僕は敗北した( 7 / 10 )
我に返った僕が一番最初に思ったことは、タップダンスシチーが負けたことでも、今後の生活のことでも、どうしてここにいるのだろうか、ということでもなく、「東京の空には星が無い・・・」ということだった。
僕は敗北した( 8 / 10 )
帰りの電車賃まで馬券につぎ込んでしまった僕は、新小岩のアパートまで歩いて帰ることにした。高速道路のライトに照らされた道を歩きながら僕は実感した。
「本当に負けたのは僕だ」
ということを。
僕は敗北した( 9 / 10 )
「お前と会った仲見世の~♪」
河川敷から橋に上がろうとした僕の耳に、陽気な歌声が聴こえて来た。振り返ると男がサンダルをシュッシュッシュッと鳴らしながら歩いている。
「煮込みしかないくじら屋で~♪」
僕は、男が暗闇の中へと消えるまで立ち止まって男の陽気な歌声と、サンダルのシュッ、シュッ、シュッという小気味いいリズムに聴き入っていた。