僕は敗北した( 9 / 10 )
「お前と会った仲見世の~♪」
河川敷から橋に上がろうとした僕の耳に、陽気な歌声が聴こえて来た。振り返ると男がサンダルをシュッシュッシュッと鳴らしながら歩いている。
「煮込みしかないくじら屋で~♪」
僕は、男が暗闇の中へと消えるまで立ち止まって男の陽気な歌声と、サンダルのシュッ、シュッ、シュッという小気味いいリズムに聴き入っていた。
僕は泣いている( 1 / 10 )
年が明け、春が来て、僕の大学生活は6年目に突入した。その頃の僕は、なぜ大学へ通っているのか、が全くわからなくなっていた。毎朝、大学へ行こうとして駅へ向かうと胸が苦しくなった。それでも我慢しながら、大学へ通っていたある日。駅の改札の前で僕の身体は全く動かなくなってしまった。