M.シュナウザー チェルト君のひとりごと  その1

二章 伊豆の生活・子犬のころ( 7 / 17 )

10.猫の友達、ミーシャとボニー

 

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 おとうさんとの散歩は、毎日続いた。だいたいは大室山の上りのコース。途中、コーギーのアンナちゃんの家の前を通っていく。

  

 アンナちゃんが芝生に出ていると、僕は必ずあいさつをしていく。でも時には、アンナちゃんは豹変する。アンナちゃんのおかあさんが、野良の子猫たちに、玄関でえさを与えていたからだ。

 

  僕は、誰とでも仲良くするのがあたりまえだと思っていたから、特に猫に注意したり、敵だとなんて思っていないのだけれど、アンナちゃんは、僕が子猫に近づこうものなら、ふっ飛んでくる。そして、子猫を守ろうとぼくに吠え掛かる。ひどいときなんかは、ぼくの首の後に噛付いて、ぼくを振り回したり、芝生の上を噛付いたままチビのぼくを引っ張って走ったりする。

 

 ぼくの首の皮には余裕があって、だぶついて身を守るようになっていたから、ちっとも痛くはないのだけれど、ぼくにしてみれば大きな体の、太ったコーギーのアンナちゃんにはかなわない。ヒーヒーって、悲鳴が上がる。チビのぼくは、なきわめいて抗議するしかなかったのだ。犬には厳格なし階級がある。ぼくはアンアちゃんにはかなわない。

 

 アンナちゃんのうちの近くには、シーズーのリリーちゃんのうちがあった。リリーちゃんのおかあさんには、ぼくの鳴き声がよく聞こえていたらしくて、あぁ又チェルト君がアンナちゃんに噛まれているなって分かったそうだ。でも、ぼくは上に散歩に行くときは、必ずアンナちゃんにあいさつをしていた。

 

 アンナちゃんのうちを通り過ぎて、右に曲がって、きつい登り道を登っていく。そうすると、左側に、大きな新しいうちが立っていた。

 

 木で作ってあって、屋根は黒、壁はイタリア風に茶っぽく塗ってあった。全ての窓枠と玄関のポーチを支えるふとい柱は緑色だった。そして、イタリアの絵に出てくるような糸杉が庭にあった。なんだかイタリア風だなぁって、お父さんが言っていた。

 

 何度か通っていると、やせた、背の高いおじさんが声をかけてきた、なんて名前ですか、その犬はって。おとうさんが、チェルトっていうんですっていったら、イアリア語が話せますかって、おとうさんに聞いてきた。おとうさんは、少しは…といった。チェルトとは、イタリア語で、「もちろん」とか、「そのとおり」っていう意味なんだ。

 

 それで、チェルトなんて珍しい名前なんだなって、そのおじさんはいった。彼は、有名な、イタリアにもパトロンを持っている抽象画の絵描きさんだったのだ。おとうさんも2年ほどイタリア、ミラノに住んでいたから、おくさんも出てきて、なつかしそうにイタリアの話を三人でしていた。彼らは、ピサの近くのルッカという町に住んで、絵を描いていたらしい。ぼくのおとうさんのおとうさんも油絵描だったから、急に仲良くなったようだった。

 

 ぼくもかわいがって貰った。撫でてもらうのがぼくは大好きだから、撫でてくれる人をいつも探していた。その奥さんも、実家では犬を飼っていたんですよって、ぼくを撫でてくれた。

 

 そのとき、二匹の猫ちゃんが、家から出てきた。毛のふさふさしたペルシャという種類の猫で、まだぼくとあまりかわらない子猫だった。二匹はそっくりで、はっきりとは見分けがつかなかった。

 

 ぼくは挨拶しなくちゃ、と近づいた。ぼくは、犬でも、猫でも、人間でも、誰でも、挨拶はしなくっちゃと思っていたから、その猫ちゃんにも挨拶に近づいた。すると、一匹の方は後にさがって、フーってぼくを脅かした。僕は、ぜんぜん平気だった。怒っているとも思わなかったのだ。

 

 一匹の方が近づいてきて、ぼくとちゃんと鼻をあわせて、挨拶してくれた。それが、ボニーだった。これで、ぼくとボニーは仲のいい友達になった。ボニーのおかあさんが、二匹とも名前はメスみたいだけど、オスなんですよって教えてくれた。なぜ、ボニーとミーシャなのかはわからなかった。

 

 ミーシャの方は、その後少しずつ仲良くなっていくのだけれど、最初はぼくのことを犬だと警戒して、近寄ってはこなかった。僕は挨拶したかったのだけれど。

 

 これで、ぼくには猫の友達、ボニーとミーシャができたわけ。お散歩のときにも、挨拶できる友達が増えたわけでうれしかった。

 

 このとき、ぼくも、ボニーも、ミーシャも子供だったから、犬と猫の間の険悪な関係にはならずに友達になったのだ。でも、後で聞くと、犬の友達で猫の友達を持っているって、すごい少なかったのだ。

 

 そのうち、遊びにいらっしゃいって、おとうさんとそのおじさんは話していた。僕んちはその後、その石和さんとは親しい付き合いが始まるんだけど、これがボニーとミーシャとぼくの初めての出会いだった。

 

 そういえば、その後、友達になった猫はいなかった。やはり、珍しい友達だったのかもしれない。

 

二章 伊豆の生活・子犬のころ( 8 / 17 )

11.ゴミだし、ガチャガチャ

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 僕んちでは、週に3回はゴミだしの日だった。普通のゴミは週3回。ビン・カンは週に1回だ。

 

 初めは、大きなガサガサいうビニール袋をおかあさんが出してきて、普通のゴミをゴミカンから出して入れ替える。それで大きな黒い袋がひとつ。

ビン・カンの日には、おとうさんが専用の厚いビニールの袋に、おとうさんが飲んだベルモットとか、ジンとか、ワインなんかのビンをガチャガチャ、音を立てながら袋に詰める。カンも同じだ。これで二つの袋ができあがる。

 

 僕んちには、横浜で買ったちゃんとした遠出のできる車、スバルと、チャリみたいに伊豆高原のまわりで使うホンダのポシェットというちっちゃい車の2台があった。ゴミだしはだいたいおとうさんがこのポシェットでやっていた。

 

 ゴミの袋たちが出来上がると、おとうさんが、いつもの引き出しから、鍵をチャラチャラいわせながら取り出す。

 

 さいしょに「チェルトも行くか?」って訊いたとき、僕はガチャガチャいうカンやビンが怖かったし、ちっちゃい車も苦手だった。

 

 何度かその前にも乗ったんだけど、ポシェットの座席が狭くて、ちゃんと前をむいて座れないかんじ。おとうさんがブレーキを踏むと、なれないぼくはつんのめって助手席からフロアマットの上に転がり落ちていた。だから、僕はポシェットは苦手だった。

 

 どうしようかなぁと思っていたら、トランクを開けて、ごみを積み込むと、僕をすっと抱き上げてポシェットに乗っけた。元気のいいエンジンが唸りをあげて回転しはじめる。おとうさんは、ゴミ置き場に向かってクルマを走らせる。すると、うしろの席のビンやカンが、ガチャガチャガチャといい始める。

 

 僕はこの音が嫌いだった。だって、僕のよく聞こえる耳には、とても大きな音だったし、あたまにもびんびんひびいてくる。だいっ嫌いだったのだ。

 

 ガチャガチャに耐えながら、ほんの2~3分走ると、ごみ置き場。おとうさんが、ガッチャーンってその小屋の扉を開けて、普通のごみ袋を入れる。そして、今度はビン・ガンの番で、ひとつずつ袋から取り出して、かごに入れていく。ガチャン、ガチャンってビンが終わると、後はカンの番。

 

 僕は、ポシェットの助手席で、おとうさんがやってることを,早く終わらないかなぁと思いながら待つ。

 

 これで,家に帰るんだとうれしくなっていると、おとうさんが運転席に戻ってきて、エンジンをかけて「さぁ、今日はどこをまわって帰ろうか」という。ぼくは,何のことだかわからなかった。「じゃあセブン・イレブンにでも行ってみるか」って、ポシェットを走らせる。10分もかからないでコンビに着く。おとうさんが店に入ると、ぼくは助手席でお留守番。

 

 おとうさんが店に入っているあいだにも、いろんな事が起きる。小学生か中学の女の子たちが、ぼくを見つけたて「かっこいい!」っていってくれる。たしかにぼくは眉毛が太くて,あごひげがでかくて、耳は立っていたから、外見はかっこいい犬だったのだ。「かわいい」っていってくれても、知らない人なんだもの、怖いなっておもっていた。早くおとうさんが帰ってこないかなって、お店の出口を見張る。

 

 父さんは,クルマの本と何か小さなビニールの袋を持っている。僕はおとうさんに「遅いじゃないか」ってほえて見る。でも、とてもいい匂いがしたのだ。僕は、すぐなんだかわからないけれど、食べものだと直感した。だって、それは犬のお母さんのおっぱいのにおいだったし、おかあさんが散歩から帰ると、ぼくに必ず飲ましてくれるミルクのにおいがしたんだもの。

 

 家に帰ると、おとうさんとおかあさんが,おいしいねって食べ始める。カップのふたを取ると、甘い匂いのするやわらかなものが現れた。僕はとっさに、ワンってほえて、ちょうだいって言った。

 

 おかあさんが、僕の水のみ用のステンレスのボウルをもってきた。そこに、おとうさんが自分でたべてるその冷たい、いい匂いのするものを、スプーンに2~3杯落としてくれる。鼻を近づけると、いい匂い。

 

 食べものだ。舌をだしてなめて見る。冷たい。でも甘い、おいしい。ぼくは夢中になった。すぐ食べ終わってしまった。おとうさんの足に、もう一寸頂戴と手をかける。

 

 運がよければ、「はいこれでおしまい」と言いながら2スプーンくらいを落としてくれる。おいしい。それがアイスクリームって言うんだって、すぐに覚えた。アイスクリームは、だから3人で食べるおいしい食べ物だと僕の中には記憶ができた。

 

 ガチャガチャの日は、それからだんだん僕にはうれしい日になってきた。日によって,セブン・イレブンだったり、大室ショッピングセンターだったりしたけど、おとうさんは何かおいしいものを買って帰ってきた。

 

 そうなると,ガチャガチャと音がし始めると、僕も行かなくちゃって、玄関にいって、お父さん、早く早くって待つようになったんだ。

 

 それからずっと、ガチャガチャの日は僕にとっての幸せな日になっていった。

 

二章 伊豆の生活・子犬のころ( 9 / 17 )

12.歩けなかったガラス工場のグランド

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  僕は少し大きくなってきて、だいたい、散歩で困るようなことはなかった。

 散歩は楽しかった。気ままにやっていた。

 

 そんなある日、おとうさんが、おかあさんに、「チェルト、いちどちゃんと訓練したほうがいいかなぁ~」ていっていた。僕は訓練ってなんだろうと思った。そんな言葉、きいたことがないし、なんだろうなぁって思ってきいていた。僕のこと話してるんだとはちゃんと分かっていた。

 

 ある朝、おとうさんが、さあ出かけるぞって、おかあさんと僕と三人で、大きなほうの車に乗って出かけた。僕は、もうその頃は車が大好きだったから、お出かけ、お出かけ、って喜んでおかあさんに抱かれて、車の外を見てよろこんでいた。

 

 大室ショッピングセンターの前を曲がって、車は僕の知らないほうに走っていった。どこに行くんだろう、何か楽しいことやれるのかなぁって思っていた。すると、まもなく、車は大きな工場のようなところに入っていって、駐車場と言う車がいっぱい止まるところに止まった。

 

 すると、ドアを開けた瞬間、ワンちゃんのにおいがおしよせて来た。僕は、鼻をぬらしながら、誰がいるんだろうと匂いをかいだ。でも、友達のアンナちゃんとか、セロちゃんとかの匂いはしなかった。嗅いだことのないいろんな匂いが混ざっていて、僕は全く分からなかった。

でも、きっと楽しいことがあるぞって、おかあさんの持つリードをぐんぐん引っ張って、匂いのする奥のほうに歩いていった。

 

 するとどうだろう、広い広場にいっぱい、ワンちゃんたちが集っていた。こんなの見たことがないから、僕はびっくりしてしまった。誰が誰だかわからない。僕の背丈の3倍もありそうな、ゴールデン・リトリーバとか、ラブラドールだとか、アフガンだとか、シェパードだとか、大きな犬たちが、いっぱい、いっぱいいた。

 

 僕はびっくりして、オシッコがもれそうになったけれど、怖くはなかった。大きくない犬では、シーズーとかマルチーズとか、ミックスとか、とにかくいろんな種類の犬たちがそこにいた。

 

 僕は、たちまち、みんなに取り囲まれて、匂いを嗅がれた。大きな犬ばかりではなく、中型のシェルティーだとか、柴だとか、まったく今まで嗅いだこともない匂いの中に、僕は巻き込まれていた。びっくりはしたけれど、怖くはなかった。

 

 おとうさんが、誰かと話している。僕のことを話しているようだ。その相手が、後でだんだん分かってきたのだけど、警察犬の訓練をしている先生だったのだ。そうなんだぁ、僕は訓練されるために、ここにつれられてきたんだって分かった。でも、訓練てなんだろうと思っていた。

 

 たくさんの犬たちが、飼い主さんにリードを付けられて、みんな飼い主さんの左側を飼い主さんと、同じスピードでさっそうと歩き始めた。たくさんのワンちゃんが、大きな輪になって、時計の反対まわりで、そのグランドを何週もしていた。

 

 真ん中で先生が、xxさんん、リードを短めにとか、犬が先に歩き出したら、チョーカーを引いてゆっくり歩かせてくださいとか、いっている。ぼくは、座ってみんなが歩いているのを見ていた。

 

 すると、先生が、では一緒に歩いてみますかって、おとうさんに言った。僕は、おかあさんにリードを引かれて、そのぐるぐる回る犬の輪の中にはいった。そして歩き始めた。だけど、みんなのようには歩けなかった。右にいったり、左にゆれたり、おかあさんに遅れたり、ぼくの方が先に行ったりと、みんなのようにさっそうとは歩けなかった。一番のチビだったから、ぼくのおかげで、みんなの歩くスピードは落ちるし、つっかえたりして、みんなから見れば、ビケの出来の悪い仔だった。そんな風に歩くって、瀬田のおとうさん犬からも、おばさんの犬からも教えられたことはなかったから、僕は泣きっ面だったんだ、ほんとうは。

 

 すこしみんなと歩いていたら、先生が、ちょっと輪の外にでてくださいと言って、おかあさんとぼくだけが、みんなの輪の外に出された。ぼくたちは、みんながさっそうとあるいているのを外からながめていた。

 

 あぁ、これが訓練だって僕は思った。でも本当には、訓練はそれからだった。みんなが、その日の訓練費用を払って帰っていって、だんだんいなくなっていったとき、ぼくとおとうさんとおかあさんが、そこに残った。もうお昼近くになって、お腹もすいてきたし、のども渇いてきた。先生は、おかあさんに、リードのもち方、僕の歩く位置をコントロールするやり方だとかを一生懸命になって、教えてくれた。でも、ぼくには簡単ではなかった。どうしても、まっすぐ歩くことができなかったんだ。

 

 訓練って、楽しいことではないんだなぁと、そのとき僕は思った。でも、他のいっぱいのワンちゃんたちと会えるのは、僕はうれしかったから、気持ちがぐらついていた。

 

 その後も何度か、この日東光器のグランドで、僕は歩く訓練を受けた。でも、みんなと同じように、さっそうとは歩けなかった。悔しかったけれど、それが簡単にはできなかったのだ。でもそのかわり、毎回新しい友達ができて、いろんな犬の匂いを嗅ぐことができて、そこだけはうれしかった。こんなにたくさんのワンちゃんと、一緒になることはそれ以降もなかった。ここでは、犬の社会性の訓練もしていたのだ。これで、ぼくはどんな犬に出会っても、怖くなくなったし、ちゃんと犬のしきたりで、挨拶ができるようになったんだ。

 

 でも残念だったけど、シュナウザーのお友達は、その30頭くらいのワンちゃんの中にはいなかったんだ。だから、瀬田の店で嗅いでいたおとうさん犬や、おばさん犬、おかあさん犬の懐かしい匂いは嗅げなかった。

二章 伊豆の生活・子犬のころ( 10 / 17 )

13.僕の前を通りすぎるリンゴ

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 僕んちに一番近いお隣さんの原さんのおばさんが、ある日、北海道の親戚からいっぱい送ってきたのでお裾分けです、と箱いっぱいのリンゴを下さった。

 

 僕は、犬だけど、おとうさんとおかあさんが食べるものは、何でも食べることにしていた。中には、僕には食べられない辛いものなんかもあったけど、何でも食べてみていた。だから、原さんからもらったリンゴもみんなでおいしく食べた。

 

 甘酸っぱい香りが僕は大好きになって、おとうさんがリンゴの皮をむき始めると、あっ、リンゴだと急いで、お父さんのもとに走る。絶対に僕のこと忘れないでねって、おとうさんの足にちょっとぼくの手を出しておく。そうすると、皮がむかれて、リンゴの8分の1くらいが僕のボウルにコトンとは入ってくる。うれしい。おいしい。大好きだった。

 

 ある日、リンゴをむく匂いがしたから、もらわなくっちゃと急いで、おとうさんのところへ行った。たしかにリンゴを手に持っていたのだけれど、皮はむいていないようだ。へんだなぁと思っていたら、おとうさんは自分も食べないで、半分に切ったリンゴを持って、スーっと僕の前を通り過ぎた。そして、庭に出る大きなガラス戸をあけて庭に出て行った。何で僕にくれないんだろうて、思ってみていた。すると、おとうさんは、庭に最近作った、ちいさな屋根つきの家みたいなものの中に、そのリンゴを入れた。

 

 2~3日前に、おとうさんは素麺の箱を解体して、のこぎりを使って、ゴリゴリ板を切って屋根を作り、その屋根に、やはり素麺の箱を台にして柱を立てて、きれいなブルーの色を塗っていた。それがなんなのかは僕には分からなかった。壁のないちいさな小屋のようだった。

 

 そしてお父さんは、、庭の真ん中に、太い杭を打ち込んで、その上にその小屋を取り付けた。そのきれいなちいさな小屋が、僕んちのリビングからいつでも見られるようになった。

 

 とうさんは、僕の前を通り過ぎて、リンゴをその小屋に付いてる大きな釘に突き刺した。なんだ、僕にはくれないんだとがっかりしながら見ていた。

 

 とすると、しばらくして、僕には小鳥達が歌っている声が聞こえた。なんだろうと思って庭を見ると、そのちいさな小屋の横木に、ちいさなきみどり色の鳥達がとまって、おとうさんが釘に刺したリンゴを突っついていた。

 

 なんだ、お父さんは、リンゴを僕にはくれないで、小鳥さんたちにあげたんだと分かった。僕はがっかりした。僕だって食べたかったのに、一切れもくれないで、小鳥さんの小屋に持っていくなんて、とすこし怒っていた。

 

 でもしょうがない、僕にはどうすることもできない。小鳥さんたちは、チクチクいいながらおいしそうに、リンゴを食べていた。

 

 とそのとき、大きなキーという鳴声が聞こえてきた。チクチクといったかわいい声ではなくて、ギャー、ギャーとも聞こえる声だった。

 

 僕は番犬だから、なんだろうと思ってガラス戸をすかしてみた。すると、そこには、これまで見たことのない、灰色の大きな鳥がいた。ギャーギャーってうるさい。

そして、それまで、リンゴを突っついていていたちいさなきみどり色の小鳥さんたちを追い払っていた。

 

 ちいさな鳥、目白さんって言うんだって、お父さんがあとで教えてくれた鳥は、貝塚ぶきの生垣の中に隠れて、様子を見ていた。大きな鳥、それはヒヨってい言う鳥だったのだけど、独り占めにしてリンゴを食べていた。

 

 僕は悔しかったから、ワンワンて吠えてみたけど、ヒヨさんは平気。見てる間に、おとうさんの持っていったリンゴは、みんなヒヨに食べられてしまった。

 

 それを見ていた、おとうさんは、またリンゴを新しく切って、僕の目の前をリンゴを持ってスーッと通りすぎて、また庭に出てリンゴを小鳥さんの餌場に出していた。

 

 僕は、つまんなかった。そして、悔しかった。どういう時には、僕にくれて、どういう時には、僕にはくれないのか、全く分からないでいた。だから、僕は、リンゴは必ずもらえる食べ物ではなさそうだと覚えた。

 

 また目の前を、僕に大好きなリンゴがスーっと運ばれていく。悔しいなぁ。でも、おとうさんには吠えられないし…。

  

徳山てつんど
作家:德山てつんど
M.シュナウザー チェルト君のひとりごと  その1
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