堕ちこぼれウィズと魔法の成績表

ゆ、夢が叶うよ!( 9 / 11 )

補習通知書け!

 「そうですか!では、交渉成立ですね。おめでとう。君もいずれトランタンを見返す事が出来るでしょう。努力は必要ですがね。」

 僕は手を差し出して先生と固い握手を交わした。相手がホーリーの方がいいなと思いながら。

 「では、明日からの補習通知を書いてあげよう。」と言って立ち上がり、図書室を後にし、職員室へと向かっていった。

 僕は職員室までの廊下で一つくしゃみが出た。「ヘックション。」

 「おや?風邪ですか?」とアビゲイル先生。

 「いえ、何か感じたもので。」と僕。

 「そうですか。」とちょっと不思議がられたが、流されてしまった。

 職員室前まで来ると担任のパット・アズモック三級魔術師も残っていらっしゃるらしく、他の二人の先生とのお話が聞こえてきた。

 「コンドリヌ先生は明日からの休暇中、何をなさるの?」とパット先生が質問なさった。すると女性の声がそれに応えた。

 「わたくしのクラスは特に成績の悪い生徒もいませんでしたので、船で世界一周の旅に行く計画にしておりますのよ。ほほほ。」と少し自慢げに聞こえた。

 「僕は一人補習しなくちゃならない生徒がいるんです。」と今度は対照的に男の声が力なく言った。

 「私のクラスにも補習が必要な生徒がいるのですが、私の母が介護の必要な状態になってしまい、休暇中だけでも介護してやりたいと思いまして…でも生徒も大切ですし…少し迷っているんです。」とパット先生の弱気な声が聞こえてきた。

 それを聞いていた僕たちはこれは不幸中の幸いだと顔を見合わせ、慌ててその場に出て行った。

ゆ、夢が叶うよ!( 10 / 11 )

補習カモン!

 パット先生は、ダイエット中の太ったスイカの様な女性と、アメンボの様に痩せた男性と話していたみたいだ。その女性は第二学年の担任ペッグ・コンドリヌ三級魔術師で、男性の方は第五学年の担任デクスター・ヒューズ二級魔術師だ。

 「パット先生、今仰られた事でご提案があります。」とアビゲイル先生はかっこ良く登場した。そして僕もかっこいい、かな?パット先生は少し驚かれ、僕を見てなお驚かれた。「ウィズ。まだ帰ってなかったのですか?」とパット先生が目尻を吊り上げられたので、アビゲイル先生が割って入られた。

 「私が今まで彼を引き止めていました。荷物を運んでもらっていました。ところでパット先生が補習をしなければいけない生徒とは、このウインザード君ですね?」と一度鼻をヒクつかせて質問なさった。

 「ええ、そうですけどご提案とは何でしょう?」とその場の国民の疑問を代表してたずねられた。

 「はい、この休暇中ウインザード君に私の研究を手伝ってもらう事にしました。そこでもし先生が要らぬお節介だと思わないで下さるなら、私が彼の補習も引き受けます。いかがでしょう?お母上の介護をしておあげになれば、きっと喜ばれると思いますよ。」とアビゲイル先生が仰ると、パット先生は、「ええっ!よろしいのですか?私の方は願ってもない事です。ですがこの子はとにかくやる気がないので大変難しい生徒です。それでも引き受けてくださるのでしょうか?」と僕を見ながら渋い顔をなさった。

 「勿論承知の上です。私がパット先生に代わってウインザード君をビシバシ補習すると言う事でよろしいですかね?」と確認するように仰った。パット先生は驚きと感激で「ありがとうございます。」を何度も連発し、小躍りなさった。

 「では、委任状とご両親に宛てた補習通知を書いてくださいますか?」とアビゲイル先生が仰ると、パット先生は慌ててご自分の机に戻り、二つの書類を作り始められた。

ゆ、夢が叶うよ!( 11 / 11 )

期待感バリバリ?

 他の二人の先生は社長に「素晴らしい」だの「立派です」だの「教師の鑑です」だのと賛辞を三時以降も並べ立てていらっしゃった。勿論もう既に夕方の四時を回っていたんだ。

 僕はその間、黙って大人しくしていた。心には新たに芽生えた期待感を抱きながら。

 十分ほどでパット先生は書類を作り、僕に補習通知を、アビゲイル先生には委任状を渡され、僕にはもう遅いから帰りなさいと言って夕日の当たる、禿げ頭の様に輝く校舎を追い出された。

帰り際にアビゲイル先生は成績表を返しながら、僕にウインクしたんだけど、いるかいないか分からないその彼女にしてあげれば、と思いつつ家に向かった。


アリシアには教えない( 1 / 4 )

ホムンクルス「ドコ?」

 僕は自宅に向かって僕の自尊心より短い足を繰り返し右左と踏み出して、お隣のアリシアの家の玄関まで辿り着いた。

 「ふ~っ、アリシアには社長との事をどう説明しようかな?」なんて独り言をこぼしていると、アリシアの家の玄関から何やらエッチじゃなかった、立派なでもないな、ちっぽけな鳥の様な生き物がこちらに向かって飛んで来るのが見えた。ちょっと説明が必要だよね。このちっぽけな鳥みたいな生き物ってのが、この世界では魔道生命体として存在しているホムンクルスって呼ばれる生き物なんだ。魔法の力で生き物を生み出すなんて凄いよね。男の人が生み出すと男の人がお母さんなのかな?「俺、ママだぜ。」って世界かな?

 「おい、小僧!何ヘラヘラした顔してんだよ。アリシアがお前の帰りを今か今かと待ってるんだぜ。」とのっけからお叱りのご様子だ。このホムンクルスの名前がココって言うんだけど、彼なのか彼女なのかは定かではないんだ。かなりご高齢なのは確かなんだよね。アリシアの家のかなり前の祖先の方が生み出されたと教えてもらった記憶が、幼き頃に夢を見ながら布団に宝の地図を描いた記憶とお手手つないでスキップしている感じだからね。

 「やあココ、ちょっと遅くなっちゃった。その訳もアリシアには話しておきたいんだけどね。今彼女と話せるかな?ね~彼女~お茶でもしない~っ。って言っているって伝えてよ。」

 「だからアリシアはお前を待っているって言ってっだろ。彼女は自分の部屋にいるから無駄口を叩いてないで、さっさと会いに行けよ。」とココ。

 「は~い、お邪魔しちゃいま~す。」と言ってアリシアの部屋に向かった。


星兎心
作家:星兎心
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