノコ料理がほとんど出てこなくなった。お父さんも、お母さんも怒っていたのだ。でも僕は知らないっと。

 

四章 : 一人前のワンちゃんのころ( 6 / 26 )

45.やってきた人たち

 

 

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 伊豆高原の僕んちには、東京とか、横浜とか、もっと遠い神戸とかから、たくさんの人がやってきた。

 

 僕んちには、一階の和室がお客さん用のたった一つの部屋だったから、泊まって行くお客さんは少なかった。でも、たくさんの人がやってきて、僕をなでお土産をくれて、お散歩に連れて行ってくれて帰って行った。みんな、みんなそれぞれにおもしろかった。

 

 おばあちゃんやおばさんみたいな身内の人以外で、はじめてきてくれたのは、お母さんの通っていた横浜のキリスト教会の牧師さんご夫妻。

 

 牧師さんは、いつも穏やかの笑い顔でいらしたし、奥さまは、その先生を後ろで支えている感じで僕も気に入った。いっぱい、なでてもらったし、お土産ももらったから、僕もサービス。奥さまの膝に乗ったり、先生とお父さんが呼んでいた牧師さんの顔を匂ったり…。

 

 いつだったか覚えていないけど、熱海の梅林で会った時なんかは、牧師さんの奥さまに僕はリードを持ってもらって、犬の僕が入れない建物をお父さんとお母さんが見に行ってしまった時、心配しないでもすぐ帰ってくるからと、僕のことを慰めてくれた。優しい人だなぁと思いながら、リードをうんと引っ張って、お父さんたちが入った入口を見続けていた僕を思い出す。本当は心配だったのだ。

 

 おおぜいでやってきてくれたのは、お母さんの横浜の友達の鈴木さんのご家族。明治学院の教授のご主人と、二人のおんなの子供さんが一緒だった。お土産ももらって、僕の大好きない、かわい~~~~~~って声をかけてくれる女の子にはぴったり寄り添ってなででもらっていた。二人が、とてもいいにおいがするので、気持ちが良かったね。

ご飯を食べて、そのあと、みんなで明治学院大のセミナーハウス・セレベンス館まで、散歩に行って、僕は大興奮。みんなが帰った後は、僕んちががらんどうで、急にさびしくなったのを覚えている。たくさんの人といると、たのしいのだと学んだのだ。

 

 二度もやってきてくれたのは、お父さんが大学時代にアルバイトをやっていて、そこでお世話になったという石川さんご夫妻。もうせん犬を飼っていたお二人は優しく、僕はべったりしていた。東京から車で来て、近くなんだけど道がわからないと電話が入った。僕とお父さんは、すぐにホンダのポシェットに乗って、大室高原シャボテン公園管理センターの駐車場までお出迎え。帰りに、いつものぶどうの実でタルトを買って、石川さんの車を先導して僕んちに着いた。お父さんと石川さんが話している間じゅう、僕は奥様に膝に頭を乗っけて、なでてもらっていた。石川さんは、その日のうちに下田まで行くんだって、短い滞在だった。でも、またまた僕の知った人が増えた。二度目の時は、もう全く警戒の気持ちはなくて、奥様にべったりしていた。

 

 伊豆高原の僕んちに遊びに来て、何日か泊まって行ったのは、お父さんの親友の炬口さん。高校2年の時からの40年以上のお友達だということで、お母さんも一緒にお酒を飲んで、和室に泊まっていた。話とお酒が大好きで、お父さんとずっと飲んでいたような気がする。

 

 でも、一つ困ったことがあった。それは炬口さんがまだ禁煙していなくて、一日に2箱もピースという、匂いは良いのだけれど、辛い煙のするタバコを手放さなかったことだ。

 

 お母さんが最初に反応した。うち中がタバコの匂いで満ちてしまったから。お父さんは、二日目には自分も困って、悪いけど、タバコは庭で吸ってくれないかなぁと頼んでいた。それから、炬口さんはリビングから出て、お父さんが作ったウッド・デッキでピースを吸っては帰ってきていた。

 

 炬口さんはプロのカメラマンで、日本中を旅していた。その頃、本拠は神戸の近くで、伊豆高原までお父さんを訪ねてきてくれたわけ。プロのカメラマンは、スナップみたいな写真は撮るのがいやらしく、なかなかカメラはとりださなかった。

 

 最初で最後に、カメラを構えて写真を撮ったのは、僕んちの玄関の前。僕をお父さんが抱いてくれて、そこに並んで炬口さんが写っていた。シャッターはお母さんが押した。

 

 あとになって、お父さんの高校の時の同窓会の炬口さんの記事の中に、その写真が使われていた。そして、その写真に並んで、高校時代の丸帽をかぶった高校生の二人の写真があった。それが、高校生の頃のお父さんと炬口さん。お父さんが、こんな写真もっていたんだとうれしそうに言っていた。

 

 いろんな人が僕んちに来て、僕も親しい人が増えて行った。だから、僕は人間が大好きな犬になっていったのだ。

 

四章 : 一人前のワンちゃんのころ( 7 / 26 )

46.伊豆高原のシュナウたち

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 伊豆高原の僕んちの周りには、今まで紹介したワンちゃんたちの他にも、いろんなワンちゃん達がいた。

 

 決してみんなとお友達ということではなかったけれど、僕は、みんなみんなと友達…の思いがいっぱいだったから、たくさんのワンちゃんに近づいた。

 

 同じミニチュア・シュナウザーの仲間から始めると、前に書いた初恋のローズテラスのアミちゃんは、何度もお店で遊ばせてもらったから、桜のアイスと一緒に決して忘れない。黒の細身の体が美しくて、会いたいなぁと今でも思う。

 

 定番の大室山の方への別荘の散歩道を行くと、丘の上に壁がブルーのペンション・スカイブルーがあった。そこのワンちゃんがいることはワンワンという鳴き声がしていたので、お父さんと近くまで登っていったけれどワンちゃんは見えなかった。

 

 そんなある日、定番の散歩道を登っていたら、角を曲がって小学生に連れられたぼさぼさのワンちゃんにあった。僕は、いつものように、さっそく挨拶に行く。匂いでシュナウザーだとわかった。けれど、お父さんにはシュナウザーだとは分かんなかったみたいで、その小学生に、なんて種類の犬ですかときいていた。小学生は、シュナウザーだと言った。わぁ~、ぼさぼさで分かんないやとお父さん。

 

 耳も眉毛も、シュナウのしるしのあごひげもみんなもしゃもしゃの毛の中に埋まっていて、シュナウだとわかる人はいないような恰好をしていた。お父さんは、毛を切ってやったらいいのにと言った。スカイブルーの周りを歩くと、ワンワンという声が聞こえたから、もしゃもしゃのままでも元気でいるみたい。

 

 ケーキ屋さんのぶどうの実に行く道の、二本下に並行して走る石ころ道があった。

そこに一軒、ポツンと平屋の別荘が立っていた。かなり手入れが悪く、屋根も、壁も、ペンキがはがれて、もともと、どんな色の家だったかもわからないような小屋だった。

ある日、お父さんとその道をガラスと工芸美術館の方に歩いていたら、ワーゲンが止まっていた。珍しいなとお父さんが言った時、別荘のドアが開いて、シュナウザーとその仔のお父さんが姿を見せた。そのシュナウとは、鉄の門扉で隔てられてうまく挨拶ができなかったのだけれど、僕と体の大きさも、たぶん歳も同じくらいのオスのシュナウザーだった。

 

 いつもは締まっている別荘だったけれど、時々、ワーゲンとシュナの姿を見るようになった。運がいいと、鼻を合わせることができた。

 

 僕とお父さんの散歩は、ときにはとても遠くまで歩くことがあった。その日は、遠笠山道路に大室山がすぐそばまで近づいたところにある、スペイン料理のグラナダから入り込んだ道を歩いていた。僕んちから、3~4キロも歩いていた。坂道を登っていくと、お父さんが、あれ、シュナウの置物があるよと僕に言った。それは二匹のシュナウザーのいる3階建ての建物だった。僕の声を聴いて、大人のシュナウザーがベランダに走り出てきた。その仔のお母さんが窓から見下ろしている。よく手入れされた、シュナウだった。

 

 お父さんがコンニチハと声をかけると、お母さんとそのシュナウが門のところまで降りてきた。僕にそっくり。その仔が総次郎君。もう一匹、子供のシュナウがいたけれど、名前は聞かなかった。シュナウの二頭飼いは初めてで、お父さんが話しこんでいた。

 

 その後、お母さんを引っ張って、その道を歩いていたら、すぐ前の別の家から出てきた優しそうなおばさんに、「総次郎君かい?」って聞かれた。僕は誰でも声をかけてくれたら、なでて貰いに近づいていく。お母さんが、これはチェルトですと言っている。僕は構わないで、その人のところに行って、大好きです光線を出してしっぽを振ってなでて貰った。総次郎君に間違えられようが構わない。

 

 ある日、ワンちゃんと一緒に泊まれるホテルの最初のホテル、プチホテル・サンロードの近くを歩いていたら、ある別荘にポルシェが止まっていた。

 

 お父さんは、車が大好きだから車庫に近づいてブルーのポルシェを見ていた。ワンワンと声が聞こえるなと思っていたら、シュナウの女の子、はなちゃんが庭に出てきた。女の子のシュナウは久しぶり。僕は仲良くなろうと、門扉のところまで行って、待っていたけれど、はなちゃんは吠えてばかりで、挨拶はできそうにもない。はなちゃんの声を聞いて、はなちゃんのお母さんが出てきたのだけれど、この子は犬がこわいらしくて、なかなか友達ができないのですと言った。

 

 同じシュナウでも、仲間や人間が大好きな仔と、嫌いな仔がいるんだと初めて知った。僕にはでも不思議だった。挨拶するのは当たり前。仲良くするのも当たり前と、犬のお父さんやおばさんから瀬田で教えられていたから…。友達ができるとうれしいのに…と思った。時々、ポルシェが止まっていると、はなちゃんの匂いがした。でも挨拶はできなかった。残念。

 

徳山てつんど
作家:徳山てつんど
M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その2
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