江戸川日記

僕は想像している( 8 / 14 )

少し前の日本には、グローブを買えない子供たちがいた。グローブを自分たちの手で作ってまで野球をしたがる子供たちがいた。その子たちは、いまの子供たちと比べると、もの凄く貧しかったはずだ。だけど心はきっと物凄く豊かだった、と僕は思った。

僕は想像している( 9 / 14 )

「河川敷で野球をしていると、直ぐにボールが無くなっちゃうから、そんな時は、近くの学校に行くんだよ。で、そこで部活をやっている学生が、ファールや、ホームランを打つのを待ち構えて、飛んで来たボールをかっぱらってさ。そしたら球拾いに来た下級生たちが「このガキ!何やってんだ!」って追いかけて来るから、俺たちは必死で逃げるわけ。いつもギリギリのところで逃げ切ってさ。「あいつらも大したことねえな。ヘッヘッヘッ」ってな感じで、誇らしげにボールを持って帰ってまた野球を続けるんだよ」

僕は想像している( 10 / 14 )

「だけど冷静になって考えたら、部活でバリバリに練習している年上の兄ちゃんたちから、俺たちみたいなガキが、毎回、毎回、逃げられるわけがないんだよな。後で、その学校に兄貴が通っているやつに話を聞いたら、先生が「途中まで追いかけたら持って行かせてやれ」と言ってたらしいんだよ。昔は、そういう大人がたくさんいたんだよ」

僕は想像している( 11 / 14 )

「野球をやってるとさ、必ず近所のアル中じじぃが乱入して来るんだよ。昔は、昼間から酒飲んでブラついている、じじぃがたくさんいてさ。「よし!俺が野球教えてやる!」って来るんだよ。そういう人たちは正直言って、みんな下手糞なんだけど、大人だから、球も速くて、打球も飛ぶから、みんなそれを見ちゃうと、何でも「はい!」、「はい!」って素直に話を聞いてさ」

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