M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その2

特別寄稿( 1 / 1 )

M.シュナウザー犬、チェルト君とワニさん

 

 僕んちには、僕にとって3頭目のM.シュナウザー犬のチェルト君がいる。

 

 M.シュナウザーとの付き合いは、今からざっと30年前、アンナ(メス)との出会いに始まる。当時、まだ日本に3,000頭位しか入っていないマイナーな犬種で、活発で、元気なよく吠える、でも賢い犬だった。

 誰にも相談せず、突然僕がもらってきた。下の娘が生まれたばかりだったから、かみさんは大変。手のかかる赤ん坊が一度に二人になったわけだ。けれどいつのまにか、アンナはそのかわいらしさで皆の世界の中に深く入り込んでいた。郵便屋さんに噛み付いたり、野菜売りのおばさんを追っ払ったり、いろんなことがあって、でも19年間(人間でいうと90歳くらい)まで、下の子供と一緒に立派に生きてくれた。

 

 彼女がこの世を去った朝のことを、今も忘れていない。早朝、隣室で寝ていた僕の耳に、小さく「ワン」という声が聞こえたようだった。そのまま寝ていて、いつもの時間に目覚めたらアンナは舌をちょっと出して息を引き取っていた。体は温かかった。涙がいっぱいわきでてきて、どうにもならなかった。皆で泣いた。会社に電話して休んだ。秘書に「犬が死んだので休む。課長さんたちに伝えてくれ」と頼んだ。

 家中でお葬式となった。丈夫な犬で、荼毘に付してくれた隠坊さんが、「ご覧なさい。歯が全部残っていますよ」と見せてくれた。きれいな歯だった。翌日会社に行くと、秘書は「身内に不幸があった」と伝えていたのだが、僕が、「犬が……」といったので、会社を休んだ理由がみんなにばれてしまった。アンナのいなくなった後、家の空気の密度が薄くなった。

 

 そんなことから、けっしてもう犬は飼わないと家族みんなで決心して5ヵ月が過ぎた。しかしシュナウザーは僕たちのうちに突然入り込んできた。あるとき「見るだけ、見るだけ」とか言いながら犬やをのぞいていた。アンナと同い年の娘と目が合ったとき、子犬はその隙をついて家に入り込んできた。β(べー)と名づけられて二代目となった。クルクルとまとわりつくこの仔は、娘の世話で横浜で元気に暮らしている。

 

 三代目がチェルト君だ。犬を手元におきたいと思った時、もう他の犬種は選べなかった。僕の頭のなかには「犬=シュナウ」という図式ができてしまっていた。この仔は一腹の最後、6番目に生まれた仔で、兄弟達との競争にはいつも負けていたと思われる引っ込み思案な仔だった。

 

 犬屋さんの小学5年の男の子がくれた、ぬいぐるみのワニさんといっしょにチェルト君はやって来た。それから6年、チェルト君はそのワニさんのぬいぐるみを本当に大切にしている。ちょっと見当たらないといろんなところを探している。見つけると優しく噛んで持ってくる。本当に優しくだ。

 

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 どうしても分からないことが一つある。チェルト君は、おいしいものを食べたり、背中をブラッシングしてもらって気持ちよくなると、ワニさんと奇妙な儀式をする。

 彼はそっとそっとワニさんを噛んで自分の陣地のソファに登る。そしてガリガリ、ガリガリ、地ならしをした後でワニさんをそこにそっと置く。両手の間にぬいぐるみを置いたままちょっと祈るようにしている。そしてやおら身を起こして、自分のおチンチンの匂いをかぐ。それで儀式はおしまいだ。その後はもうケロッとして、ワニさんをつんと鼻の先で転がして見向きもしない。

 

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 いつか必ず、この儀式の意味をチェルト君に聞いてみたいと思っている。

 

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20034月 文芸社 「作家のラウンジ/エッセイの庭」に掲載されました。

あとがき( 1 / 1 )

 

 

 チェルト君の死から6年がたちました。この間2007年から、HPに上げてきた87編のエッセイを再編集して、この本(その1 その2)にしました。

 

 チェルト君の存在は、僕達にとってあまりにも大きく、彼の死は、僕達の生活、そのものを大きく変えてしまいました。

 

 なんだか、シュナウザーのチェルト君が、僕達、夫婦の本当のボンディングの存在だったのかもしれません。

 

 僕は30年間、3頭のM.シュナウザーと過ごしました。楽しい思い出と、死という悲しみを味わってきました。

 

 最初のアンナ(19歳で天国へ)から、娘と一緒に嫁に行ったб(ベーちゃん:14歳で天国へ)、そしてチェルト君(9才で天国へ)の3頭でした。

 

 最初のアンナとの出会いから、僕はM.シュナウザーから、ずっと卒業できませんでした。シュナウ離れができなかったわけで、シュナウザーだけが犬で、他のワンちゃんには全く心が動きませんでした。何だか、それだけ濃密な関係を持っていたシュナウザーの考えることが、かなり分かるようになった気がします。

 

 チェルト君は、ほんとに頭が良くて、自分を犬とは思っていなかったような記憶が幾つもあります。

 

 つらい時間が経って、やっと、このエッセイを書き始めた時のネタが、約90エピソードでした。これらの一つ一つのエピソードは、僕の心の中に鮮明に残っています。

 

 M.シュナウザーを愛する皆さん、読んでいただいてありがとうございます。M.シュナウザーの考えることの一旦でもお伝え出来ていたら、それが僕の喜びであり、チェルト君の存在した意味でもありましょう。僕には、チェルト君は偉大な存在でした。

 

 バイバイ、チェルト!!

著者プロフィール( 1 / 1 )

 

著者プロフィール

 

 

徳山てつんど(德山徹人)

          

1942年1月1日 東京、谷中生まれ

1961年 大阪市立大学中退

1966年 法政大学卒業

1966年 日本IBM入社

 

   システム・アナリスト、ソフト開発担当、コンサルタントとして働く

   この間、ミラノ駐在員、アメリカとの共同プロジェクト参画を経験

      海外でのマネジメント研修、コンサルタント研修を受ける

 

1996年 日本IBM退社

 

1997年 パーソナリティ・カウンセリングおよびコンサルティングの

        ペルコム・スタディオ(Per/Com Studio)開設

 

EMailtetsundojp@yahoo.co.jp

HP:          http://tetsundojp.wix.com/world-of-tetsundo

 

 

著書

 

Book1:「父さんは、足の短いミラネーゼ」   http://forkn.jp/book/1912/

Book2:「が大学時代を思ってみれば…」      http://forkn.jp/book/1983/

Book3:「親父から僕へ、そして君たちへ」   http://forkn.jp/book/2064/

Book4:「女性たちの足跡」            http://forkn.jp/book/2586/

Book5:M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その1」            

                      http://forkn.jp/book/4291

Book6: 「M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その2 」

                                                                           http://forkn.jp/book/4496

 

 

 

徳山てつんど
作家:徳山てつんど
M.シュナウザー チェルト君のひとりごと その2
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