看護婦さんが、俺の腕にかかった血を拭いてくれている。
血塗れになった男が運ばれていく。
床の上に、折れたカッターの刃が落ちている。
俺は、冷静だ。
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よく見えている。
血は、たくさん出ていたが、傷は、それほど深くはない。
たぶん、あいつは助かる。
「あー!あー!あー!」
「ばぁっ!ばばっ!ばぁー!!」
血塗れになって運ばれていく男の姿を見て、他の患者たちが暴れ始めた。
「ありがとうございました」
俺は、いつものように診察室を出ると、パックのフルーツジュースを買って、病棟の外に出た。
般若の夢を、よく見る話はしなかった。
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